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第二章 大迷宮バルキオン
2話 再発行
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「次の方どうぞ~!」
「は、は~い……」
溌剌とした声で次の探索者を呼ぶ受付嬢。
それに少し反応が遅れて、気まづくなりながらカウンターへと向かう。
「ようこそ探索者協会バルキオン支部へ! 本日はどのようなご要件でしょうか?」
次の接客相手である俺達がカウンター前まで来ると、良く通る明るい声でカウンター越しに受付嬢は微笑む。
そのまだ聞き慣れない都市の名前と、随分と聞き慣れた質問に若干の違和感も覚えながら答える。
「えーっと……俺達、昨日このバルキオンに来たばかりの探索者で……大迷宮に入るための許可の更新とトレジャーバッチの再発行をお願いしたいんですけど……いいですか?」
「あら! 新規の探索者さんだったんですね! 私はこのバルキオン支部受付嬢歴10年の大ベテラン! ベルルカ・ハンプソンと申します! 以後お見知りおきを!」
「どうも」
驚いた表情から一転して天真爛漫な笑顔で自己紹介をする黒い長髪の受付嬢ベルルカ。
大して他の迷宮都市から来た新規の探索者なんて珍しくないだろうに、とても素晴らしいリアクションを見せてくれる。
「それで許可証の更新とトレジャーバッチの再発行でしたか……一つ目の更新は直ぐに終わりますけど、トレジャーバッチの再発行は色々と罰則が御座いますが……」
「はい。それは重々承知です。自己責任なので罰則でもなんでも受けます」
要件の再確認をして気まずそうに尋ねてくるベルルカにそう答える。
彼女の気まずそうな様子から察するにトレジャーバッチの再発行手続きは探索者からのクレームが多いのだろう。
普通の探索者からすれば色々と納得できない罰則が多いからな。
「まず仲間の更新から先にお願いします。そっちの方がいいですよね?」
「そうですね……再発行は色々と確認や手続きがあるので、まずはそちらの方から対応させていただきます。トレジャーバッチの提示をお願いしてもいいですか?」
ベルルカはホッと胸を撫で下ろした様子で隣のアイリスに声を掛ける。
「お願いします」
「お預かりします。少々お待ちください。直ぐに確認してまいります」
ベルルカはアイリスからトレジャーバッチを受け取ると、奥の方へそそくさと行ってしまう。
そもそも何故、大迷宮に入るために、しかも大迷宮ごとにこんな更新しなければいけないのか?
その理由は大迷宮の安全性を高める為だ。
日や、多くの探索者が出入りする大迷宮。その全ての探索者が善良な者とは限らない。
無許可による探索、ドロップ品の横取りや殺人など。違法な行為で探索者に迷惑をかける者、探索者協会の定めたルールに反した者と言うのは少なからずいる。そんな悪事を働く探索者の事を『アウトハンター』と呼び。この更新手続きはその『アウトハンター』を見つけて減らすためのルールだ。
まあ実際のところはこんな手続き一つで『アウトハンター』達が減っている訳では無いのだが、それでもしないよりはマシ、探索者の管理をする上でこの作業はそれなりに機能しているようで、この手続きは必要らしい。
「お待たせしました。確認は終わりました。何も問題は無かったので許可の更新は受理されました。これからのご活躍を願っています、Sランク探索者アイリス・ブルームさん」
「ありがとうございます」
数分も経たずして戻ってきたベルルカは笑顔でアイリスにトレジャーバッチを返す。
これでアイリスは大迷宮バルキオンへの探索を許可された。
まあこの更新は問題なく終わるのは分かっていた。アイリスは品行方正、優等生もびっくりするほどのマジメ探索者だ。
問題はここから───
「それでは次にトレジャーバッチの再発行ですね。ここのメインカウンターで手続きするには時間がかかりますので、あちらのサブカウンターに移動をお願いします」
「わかりました」
───果たして俺は何も問題なく再発行の手続きをやり過ごすことが出来るだろうか。
そんな不安が胸中を渦巻く中、ベルルカと共に人気の少ないサブカウンターへとやって来る。
時間がかかる手続き専用のカウンターなのかすぐ側には椅子まで用意してある周到さだ。
「立ち話も何なので、お掛けになってください。アイリスさんもどうぞ」
「「ありがとうございます」」
