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学院入学編
第34話 自己紹介
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「「「……」」」
「……」
教室内に重苦しい雰囲気が流れる。片や勢いよく中に入ってきた俺とフリージアに素直に驚くもの。片や俺を見て険しい視線を送り、ひそひそと密談をする者。後者は明らかに俺を敵対視しており、どうして会ったことも話したこともない今日はじめましての相手にここまで怨嗟の籠った視線を向けられてるのか全く分からなかった。
────いや、理由なんてのは分かり切っているが、だとしてもちょっと度を越してないか?
「あ、後ろの席が空いてるわね。レイ、あそこに座りましょ」
「……」
困惑していると全くこのピリついた空気を読めていない、なんなら感じ取れてすらいないフリージアが呑気に言う。
────だからなんでそんな自然と隣の席に座ろうとしてくるんだよ。
ツッコもうにも俺としてはそれどころではない。フリージアの一言を聞いて睨んできていた生徒たちの視線がさらに険しくなる。この女、中身はアレだが見てくれは整っているので一定数のファン的なものがいるらしい。
────こいつはやめといたほうが良いと思いますよ?
一部の血迷うファンに胸中で忠告する。しかし、現状は好転するわけもなく。本当にどうしたものかとまだ話が出来そうな方へと視線を向けるが直ぐに考えを改める。
「しまった……」
その中には一度目の人生のトラウマである新入生代表を務めた王子殿下の姿があり、俺は咄嗟に視線を反らした。一瞬だけ、目が合ったような気がするが気の所為だと思いたい。
もはやこの教室に俺を助けてくれるものはいない。隣の戦闘狂は「早く行くわよ」と急かしてく。そんなに座りたいなら一人で行きなさい。もはや全てが敵であるかのように思えてきた。
────土下座の一つでもすれば許してくれるだろうか?
なんて迷案が脳裏を過り、跪いて血迷いそうになるが寸でのところで身体が止まる。
「はいこんにちわー。全員いるなー?」
間延びする声とともに一人の男が教室に入ってきたからだ。そこで重苦しかった教室の雰囲気が変わる。全員の視線がその男へと向かい、彼はその視線を微塵も気にせず一つ咳払いをした。
「おほん、入学初日から血気盛んなのは大変嬉しいがまあ一旦、全員席に座れ」
「……」
有無を許さない男の雰囲気に渋々と言った感じで俺を睨んできていた生徒達は席に座る。それに乗じて俺も席へと着いた。もちろんフリージアの隣ではなく直ぐ近くの空いている席を陣取ったわけだが……なぜかすぐさま戦闘狂は俺の隣に座ってきた。
────何故に???
疑問は尽きないがとりあえず無視して、教壇に立った男の言葉に耳を傾ける。先ほどまでメンチを切ってきていた生徒たちは完全に鳴りを潜めて大変大人しい。それもそのはずだ、教壇に平然と立っている彼はこの学院でそれなりの名物教師である。
ぼさぼさの青髪に教師らしからぬ適当で寝巻のような服装。明らかに教師に見えないこの男を俺はもちろん他の生徒も知っていた。
「皆さん初めまして、これから一年この〈特進〉クラスの担任になりました。ヴォルト・エレクティカと言います!」
────またの呼び名を学院の鬼教官。
適当で粗雑そうに見えるがその脱力した見た目に騙されてはいけない。毎年、〈比類なき七剣〉候補を排出するクロノスタリア魔剣学院だが、その功績はほとんどがこの男のお陰と言っても過言ではない。
その授業内容は酷く厳しくて、毎年数多くの生徒がこの男の授業を受けて大けがを負い、呆然自失となって退学することは珍しくもなんともない。
────俺もどれだけこの教師の授業で吐いたことか……。
普通にトラウマの一つである。そんな厳つい学院での噂をここにいる全員が知っていた。俺は事前に分かっていたが、他のクラスメイト達は彼が担任になるとは夢にも思わなかっただろう。様子を伺うと軽く顔を引きつらせている者までいた。そんな彼らの気持ちを知ってか知らずか、ヴォルトは言葉を続けた。
