調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT

文字の大きさ
15 / 126
幼少編

第14話 お茶会

しおりを挟む

「……」

「……」

 俺────クレイム・ブラッドレイと彼女────フリージア・グレイフロストがこうして顔を合わせることは実に珍しく、滅多に起きえないことであった。

 理由は詳細に語る必要はないだろう。語ったとしても、聞いたとしてもそれは決して楽しい話なんかではない。ただ言えることはフリージア・グレイフロストと言う少女はクレイム・ブラッドレイのことをひどく嫌い、嫌悪し、恨み、そして殺したいとさえ思っている。

 一度目の人生の彼女は本当にそうだった。

 仮に幼い彼女が俺のことを「殺したい」とまでは思っていなくても、今上記した他のすべては思っていることであろう。庭園にある四阿あずまや、花とお茶が大好きな公爵家の御令嬢を招くときは決まってそこで彼女を持て成した。
 しかし残念ながら一度目のクソガキなクレイムくんはゆったりとお茶を嗜んだり、綺麗に咲いた草花を愛でることなんてできず、決まってそのお茶会から抜け出して、公爵家の御令嬢に数多の悪戯をけしかけて遊んでいた。

 近くにある花たちを片っ端から引き抜いたり、それを投げて泥を飛ばして遊んだり、虫が嫌いな彼女に瓶一杯に詰まった色々な虫瓶を投げつけたりなどなど……。

 ────うん。今思い出したけど、普通にクソガキすぎるし、嫌われて当然のことをこれでもかとしている。

 紅茶で喉を潤しながら過去の自分を叱責する。依然として仏頂面なフリージアとの仲をどのようにして修繕するべきか脳を酷使するが一向に妙案は浮かばない。

 今日の天気は快晴、よく手入れされた庭園の花たちは水を受けてキラキラと輝いていてとても綺麗だ。このお茶会の為に庭師たちが血眼になって手入れをしていたのが思い返される。反して四阿には重苦しい空気と沈黙が場を支配していた。

「「……」」

 お互いの後ろに控えた従者も実に気まずそうだ。なんならフリージアの従者はこちらに睨みを利かせている。

 声を出せば殺されそうな雰囲気に同じく後ろで控えたカンナに助けを求めるが彼女は暗に「がんばってくださいませ」と目配せをするばかり。もしかしたらまだ俺は彼女や他の使用人たちから嫌われているのかもしれない。なんてことを考えていると徐にフリージアが口を開いた。

「今日はやけに大人しくて、お行儀がよろしいのですね? いつもみたいにここから抜け出して私に悪戯をしないのですか?」

「うっ……」

 嫌味マシマシの彼女の言葉に俺は何も返せない。咄嗟にこれまでのことを謝ろうとするが、こちらを全く信用していない彼女にどんな言葉で謝罪しても信じてもらえないだろう。だからグッと自分が楽にないりたいだけの言葉を飲み込んで、ひたむきにゆっくりと彼女に向き合う。

 そもそも、許してもらおうなんていう考えが烏滸がましい。それだけのことを俺はしてきたのだ。「まあ殺さないでおくか」と思ってくれるぐらいにフリージア嬢のご機嫌を取ることができれば重畳だ。

 そう思考を切り替えて俺は重い口を動かす。

「なんと申し上げればいいか……最近は忙しくて(主に苦ジジイの所為で)こうしてゆっくりとできる日があまりなくてですね────」

「……それで?」

「────申し訳ありません、私と一緒ではフリージア様の気分を害してしまいますね、すぐに消えますね……」

 無理だ。もうなんかこちらを見る目が怖すぎて正面から対峙するのすら怖い。トラウマが刺激されて今にも吐きそう。

「いえ、これも務めです。大人しくしてくださるならそれで結構」

「あ、はい……」

「……」

 やけに聞き分けの良い俺を見て、依然としてフリージアは訝しむ。それは当然と言えば当然で、逆に何かを企んでいるのではないかと勘繰りを始める始末だ。しかしこちらとしては本当に慚愧の念とトラウマの再発によってグロッキーになっているだけで、今更策を弄してどうこうできるはずもない。