ベルルカに促されて椅子に座る俺とアイリス。ラーナは俺の膝の上で寛いでいる。
「それじゃあ先ずは色々と確認からさせてもらいますね。お名前とトレジャーバッチを初めて発行した探索者協会の支部を教えて頂けますか?」
「はい。名前はファイク・スフォルツォです。トレジャーバッチを発行した支部はクレバスです」
ボロが出ないように余計なことは口走らず、ベルルカに聞かれた最低限のことを答える。
「えっと……失礼ですがファイクさん、年齢はお幾つですか?」
「17です」
「探索者登録をされたのはおいくつ頃で?」
「13ですね。その頃に良くつるんでいた友達と二人で探索適正試験を受けました」
「4年前ですね……畏まりました……」
ベルルカはいつの間にか用意していた紙にペンを走らせて今の内容を書き留める。
ちなみに探索者になるのに年齢制限と言うものは無い。
実力や能力があって、適正試験に受かりさえすれば誰でも探索者にはなれる。
「ありがとうございます。それでは次に分かりきっているとは思いますが先ずは再発行をするにあたって生じる罰則の確認をさせていただきます」
「はい」
ベルルカは俺の回答を書き留めた紙を近くにいた職員に手渡して何やらお願いをすると、ニッコリ笑顔で話を続ける。
恐らく、今の回答から本当に俺が探索者として登録されているか調べるのだろう。
「再発行するにあたってファイクさんが受けていただく罰則は4つです。再発行金10万メギルの支払い、トレジャーランクは最低ランクからのスタート、今まで探索の実績・功績の抹消、探索適正試験の再試験です」
「はい」
綺麗な指を4本立てて説明を始めるベルルカ。
「こちらの罰則は原則、必ず受けていただきます。そこはどうかご了承ください。ちなみにですが再発行の理由はトレジャーバッチの紛失ですよね?」
「そうですね。落としたのか、盗まれたのか気がついたらトレジャーバッチが無くなってて……」
″はっ。とんだ猿芝居だな″
″……うるせえ″
平静を装ってベルルカの質問に答える俺を見て、スカーがバカにしたように笑ってくる。
このクソジジイ、人の一世一代の大芝居を馬鹿にしやがったな。後で覚えてやがれよ。
「……」
スカーに煽られて表情筋がピクピクと強ばるがそれを何とか押さえつけて、努めて「残念だ」と言わんばかりの悲しそうな表情を装う。
「それはお気の毒に……心中お察しします。やはり年間で見てもファイクさんのような被害にあった探索者は少なく無くて、ひと月に10人ほどファイクさんと同じように再発行に来られるのです。それと同じくらいに虚偽の被害を装って探索者でもないのにトレジャーバッチの再発行をする輩も居まして……」
「そっ、そうなんですかぁ~?」
思わず声が裏返る。
まさに今の自分は虚偽の報告をしてトレジャーバッチを再発行しようとしているのだから仕方がない。虚偽の方向性が違うが嘘をついているには変わりはない。
全身にジトリと嫌な汗が浮かんでくる。
「はい。ですので最初にしたように簡単な質問をして本当にその人が過去に探索者として公式に登録されているか調べなければいけないんです。ただいまファイクさんの登録情報を裏で調べているので少しお待ちください」
「は、は~い……」
努めて平静を、努めて表情が不自然にならないように全身を力ませる。
探索者協会側に俺がトレジャーバッチを紛失した真意を確かめる術は無いし、俺は公式に探索者として登録されているのは間違いない。確実にトレジャーバッチの再発行は出来ると思うのだが、不安で仕方がない。
こんな緊張は初めてだ。
大迷宮で強敵なモンスターと戦う時のような緊張感とは別のベクトルを持った緊張感。
それこそカルミナティと戦った時よりも緊張しているかもしれない。
「あっ! 分かりましたか?」
だいぶ懐かしく感じる暴虐の牛頭人を思い返していると、先程ベルルカに頼み事をされていた探協職員が奥から戻ってきてベルルカに何やら耳打ちをしている。
ベルルカは耳を寄せて「ふむふむ」と真剣な様子で職員の報告を聞き届けると再びこちら笑顔で向き直る。
「はい! 確認したところ問題なくファイクさんの登録が確認されました! 問題なく再発行ができます!」
「そ、そうですか……よかった……」
無事にトレジャーバッチの再発行が出来そうで胸を撫で下ろす。
大丈夫だとはわかっていても、実際は何が起こるか分かったものでは無い。本当に無事に事が済みそうでよかった。
というか。各探索者協会で俺の話は出回っていないのだろうか?
