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幼少編
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そこは世界の果て、人類は疎か生物種が足を踏み入れることなど到底不可能な未踏破区域。雲を突き破り、天を穿とうとする霊峰にて一体の龍は今日も世界を見下す。
「────」
その龍にとって「生きる」ということは惰性であり、こんな無意味で無価値な自分を創造した主に対して、底知れない嫌悪感を抱いて時間をただ無為に浪費するだけであった。
そんな生物としては「死んでいる」も当然な彼は今日も「生きる意味」を見出すべく、娯楽へと興じる。
「娯楽」と言うと聞こえは悪いがその実、最初から全知全能────世界の理を創造主から与えられた彼らにとって大抵のことは娯楽へと成り下がり、ただ永久に等しい〈命〉を浪費するための暇つぶしに過ぎない。
彼らにとっての「生きる」とはそういうことであった。
基本的に同類である龍たちはこの霊峰に集い、時に会話をして、時に争って、時に暇つぶしの算段を立てることが常であった。しかし、それも数百年に一度あるかないかの話であって、今日もその霊峰にいるのは〈時詠〉の龍だけであった。
「────暇だね~」
そんな世界を見下ろす龍の開口一番はとても呑気な嘆きであった。大きな欠伸をして何となく天を仰ぐ。それも大した暇つぶしになるはずもなくて、再び大きな欠伸をする。この場に他の同士がいれば話し相手となってくれことだろうが、前述した通りここにいるのは彼だけである。
他の龍たちが何処で何をしているのか────その所在は知らない。知ったところでどうでもいいし、そのうちこの霊峰に顔を出すだろうと〈時詠〉の龍は分かっていた。他の龍たちと比べてどちらかと言えばインドア派……もっぱらここにいることの多い彼はやはり大きな欠伸をして、天を仰いだ。
暇つぶしになり得る「娯楽」があるわけでもないこの霊峰で〈時詠〉の龍がすることと言えば、冠されたその名の通り「時詠み」であった。七体存在する龍たちにはそれぞれ特質した力が宿っており、彼は少しばかり過去と未来を盗み見て、自分の好きなように時間軸を弄ることができた。
例えば、悲惨な死を遂げた自業自得な悪役貴族を、今まで培った記憶はそのままに過去へと意識を送り返すことも造作ではない。
「そういえば彼はどうなったかな~?」
世界を這いつくばる生物種からすれば全知全能の神に等しいその力をこの龍はほんの気まぐれ、ただの思い付きで実行することがしばしば。そんな気軽に扱うには強大すぎる力の主である彼の最近の楽しみは、今言った愚かな青年の二度目の人生を傍観することであった。
本当にただの気まぐれで彼を過去に送り出したはまでは良かったが、その後の彼は龍の予想以上に奮闘して見せた。
「まさか、〈潜影〉に喧嘩を売るとはなぁ」
その時の光景を思いだして龍はくつくつと笑いを零す。次第に声は大きくなっていく、本当に笑いが止まらない。こんなに愉快な気分なのは二百年ぶりのことだった。
こういうことが本当に稀に起きるから「時詠み」は辞められない。〈時詠〉の龍はこの力で何度も世界を亡ぼしそうになったこともあったが、そんな危険もこの観測の醍醐味であった。この世界で一生懸命に生きている凡百の生物種たちからすればたまったものではないが、これが超越種として世界を見下す彼の特権であった。
それこそ、彼の知ったことではない。「娯楽」程度で滅びるのならば潔く滅びてしまえばいいのだ。彼のスタンスは酷く自己中心的なものだった。けれど、許されてしまう。何せ、世界を見下すことを許された超越種なのだから。
そうしてそんな気まぐれでやり直させた青年は人生最大のトラウマが数多く眠る学院へと再び入学する頃となった。
「はてさて、今度はどんな奇々怪々を見せてくれることだろうか」
たかが矮小な人の子の人生一つ、それでも彼にとっては本当に楽しみで仕方がなかった。