「好きなことは戦闘!嫌いなことはバカの相手をすることだ! いやー、今年は〈継承者〉が四人もいるって聞いてたから実際に鍛えるのが楽しみだったんだよ。ビシバシいくからよろしくな!!」
爽やかな笑みを浮かべるヴォルトに誰も言葉を返せない。言葉の端々からなんだかクソジジイと同じ波動を感じるのは気の所為ではないと思う。簡単な挨拶を終えたヴォルトは自然な流れで話を続けた。
「俺の自己紹介はおしまい!次はお前らの番な、そんじゃあ一人ずつ自己紹介をしてもらおうか。まずは……やっぱり新入生代表の王子からお願いしよう!」
「分かりました」
指名されて後ろの席に陣取っていた王子が起立する。一気に視線がそちらに集中した。俺も流石にそっぽ向いてるのは感じが悪いので渋々同じ方向を見る。
「知ってる方もいると思いますが改めて――――俺の名前はクロノス・クロノスタリア。この国の第二王子です。けど、王族とかそういった身分は関係なく皆さんと仲良くしたいと思っています。好きなことは読書と人間観察。嫌いなことは特にないかな?どうぞよろしく」
威風堂々、正にその言葉が似合う。数十の視線の圧に臆することなく、しかし変な威圧感はなく、妙な親しみやすさすら覚えてしまう挨拶。流石は王子と言ったところか踏んできた場数が違う、人間が出来すぎていた。爽やかに微笑む王子に一部の女生徒から黄色い声まで聞こえてきた。
「よしじゃあ次は――――」
王子の自己紹介を皮切りに、ヴォルトは次々と生徒を指名していく。〈特進〉クラスは全部で二十五名の小規模なクラスだ。全員の自己紹介にそれほど時間を要することもなく、恙なく終わるかと思っていたが――――
「試験組のガイナ・バスターだ。俺は〈比類なき七剣〉になる為にこの学院に来た。だから決して俺の邪魔をしないでくれ――――特に、大した努力もしてこずに優れた家柄と血統だけでこの学院に推薦入学した怠惰な野郎とかな」
「……」
自己紹介も大詰めの二十四人目、随分と棘のある荒い言葉が聞こえてきた。後めちゃくちゃこちらを睨んできてるので、誰に対しての言葉かは明白だ。他にも同じように俺を毛嫌いするような生徒の自己紹介はあったが今の彼はあからさますぎる。
「おお、いいねぇ!気概はいくらあってもいいからねえ!」
ヴォルトは何故が楽しそうにそれを聞いている。
────なんで煽ってんの?
「なによさっきから黙って聞いてれば、レイは凄いのよ……!?やっぱり潰して────」
俺の代わりに何故か隣のフリージアが睨み返しているが本当にやめてほしい。俺は平穏に過ごしたいんだ。
「それじゃあ最後はお前だ」
「はい……」
抗議の視線も虚しく、何故か最後まで取り残された俺がタイミング悪く自己紹介をすることになる。席から立つと一斉に厳しい眼光が飛んでくる。それにウンザリとしながら俺は簡潔に自己紹介を済ませる。
「クレイム・ブラッドレイです。体を動かすのが好きです……皆さんと仲良くしたいのでどうぞよろしくお願いします……」
「はい、拍手ー」
────終わった。
俺は静まり返った教室を見て確信する。今のは普通に自己紹介として終わっていた。微妙すぎる俺の自己紹介を聞いて拍手をする奴なんていない……ただ一人を除いては────
「あれ?なんで誰も拍手しないのよ???」
唯一、隣の公爵令嬢様だけが拍手をしてくれた。その優しさが嬉しいのやら苦しいやらで俺の精神はもうボロボロであった。
「おうちに帰りたい……」
アリスに会いたい。普通に慰めてもらいたい。完全に戦闘不能へと陥った俺の精神状態では、その後の軽いオリエンテーリングなんてまともに聞ける状態ではなかった。
やはり、学院とはクソである。トラウマの宝庫である。
こうして俺は新たな黒歴史をまた一つ築き上げてしまった。
「……」
教室内に重苦しい雰囲気が流れる。片や勢いよく中に入ってきた俺とフリージアに素直に驚くもの。片や俺を見て険しい視線を送り、ひそひそと密談をする者。後者は明らかに俺を敵対視しており、どうして会ったことも話したこともない今日はじめましての相手にここまで怨嗟の籠った視線を向けられてるのか全く分からなかった。
────いや、理由なんてのは分かり切っているが、だとしてもちょっと度を越してないか?