まだ世間に発表しないにしても、未知なる階層を攻略した探索者の情報は直ぐにでも共有しそうなものだが……。
「……」
「何か不都合でもありましたか?」
少し緩すぎる探索者協会の情報管理に疑問を抱いているとベルルカか不思議そうに尋ねてくる。
「あっ。いえ、なんでも……それじゃあ再発行して貰っていいですか?」
傍から見ても不思議がられるくらい、表情に出ていたのだろう。頭を振って話を続ける。
「はい! それでは色々な確認事項は先程お話した通りで、再発行金として10万メギルを一括で頂くことになっているんですが……お持ちですか?」
「はい。お金なら持ってきてます。今ここで払って大丈夫ですか?」
「はい! 問題ないです!」
結構な大金を要求するためかベルルカは気まづそうに確認をしてくるが、直ぐに表情を破顔させる。
コロコロ表情の変わる人だなあ。なんて呑気な所感を持ちながら影の中から予め取り分けておいた10万メギルの金袋を出してカウンターに乗せる。
「多分ピッタリあるはずです。確認お願いします」
「………」
パンパンになった金袋をベルルカはまじまじと見つめて硬直してしまう。
何か、おかしなところがあっただろうか?
「あの……」
「はっ!? すみません! こんなにあっさりと再発行金を支払われるのは初めてで……まさか本当に出てくるとは……」
全く微動だにしないベルルカに困惑しつつ声をかけると、彼女はハッと目を見開いて苦笑する。
その彼女の言葉でトレジャーバッチの再発行の手続きがいつも、どれほど上手くいっていないのか察しが着く。
大方、ここまでスムーズにことが進んでいたはずなのに金の話になると急に支払うのを渋る探索者が殆どなのだろう。
むしろこんなに簡単に支払う冒険者の方が数的には圧倒的に少ないのだと察しが付けば、ベルルカの反応は最もだと思う。
「……申し訳ありません。金額の確認させて頂きました。間違いなく10万メギルはお受け取りしました」
ベルルカの心中お察ししていると、彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめつつ金袋の中を確認してくれる。
「これで再発行金をお支払いいただいたファイクさんには探索適正試験の再試験が認められます。まあ今まで探索者活動をされていたので試験の方は余裕だと思いますが頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。……えーと、再試験は直ぐに受けられるんですか?」
無事にお金も収めて再試験を受ける事を認められたはいいのだが、肝心の試験はいつ受けられるのだろうか。
「はい。本日の適性試験の受付は終了していますので……早くても明日以降になりますね。予約していきますか?」
「お願いします」
「畏まりました」
手元に持っていたのか、ベルルカは予定表確認して尋ねてきたのでそのまま予約を入れしてしまう。
なんだか懐かしい気分だ。
「それじゃあ明日の試験を予約させて頂きました。試験会場は大迷宮バルキオン、現地集合で、集合時間は朝の9時、時間厳守でお願いします」
「分かりました」
「当日の試験内容は全て試験官次第なので、試験に対する詳しいご質問にはお答えできませんが、何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
慣れた感じで説明をしてくれるベルルカにそう答える。
4年前に受けたきりではあるが、試験の要領は心得ている。
今の実力ならばどんな試験内容でも試験に落ちることはないだろうし、後は野となれ山となれだ。
「それでは一応の再発行の手続きはこれで終わりです。お疲れ様でした」