今日も霊峰にて一体の龍は静かに微笑む。今、自分がこの世で一番「生きている」そんな確信が龍を充足させ、楽しませた。
「────」
その龍にとって「生きる」ということは惰性であり、こんな無意味で無価値な自分を創造した主に対して、底知れない嫌悪感を抱いて時間をただ無為に浪費するだけであった。
そんな生物としては「死んでいる」も当然な彼は今日も「生きる意味」を見出すべく、娯楽へと興じる。
「娯楽」と言うと聞こえは悪いがその実、最初から全知全能────世界の理を創造主から与えられた彼らにとって大抵のことは娯楽へと成り下がり、ただ永久に等しい〈命〉を浪費するための暇つぶしに過ぎない。
彼らにとっての「生きる」とはそういうことであった。
基本的に同類である龍たちはこの霊峰に集い、時に会話をして、時に争って、時に暇つぶしの算段を立てることが常であった。しかし、それも数百年に一度あるかないかの話であって、今日もその霊峰にいるのは〈時詠〉の龍だけであった。
「────暇だね~」
そんな世界を見下ろす龍の開口一番はとても呑気な嘆きであった。大きな欠伸をして何となく天を仰ぐ。それも大した暇つぶしになるはずもなくて、再び大きな欠伸をする。この場に他の同士がいれば話し相手となってくれことだろうが、前述した通りここにいるのは彼だけである。
他の龍たちが何処で何をしているのか────その所在は知らない。知ったところでどうでもいいし、そのうちこの霊峰に顔を出すだろうと〈時詠〉の龍は分かっていた。他の龍たちと比べてどちらかと言えばインドア派……もっぱらここにいることの多い彼はやはり大きな欠伸をして、天を仰いだ。
暇つぶしになり得る「娯楽」があるわけでもないこの霊峰で〈時詠〉の龍がすることと言えば、冠されたその名の通り「時詠み」であった。七体存在する龍たちにはそれぞれ特質した力が宿っており、彼は少しばかり過去と未来を盗み見て、自分の好きなように時間軸を弄ることができた。
例えば、悲惨な死を遂げた自業自得な悪役貴族を、今まで培った記憶はそのままに過去へと意識を送り返すことも造作ではない。
「そういえば彼はどうなったかな~?」
世界を這いつくばる生物種からすれば全知全能の神に等しいその力をこの龍はほんの気まぐれ、ただの思い付きで実行することがしばしば。そんな気軽に扱うには強大すぎる力の主である彼の最近の楽しみは、今言った愚かな青年の二度目の人生を傍観することであった。
本当にただの気まぐれで彼を過去に送り出したはまでは良かったが、その後の彼は龍の予想以上に奮闘して見せた。
「まさか、〈潜影〉に喧嘩を売るとはなぁ」
その時の光景を思いだして龍はくつくつと笑いを零す。次第に声は大きくなっていく、本当に笑いが止まらない。こんなに愉快な気分なのは二百年ぶりのことだった。
こういうことが本当に稀に起きるから「時詠み」は辞められない。〈時詠〉の龍はこの力で何度も世界を亡ぼしそうになったこともあったが、そんな危険もこの観測の醍醐味であった。この世界で一生懸命に生きている凡百の生物種たちからすればたまったものではないが、これが超越種として世界を見下す彼の特権であった。
それこそ、彼の知ったことではない。「娯楽」程度で滅びるのならば潔く滅びてしまえばいいのだ。彼のスタンスは酷く自己中心的なものだった。けれど、許されてしまう。何せ、世界を見下すことを許された超越種なのだから。
そうしてそんな気まぐれでやり直させた青年は人生最大のトラウマが数多く眠る学院へと再び入学する頃となった。
「はてさて、今度はどんな奇々怪々を見せてくれることだろうか」
たかが矮小な人の子の人生一つ、それでも彼にとっては本当に楽しみで仕方がなかった。
今日も霊峰にて一体の龍は静かに微笑む。今、自分がこの世で一番「生きている」そんな確信が龍を充足させ、楽しませた。
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