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学院入学編
第39話 二日目
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勇者と一緒に朝食を食べて教室まで登校するという、一度目の人生では絶対にあり得ないことを俺は体験していた。
「それじゃあクレイムくん、また部屋でね!!」
「お、おう、じゃあな……」
気が付けば勇者に名前で呼ばれるようになって、俺も彼を名前で呼ぶことになった(なんで?)。なんだか懐が甘いというか、ちょっと距離の縮め方が急すぎて困惑する。
────勇者ってなんだっけ?
遂には概念にまで疑問を覚える始末だ。そんな無駄な思考に気を取られていると、ヴァイスとは途中の分かれ道でお別れだ。
俺は〈特進〉で勇者殿は〈一般〉クラス、なので教室の方向は途中で真逆になる。分かれ道で勢いよく手を振ってくるヴァイスに俺は妙な既視感を覚える。
「アレだな、今の勇者を見ていると小動物的な何かを思い出す……」
周囲から軽く注目を集めながらもそれを気にしないようにして、俺は〈特進〉クラスへと向かう。
正直に言うと気が重い。戦闘狂の相手に、王子と同じ空間に居なければならないというストレス、そして何より他のクラスメイト────特に〈試験組〉の生徒たちからなにやら憎悪を感じるしで気重な悩みが渋滞している。昨日は入学初日と言うこともあって、特に何かをしてくることはなかったが学院が本格的に始まってしまえばそれも分からない。
────こんなことなら素直に試験を受けておくべきだったか?
過去の愚かな自分の選択を後悔してしまう。しかし、いまさら後悔したところで何も意味はない……それに俺としてはあの時の判断を完全に間違ったとも思ってはいない。あの時間があったおかげで更に俺は強くなることができたのだ。龍を殺すための実力を短時間で付ける為には必要な時間であった。
だとしても億劫なものは億劫である。正直、面倒事は御免だ。下手に喧嘩を買うのもしたくなかった。別に弱いものイジメをしたくて強くなったわけじゃないのだ。
「はあ……」
教室の前で立ち止まる。一人で中に入る勇気が出ずに扉を開けるのに躊躇っていると背後から声をかけられた。
「何してるのレイ?」
「うおっ!?……ってなんだフリージアか、驚かすなよ……」
反射的に振り返るとそこには呆れた表情でこちらを見る戦闘狂系お嬢様が立っていた。彼女は半目を向けて言葉を続ける。
「で、何してるのよ?あと、私と勝負をしなさい」
「しれっと変な要求をしてくるな……別に何もしてねえよ」
「ふーん……そういう割には躊躇ってる風だったけど?」
「……」
よく見てるなこいつ……と言うか――――
「いつから見てた?」
「あなたが可愛らしい女の子と廊下で別れて、教室の前で大きな深呼吸をするところから」
「ほぼ全部じゃねえか……」
なんだかフリージアの説明から怒気を感じる。何故に彼女はこんなに不機嫌そうなのだろうか。そんなに決闘したいのか? やはり戦闘狂系お嬢様なのか? あと、変な勘違いをしているところ悪いがヴァイスは歴とした男である。
まあそれはこの際どうでもいい。今はとにかく彼女がまだ教室の中に居なくて助かった。
「悪いんだけど先に教室に入ってくれない?」
「なんでよ。別に普通には居ればいいじゃない?」
「うぐ……そりゃそうなんだけど……」
なんだかこの女にごく当たり前のことを言われるとちょっと腹が立つ。しかし、事はそう簡単な話じゃないんだ。一度目では気にならなかったことも二度目ではなんだか気になって仕方ないのだ。特に人の悪意とか。
「なんか俺、〈試験組〉のクラスメイトに嫌われてるみたいでさ」
「そうなの?」
もうここまで来たら素直に話してみる。首を傾げるフリージアに俺は頷くと彼女は更に表情を困惑の色に変えた。
「なら別にそいつらをぶっ飛ばせばいいんじゃない?」
「……」
何を言うのかと思ったらこれである。この女に何かを期待した自分がバカであった。一度目の人生ではこんなに脳筋ではなかったのに……どうしてこうなった? 思わず大きなため息を吐いて出る。