「あっ。すいません。再発行のこととは別で聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
一息ついて席から立ち上がるベルルカを呼び止める。
仮にではあるが再発行の手続きが無事に終わったのは喜ばしいことではあるが、まだ聞かなければいけないことがある。
「はい、なんでしょう?」
ベルルカは再び椅子に座り直すと首を傾げる。
「都市の真ん中辺りで良い宿とかってありませんかね? まだこっちに来たばかりで右も左もわからなくて……昨日は適当な宿を取ったんですけど、立地的にもう少し都市の真ん中の宿を借りたくて……」
「あー、宿ですね。畏まりました。少々お待ちください。今、都市の地図と新人探索者用のや宿や飯所、鍛冶屋などのリストを持ってきますね」
俺の質問にベルルカは納得したように頷くと奥の方へと行ってしまう。
「ふう。何とか手続きも終わったし、無事に宿の情報も手に入りそうだ」
「お疲れ様」
そんな彼女の後ろ姿を見て、変なボロが出なくてよかった、と安堵していると今まで静かに待ってくれていたアイリスが労いの言葉をくれる。
「アイリスもね。付き合ってくれてありがとう」
「ううん。大丈夫。ファイクと一緒なら私はどこでも楽しいから」
「っ……それは大変光栄です……」
不意打ちすぎる彼女の笑顔と言葉に顔が熱くなるのを感じながらベルルカがリストを持ってくるのを待つ。
とりあえず、本当に面倒が無くてよかった……。
「は、は~い……」
溌剌とした声で次の探索者を呼ぶ受付嬢。
それに少し反応が遅れて、気まづくなりながらカウンターへと向かう。
「ようこそ探索者協会バルキオン支部へ! 本日はどのようなご要件でしょうか?」
次の接客相手である俺達がカウンター前まで来ると、良く通る明るい声でカウンター越しに受付嬢は微笑む。
そのまだ聞き慣れない都市の名前と、随分と聞き慣れた質問に若干の違和感も覚えながら答える。
「えーっと……俺達、昨日このバルキオンに来たばかりの探索者で……大迷宮に入るための許可の更新とトレジャーバッチの再発行をお願いしたいんですけど……いいですか?」
「あら! 新規の探索者さんだったんですね! 私はこのバルキオン支部受付嬢歴10年の大ベテラン! ベルルカ・ハンプソンと申します! 以後お見知りおきを!」
「どうも」
驚いた表情から一転して天真爛漫な笑顔で自己紹介をする黒い長髪の受付嬢ベルルカ。
大して他の迷宮都市から来た新規の探索者なんて珍しくないだろうに、とても素晴らしいリアクションを見せてくれる。
「それで許可証の更新とトレジャーバッチの再発行でしたか……一つ目の更新は直ぐに終わりますけど、トレジャーバッチの再発行は色々と罰則が御座いますが……」
「はい。それは重々承知です。自己責任なので罰則でもなんでも受けます」
要件の再確認をして気まずそうに尋ねてくるベルルカにそう答える。
彼女の気まずそうな様子から察するにトレジャーバッチの再発行手続きは探索者からのクレームが多いのだろう。
普通の探索者からすれば色々と納得できない罰則が多いからな。
「まず仲間の更新から先にお願いします。そっちの方がいいですよね?」
「そうですね……再発行は色々と確認や手続きがあるので、まずはそちらの方から対応させていただきます。トレジャーバッチの提示をお願いしてもいいですか?」
ベルルカはホッと胸を撫で下ろした様子で隣のアイリスに声を掛ける。
「お願いします」
「お預かりします。少々お待ちください。直ぐに確認してまいります」
ベルルカはアイリスからトレジャーバッチを受け取ると、奥の方へそそくさと行ってしまう。
そもそも何故、大迷宮に入るために、しかも大迷宮ごとにこんな更新しなければいけないのか?