「あ、後ろの席が空いてるわね。レイ、あそこに座りましょ」
「……」
困惑していると全くこのピリついた空気を読めていない、なんなら感じ取れてすらいないフリージアが呑気に言う。
────だからなんでそんな自然と隣の席に座ろうとしてくるんだよ。
ツッコもうにも俺としてはそれどころではない。フリージアの一言を聞いて睨んできていた生徒たちの視線がさらに険しくなる。この女、中身はアレだが見てくれは整っているので一定数のファン的なものがいるらしい。
────こいつはやめといたほうが良いと思いますよ?
一部の血迷うファンに胸中で忠告する。しかし、現状は好転するわけもなく。本当にどうしたものかとまだ話が出来そうな方へと視線を向けるが直ぐに考えを改める。
「しまった……」
その中には一度目の人生のトラウマである新入生代表を務めた王子殿下の姿があり、俺は咄嗟に視線を反らした。一瞬だけ、目が合ったような気がするが気の所為だと思いたい。
もはやこの教室に俺を助けてくれるものはいない。隣の戦闘狂は「早く行くわよ」と急かしてく。そんなに座りたいなら一人で行きなさい。もはや全てが敵であるかのように思えてきた。
────土下座の一つでもすれば許してくれるだろうか?
なんて迷案が脳裏を過り、跪いて血迷いそうになるが寸でのところで身体が止まる。
「はいこんにちわー。全員いるなー?」
間延びする声とともに一人の男が教室に入ってきたからだ。そこで重苦しかった教室の雰囲気が変わる。全員の視線がその男へと向かい、彼はその視線を微塵も気にせず一つ咳払いをした。
「おほん、入学初日から血気盛んなのは大変嬉しいがまあ一旦、全員席に座れ」
「……」
有無を許さない男の雰囲気に渋々と言った感じで俺を睨んできていた生徒達は席に座る。それに乗じて俺も席へと着いた。もちろんフリージアの隣ではなく直ぐ近くの空いている席を陣取ったわけだが……なぜかすぐさま戦闘狂は俺の隣に座ってきた。
────何故に???
疑問は尽きないがとりあえず無視して、教壇に立った男の言葉に耳を傾ける。先ほどまでメンチを切ってきていた生徒たちは完全に鳴りを潜めて大変大人しい。それもそのはずだ、教壇に平然と立っている彼はこの学院でそれなりの名物教師である。
ぼさぼさの青髪に教師らしからぬ適当で寝巻のような服装。明らかに教師に見えないこの男を俺はもちろん他の生徒も知っていた。
「皆さん初めまして、これから一年この〈特進〉クラスの担任になりました。ヴォルト・エレクティカと言います!」
────またの呼び名を学院の鬼教官。
適当で粗雑そうに見えるがその脱力した見た目に騙されてはいけない。毎年、〈比類なき七剣〉候補を排出するクロノスタリア魔剣学院だが、その功績はほとんどがこの男のお陰と言っても過言ではない。
その授業内容は酷く厳しくて、毎年数多くの生徒がこの男の授業を受けて大けがを負い、呆然自失となって退学することは珍しくもなんともない。
────俺もどれだけこの教師の授業で吐いたことか……。
普通にトラウマの一つである。そんな厳つい学院での噂をここにいる全員が知っていた。俺は事前に分かっていたが、他のクラスメイト達は彼が担任になるとは夢にも思わなかっただろう。様子を伺うと軽く顔を引きつらせている者までいた。そんな彼らの気持ちを知ってか知らずか、ヴォルトは言葉を続けた。
「好きなことは戦闘!嫌いなことはバカの相手をすることだ! いやー、今年は〈継承者〉が四人もいるって聞いてたから実際に鍛えるのが楽しみだったんだよ。ビシバシいくからよろしくな!!」
