調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT

文字の大きさ
32 / 126
幼少編

幕間

しおりを挟む
 そこは世界の果て、人類は疎か生物種が足を踏み入れることなど到底不可能な未踏破区域。雲を突き破り、天を穿とうとする霊峰にて一体の龍は今日も世界を見下す。

「────」

 その龍にとって「生きる」ということは惰性であり、こんな無意味で無価値な自分を創造したに対して、底知れない嫌悪感を抱いて時間をただ無為に浪費するだけであった。

 そんな生物としては「死んでいる」も当然な彼は今日も「生きる意味」を見出すべく、娯楽へと興じる。

「娯楽」と言うと聞こえは悪いがその実、最初から全知全能────世界の理を創造主から与えられた彼らにとって大抵のことは娯楽へと成り下がり、ただ永久に等しい〈命〉を浪費するための暇つぶしに過ぎない。

 彼らにとっての「生きる」とはそういうことであった。

 基本的に同類である龍たちはこの霊峰に集い、時に会話をして、時に争って、時に暇つぶしの算段を立てることが常であった。しかし、それも数百年に一度あるかないかの話であって、今日もその霊峰にいるのは〈時詠〉の龍だけであった。

「────暇だね~」

 そんな世界を見下ろす龍の開口一番はとても呑気な嘆きであった。大きな欠伸をして何となく天を仰ぐ。それも大した暇つぶしになるはずもなくて、再び大きな欠伸をする。この場に他の同士がいれば話し相手となってくれことだろうが、前述した通りここにいるのは彼だけである。

 他の龍たちが何処で何をしているのか────その所在は知らない。知ったところでどうでもいいし、そのうちこの霊峰に顔を出すだろうと〈時詠〉の龍は分かっていた。他の龍たちと比べてどちらかと言えばインドア派……もっぱらここにいることの多い彼はやはり大きな欠伸をして、天を仰いだ。

 暇つぶしになり得る「娯楽」があるわけでもないこの霊峰で〈時詠〉の龍がすることと言えば、冠されたその名の通り「時詠み」であった。七体存在する龍たちにはそれぞれ特質した力が宿っており、彼は少しばかり過去と未来を盗み見て、自分の好きなように時間軸を弄ることができた。

 例えば、悲惨な死を遂げた自業自得な悪役貴族を、今まで培った記憶はそのままに過去へと意識を送り返すことも造作ではない。

「そういえば彼はどうなったかな~?」

 世界を這いつくばる生物種からすれば全知全能の神に等しいその力をこの龍はほんの気まぐれ、ただの思い付きで実行することがしばしば。そんな気軽に扱うには強大すぎる力の主である彼の最近の楽しみは、今言った愚かな青年の二度目の人生を傍観することであった。

 本当にただの気まぐれで彼を過去に送り出したはまでは良かったが、その後の彼は龍の予想以上に奮闘して見せた。

「まさか、〈潜影〉に喧嘩を売るとはなぁ」

 その時の光景を思いだして龍はくつくつと笑いを零す。次第に声は大きくなっていく、本当に笑いが止まらない。こんなに愉快な気分なのは二百年ぶりのことだった。

 こういうことが本当に稀に起きるから「時詠み」は辞められない。〈時詠〉の龍はこの力で何度も世界を亡ぼしそうになったこともあったが、そんな危険スリルもこの観測の醍醐味であった。この世界で一生懸命に生きている凡百の生物種たちからすればたまったものではないが、これが超越種として世界を見下す彼の特権であった。

 それこそ、彼の知ったことではない。「娯楽」程度で滅びるのならば潔く滅びてしまえばいいのだ。彼のスタンスは酷く自己中心的なものだった。けれど、許されてしまう。何せ、世界を見下すことを許された超越種なのだから。

 そうしてそんな気まぐれでやり直させた青年は人生最大のトラウマが数多く眠る学院へと再び入学する頃となった。

「はてさて、今度はどんな奇々怪々を見せてくれることだろうか」

 たかが矮小な人の子の人生一つ、それでも彼にとっては本当に楽しみで仕方がなかった。

 今日も霊峰にて一体の龍は静かに微笑む。今、自分がこの世で一番「生きている」そんな確信が龍を充足させ、楽しませた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...