その理由は大迷宮の安全性を高める為だ。
日や、多くの探索者が出入りする大迷宮。その全ての探索者が善良な者とは限らない。
無許可による探索、ドロップ品の横取りや殺人など。違法な行為で探索者に迷惑をかける者、探索者協会の定めたルールに反した者と言うのは少なからずいる。そんな悪事を働く探索者の事を『アウトハンター』と呼び。この更新手続きはその『アウトハンター』を見つけて減らすためのルールだ。
まあ実際のところはこんな手続き一つで『アウトハンター』達が減っている訳では無いのだが、それでもしないよりはマシ、探索者の管理をする上でこの作業はそれなりに機能しているようで、この手続きは必要らしい。
「お待たせしました。確認は終わりました。何も問題は無かったので許可の更新は受理されました。これからのご活躍を願っています、Sランク探索者アイリス・ブルームさん」
「ありがとうございます」
数分も経たずして戻ってきたベルルカは笑顔でアイリスにトレジャーバッチを返す。
これでアイリスは大迷宮バルキオンへの探索を許可された。
まあこの更新は問題なく終わるのは分かっていた。アイリスは品行方正、優等生もびっくりするほどのマジメ探索者だ。
問題はここから───
「それでは次にトレジャーバッチの再発行ですね。ここのメインカウンターで手続きするには時間がかかりますので、あちらのサブカウンターに移動をお願いします」
「わかりました」
───果たして俺は何も問題なく再発行の手続きをやり過ごすことが出来るだろうか。
そんな不安が胸中を渦巻く中、ベルルカと共に人気の少ないサブカウンターへとやって来る。
時間がかかる手続き専用のカウンターなのかすぐ側には椅子まで用意してある周到さだ。
「立ち話も何なので、お掛けになってください。アイリスさんもどうぞ」
「「ありがとうございます」」
ベルルカに促されて椅子に座る俺とアイリス。ラーナは俺の膝の上で寛いでいる。
「それじゃあ先ずは色々と確認からさせてもらいますね。お名前とトレジャーバッチを初めて発行した探索者協会の支部を教えて頂けますか?」
「はい。名前はファイク・スフォルツォです。トレジャーバッチを発行した支部はクレバスです」
ボロが出ないように余計なことは口走らず、ベルルカに聞かれた最低限のことを答える。
「えっと……失礼ですがファイクさん、年齢はお幾つですか?」
「17です」
「探索者登録をされたのはおいくつ頃で?」
「13ですね。その頃に良くつるんでいた友達と二人で探索適正試験を受けました」
「4年前ですね……畏まりました……」
ベルルカはいつの間にか用意していた紙にペンを走らせて今の内容を書き留める。
ちなみに探索者になるのに年齢制限と言うものは無い。
実力や能力があって、適正試験に受かりさえすれば誰でも探索者にはなれる。
「ありがとうございます。それでは次に分かりきっているとは思いますが先ずは再発行をするにあたって生じる罰則の確認をさせていただきます」
「はい」
ベルルカは俺の回答を書き留めた紙を近くにいた職員に手渡して何やらお願いをすると、ニッコリ笑顔で話を続ける。
恐らく、今の回答から本当に俺が探索者として登録されているか調べるのだろう。
「再発行するにあたってファイクさんが受けていただく罰則は4つです。再発行金10万メギルの支払い、トレジャーランクは最低ランクからのスタート、今まで探索の実績・功績の抹消、探索適正試験の再試験です」
「はい」
綺麗な指を4本立てて説明を始めるベルルカ。
「こちらの罰則は原則、必ず受けていただきます。そこはどうかご了承ください。ちなみにですが再発行の理由はトレジャーバッチの紛失ですよね?」
「そうですね。落としたのか、盗まれたのか気がついたらトレジャーバッチが無くなってて……」