爽やかな笑みを浮かべるヴォルトに誰も言葉を返せない。言葉の端々からなんだかクソジジイと同じ波動を感じるのは気の所為ではないと思う。簡単な挨拶を終えたヴォルトは自然な流れで話を続けた。
「俺の自己紹介はおしまい!次はお前らの番な、そんじゃあ一人ずつ自己紹介をしてもらおうか。まずは……やっぱり新入生代表の王子からお願いしよう!」
「分かりました」
指名されて後ろの席に陣取っていた王子が起立する。一気に視線がそちらに集中した。俺も流石にそっぽ向いてるのは感じが悪いので渋々同じ方向を見る。
「知ってる方もいると思いますが改めて――――俺の名前はクロノス・クロノスタリア。この国の第二王子です。けど、王族とかそういった身分は関係なく皆さんと仲良くしたいと思っています。好きなことは読書と人間観察。嫌いなことは特にないかな?どうぞよろしく」
威風堂々、正にその言葉が似合う。数十の視線の圧に臆することなく、しかし変な威圧感はなく、妙な親しみやすさすら覚えてしまう挨拶。流石は王子と言ったところか踏んできた場数が違う、人間が出来すぎていた。爽やかに微笑む王子に一部の女生徒から黄色い声まで聞こえてきた。
「よしじゃあ次は――――」
王子の自己紹介を皮切りに、ヴォルトは次々と生徒を指名していく。〈特進〉クラスは全部で二十五名の小規模なクラスだ。全員の自己紹介にそれほど時間を要することもなく、恙なく終わるかと思っていたが――――
「試験組のガイナ・バスターだ。俺は〈比類なき七剣〉になる為にこの学院に来た。だから決して俺の邪魔をしないでくれ――――特に、大した努力もしてこずに優れた家柄と血統だけでこの学院に推薦入学した怠惰な野郎とかな」
「……」
自己紹介も大詰めの二十四人目、随分と棘のある荒い言葉が聞こえてきた。後めちゃくちゃこちらを睨んできてるので、誰に対しての言葉かは明白だ。他にも同じように俺を毛嫌いするような生徒の自己紹介はあったが今の彼はあからさますぎる。
「おお、いいねぇ!気概はいくらあってもいいからねえ!」
ヴォルトは何故が楽しそうにそれを聞いている。
────なんで煽ってんの?
「なによさっきから黙って聞いてれば、レイは凄いのよ……!?やっぱり潰して────」
俺の代わりに何故か隣のフリージアが睨み返しているが本当にやめてほしい。俺は平穏に過ごしたいんだ。
「それじゃあ最後はお前だ」
「はい……」
抗議の視線も虚しく、何故か最後まで取り残された俺がタイミング悪く自己紹介をすることになる。席から立つと一斉に厳しい眼光が飛んでくる。それにウンザリとしながら俺は簡潔に自己紹介を済ませる。
「クレイム・ブラッドレイです。体を動かすのが好きです……皆さんと仲良くしたいのでどうぞよろしくお願いします……」
「はい、拍手ー」
────終わった。
俺は静まり返った教室を見て確信する。今のは普通に自己紹介として終わっていた。微妙すぎる俺の自己紹介を聞いて拍手をする奴なんていない……ただ一人を除いては────
「あれ?なんで誰も拍手しないのよ???」
唯一、隣の公爵令嬢様だけが拍手をしてくれた。その優しさが嬉しいのやら苦しいやらで俺の精神はもうボロボロであった。
「おうちに帰りたい……」
アリスに会いたい。普通に慰めてもらいたい。完全に戦闘不能へと陥った俺の精神状態では、その後の軽いオリエンテーリングなんてまともに聞ける状態ではなかった。
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