 そんな不毛な読み合いが繰り広げられる中に無邪気な来訪者が現れる。それは俺にとってもフリージアにとっても救世主に違いなかった。

「お兄様! お姉様! アリスもお茶会にご一緒してよろしいですか?」

「も、もちろんだよアリス。よろしいでしょうかフリージア様?」

「え、ええ」

「ありがとうございます!!」

 本当に助かった。満面の笑みで四阿にやってきたアリスのお陰で重苦しいかった場の雰囲気が完全に無くなったとまでは言わないが、少し和らいだ。内心で安堵していると、どちらの隣に座ろうか迷っている様子のアリスにフリージアが声を掛けた。

「アリス、いつものようにの隣にいらっしゃい。その男の隣は危ないですよ」

「うぐ……」

 本当の姉妹のように仲睦まじい二人。以前までは俺が自分勝手に抜け出したお茶会を二人で楽しむのが当然になっていた。しかし、今回は俺がいて、しかもアリスとは既に一度目の時のように関係が悪くはなく、普通の兄弟仲と言っても過言ではなかった。だからアリスの発言にフリージアは心底驚いた。

「うーん……久しぶりにお姉様の隣というのも捨てがたいのですが、最近のお気に入りの場所はお兄様の近くなのです!!」

「なっ!?」

「アリスぅ……」

 俺の膝の上に勢いよく座ったアリスを見てフリージアは驚く。やばい俺の妹が本気で天使に思えてきた。なんだこの愛くるしすぎる生物は……あ、俺の妹か。

「ど、どういう事ですかアリス? 貴方、この男にされてきたことを忘れたわけでは……」

「忘れたことはありませんよ? でも、お兄様は今までのことをちゃんと謝ってくれました」

「そ、そうだとしてもそれだけで全てを許すことなんて……私なんかより貴方の方がこの男に……」

 納得がいかない様子のフリージアは今度こそハッキリと敵意をむき出しにして俺を睨む。なんともトラウマを刺激される眼光ではあるがそれを上回るほどに俺は気まずさを覚えていた。

 フリージアの怒りは全くその通りだと思うし、人間の感情とはそんな簡単なものではない。アリスが優しすぎるだけなのだ。

「貴方、いったいアリスをどんな言葉で誑かして……」

「た、誑かしたなんてそんな……」

 実情としてはアリスの言ったことが全てなのでこれ以上俺から何か言えることはない。しかし、フリージアはアリスの言葉でさえ信じず、俺が何かしたのではないかと疑う。

 ────まあ。当然だよな。

 本来は彼女の反応が普通なのだ。それと比べると俺の周りにいる人達は随分とお人よしだと思う。

「何をそんなに怒っているのですかお姉様? アリスは全くもうこれまでのことは気にしていないです」

「ッ……! 貴方が気にしなくても私は気にするのです! 私はこの男がこれまでしてきた蛮行の数々を決して忘れはしないし、許さない!!」

「っ!?」

 朗らかな庭園には似つかわしくない怒号。フリージアの叫びにも近い怒声にアリスは驚いてしまう。

「あっ……ごめんなさい。私は決してアリスに怒ったわけでは……すべてはこの男の────」

「今日のお姉様、なんだか変です……」

 そう言ってアリスは俺の胸に顔を埋めて視線を外してしまう。俺は無意識にアリスの震える身体を抱きしめ、図らずも妹を庇う構図になってしまった。そんな俺たちを目の当たりにした瞬間の、彼女のその表情を俺は忘れることはないだろう。

「────」

 絶望したかのような、裏切られたかのような、悲しみに暮れるフリージアの表情を────そしてそれは次第に激高へと変わり、彼女は席を立って俺に宣戦布告をした。

「クレイム・ブラッドレイ!私と決闘をしなさい!」

「え?」

「貴方がどんな汚い手を使ってアリスを騙したのかは分かりませんが、彼女は絶対に返してもらいます!!」

 そうして俺は唐突に公爵令嬢と決闘をすることになってしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...