″はっ。とんだ猿芝居だな″
″……うるせえ″
平静を装ってベルルカの質問に答える俺を見て、スカーがバカにしたように笑ってくる。
このクソジジイ、人の一世一代の大芝居を馬鹿にしやがったな。後で覚えてやがれよ。
「……」
スカーに煽られて表情筋がピクピクと強ばるがそれを何とか押さえつけて、努めて「残念だ」と言わんばかりの悲しそうな表情を装う。
「それはお気の毒に……心中お察しします。やはり年間で見てもファイクさんのような被害にあった探索者は少なく無くて、ひと月に10人ほどファイクさんと同じように再発行に来られるのです。それと同じくらいに虚偽の被害を装って探索者でもないのにトレジャーバッチの再発行をする輩も居まして……」
「そっ、そうなんですかぁ~?」
思わず声が裏返る。
まさに今の自分は虚偽の報告をしてトレジャーバッチを再発行しようとしているのだから仕方がない。虚偽の方向性が違うが嘘をついているには変わりはない。
全身にジトリと嫌な汗が浮かんでくる。
「はい。ですので最初にしたように簡単な質問をして本当にその人が過去に探索者として公式に登録されているか調べなければいけないんです。ただいまファイクさんの登録情報を裏で調べているので少しお待ちください」
「は、は~い……」
努めて平静を、努めて表情が不自然にならないように全身を力ませる。
探索者協会側に俺がトレジャーバッチを紛失した真意を確かめる術は無いし、俺は公式に探索者として登録されているのは間違いない。確実にトレジャーバッチの再発行は出来ると思うのだが、不安で仕方がない。
こんな緊張は初めてだ。
大迷宮で強敵なモンスターと戦う時のような緊張感とは別のベクトルを持った緊張感。
それこそカルミナティと戦った時よりも緊張しているかもしれない。
「あっ! 分かりましたか?」
だいぶ懐かしく感じる暴虐の牛頭人を思い返していると、先程ベルルカに頼み事をされていた探協職員が奥から戻ってきてベルルカに何やら耳打ちをしている。
ベルルカは耳を寄せて「ふむふむ」と真剣な様子で職員の報告を聞き届けると再びこちら笑顔で向き直る。
「はい! 確認したところ問題なくファイクさんの登録が確認されました! 問題なく再発行ができます!」
「そ、そうですか……よかった……」
無事にトレジャーバッチの再発行が出来そうで胸を撫で下ろす。
大丈夫だとはわかっていても、実際は何が起こるか分かったものでは無い。本当に無事に事が済みそうでよかった。
というか。各探索者協会で俺の話は出回っていないのだろうか?
まだ世間に発表しないにしても、未知なる階層を攻略した探索者の情報は直ぐにでも共有しそうなものだが……。
「……」
「何か不都合でもありましたか?」
少し緩すぎる探索者協会の情報管理に疑問を抱いているとベルルカか不思議そうに尋ねてくる。
「あっ。いえ、なんでも……それじゃあ再発行して貰っていいですか?」
傍から見ても不思議がられるくらい、表情に出ていたのだろう。頭を振って話を続ける。
「はい! それでは色々な確認事項は先程お話した通りで、再発行金として10万メギルを一括で頂くことになっているんですが……お持ちですか?」
「はい。お金なら持ってきてます。今ここで払って大丈夫ですか?」
「はい! 問題ないです!」
結構な大金を要求するためかベルルカは気まづそうに確認をしてくるが、直ぐに表情を破顔させる。
コロコロ表情の変わる人だなあ。なんて呑気な所感を持ちながら影の中から予め取り分けておいた10万メギルの金袋を出してカウンターに乗せる。
「多分ピッタリあるはずです。確認お願いします」
「………」
パンパンになった金袋をベルルカはまじまじと見つめて硬直してしまう。
何か、おかしなところがあっただろうか?
「あの……」
「はっ!? すみません! こんなにあっさりと再発行金を支払われるのは初めてで……まさか本当に出てくるとは……」
全く微動だにしないベルルカに困惑しつつ声をかけると、彼女はハッと目を見開いて苦笑する。
その彼女の言葉でトレジャーバッチの再発行の手続きがいつも、どれほど上手くいっていないのか察しが着く。
大方、ここまでスムーズにことが進んでいたはずなのに金の話になると急に支払うのを渋る探索者が殆どなのだろう。
むしろこんなに簡単に支払う冒険者の方が数的には圧倒的に少ないのだと察しが付けば、ベルルカの反応は最もだと思う。
「……申し訳ありません。金額の確認させて頂きました。間違いなく10万メギルはお受け取りしました」
ベルルカの心中お察ししていると、彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめつつ金袋の中を確認してくれる。
「これで再発行金をお支払いいただいたファイクさんには探索適正試験の再試験が認められます。まあ今まで探索者活動をされていたので試験の方は余裕だと思いますが頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。……えーと、再試験は直ぐに受けられるんですか?」
無事にお金も収めて再試験を受ける事を認められたはいいのだが、肝心の試験はいつ受けられるのだろうか。
「はい。本日の適性試験の受付は終了していますので……早くても明日以降になりますね。予約していきますか?」
「お願いします」
「畏まりました」
手元に持っていたのか、ベルルカは予定表確認して尋ねてきたのでそのまま予約を入れしてしまう。
なんだか懐かしい気分だ。
「それじゃあ明日の試験を予約させて頂きました。試験会場は大迷宮バルキオン、現地集合で、集合時間は朝の9時、時間厳守でお願いします」
「分かりました」
「当日の試験内容は全て試験官次第なので、試験に対する詳しいご質問にはお答えできませんが、何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
慣れた感じで説明をしてくれるベルルカにそう答える。
4年前に受けたきりではあるが、試験の要領は心得ている。
今の実力ならばどんな試験内容でも試験に落ちることはないだろうし、後は野となれ山となれだ。
「それでは一応の再発行の手続きはこれで終わりです。お疲れ様でした」
「あっ。すいません。再発行のこととは別で聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
一息ついて席から立ち上がるベルルカを呼び止める。
仮にではあるが再発行の手続きが無事に終わったのは喜ばしいことではあるが、まだ聞かなければいけないことがある。
「はい、なんでしょう?」
ベルルカは再び椅子に座り直すと首を傾げる。
「都市の真ん中辺りで良い宿とかってありませんかね? まだこっちに来たばかりで右も左もわからなくて……昨日は適当な宿を取ったんですけど、立地的にもう少し都市の真ん中の宿を借りたくて……」
「あー、宿ですね。畏まりました。少々お待ちください。今、都市の地図と新人探索者用のや宿や飯所、鍛冶屋などのリストを持ってきますね」
俺の質問にベルルカは納得したように頷くと奥の方へと行ってしまう。
「ふう。何とか手続きも終わったし、無事に宿の情報も手に入りそうだ」
「お疲れ様」
そんな彼女の後ろ姿を見て、変なボロが出なくてよかった、と安堵していると今まで静かに待ってくれていたアイリスが労いの言葉をくれる。
「アイリスもね。付き合ってくれてありがとう」
「ううん。大丈夫。ファイクと一緒なら私はどこでも楽しいから」
「っ……それは大変光栄です……」
不意打ちすぎる彼女の笑顔と言葉に顔が熱くなるのを感じながらベルルカがリストを持ってくるのを待つ。
とりあえず、本当に面倒が無くてよかった……。
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ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
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