「あのな、俺は平和主義者なの。学院生活は平穏にすごしたいの、わかる?」
「なにそれ?新手の冗句?面白いわね」
「ぶっ飛ばすぞコラ」
「望むところよ」
ダメだ。何を言ってもこの脳筋女には話が通じない。なんなら無駄な墓穴を掘ってしまった。
────いつまでもここでうだうだしているのがアホらしく思えてきた。
その実、本当に時間の無駄なわけだが目の前の少女は俺の言葉を真に受けてそれどころではない。どこから取り出したのか剣を抜き放とうとしている。
「なにしてんのお前ら?」
すると担任教師のヴォルトが変なものを見るような視線を向けて俺達の背後に立った。どうやら相当に時間の無駄をしていたらしいと思い至るが、だからと言って彼にこの状況を馬鹿正直に説明するのも憚られた。
「いや、その~……」
「まあいいや。ほれ、さっさと教室入れ、ホームルーム始めるぞ~」
口ごもる俺を無視してヴォルト先生は俺達の間に割って入り、難なく教室の中へと入った。その流れに身を任せて俺も教室へと入る。戦闘狂の相手もうやむやにできるしな。
「あ、ちょっとレイ!勝負は!?」
「勝手にやってろ」
喧しく騒ぐフリージアを無視して中にいたクラスメイト達を一瞥すると、やはりと言うべきか窓際の席に固まって陣取っている〈試験組〉の生徒たちから険しい視線を向けられる。その中でも既に群れの長として絶対的な位置に君臨しているガイナ・バスターくんは顕著であった。
────恨まれすぎだろ……。
そんなに推薦で学院に入った俺が恨めしいかと、ここまでしつこく敵意を向けられると不満が募りそうになるが、そもそも大した努力もせずにこの学院に入ったのは事実なので恨まれても仕方ないと思いなおる。
────せめて睨むのはやめてくれないものか。
仲良く……とは言わずともこう毎度のこと睨まれるのは勘弁だし、結構ストレスなのでそこだけはどうにかしたかった。あたかも彼らの視線を気にしてないように平静を装う。
「おはよう」
「……おはようございます」
昨日も座っていた席に座るとその途中でクロノス殿下に手を振られたので会釈を返す。本当にもうヤダ。どこを見ても胃がキリキリとする。そしてやはり俺の隣に座ったフリージアを見て、ヴォルト先生は言葉を続けた。
「さて、今日から本格的に授業が始まるわけなんだが……その前にお前たちにはやってもらうことがある」
「やってもらうこと?」
「簡単に言っちまえばこのクラスのリーダーを決めてもらう。これから一年間はこのクラスで色々な学院行事に参加することもある。そんな時に集団を統括する頭が必要だろ?」
ヴォルトはつらつらと御託を並べる。詰まり、彼が言いたいことは――――
「なにより、このクラスは他のクラスと違って特殊だ。〈推薦組〉と〈試験組〉でまだ初日だってのに変な蟠りがある。それを解消するためにも交友を図ろうってわけだ」
「な、なるほど……」
「リーダー決めはお前らで好きにしろ。話し合いでもいいし、学力を競って賢い奴をリーダーに据えてもいい。もちろん────決闘も大アリだ」
納得のいくまでやり合えと言うことだ。ヴォルト先生が話し終わるのと同時に教室内の空気が一変した。どうやら二日目にして波乱が起こるらしい。俺はわざとらしくクラスメイト達を焚きつけた先生に半目を向ける。
────絶対この教師、楽しんでやがる。
俺には分かる。あの男からは爺さんがめちゃくちゃを言って周囲を困惑させる時と同じ雰囲気をヒシヒシと感じる。
「はあ……」
懐かしい感覚にゲンナリとしつつも、思考を巡らせる。これに乗じて彼らのヘイトを解消できないだろうかと頭をひねらせた。
「それじゃあクレイムくん、また部屋でね!!」
「お、おう、じゃあな……」
気が付けば勇者に名前で呼ばれるようになって、俺も彼を名前で呼ぶことになった(なんで?)。なんだか懐が甘いというか、ちょっと距離の縮め方が急すぎて困惑する。
────勇者ってなんだっけ?
遂には概念にまで疑問を覚える始末だ。そんな無駄な思考に気を取られていると、ヴァイスとは途中の分かれ道でお別れだ。
俺は〈特進〉で勇者殿は〈一般〉クラス、なので教室の方向は途中で真逆になる。分かれ道で勢いよく手を振ってくるヴァイスに俺は妙な既視感を覚える。
「アレだな、今の勇者を見ていると小動物的な何かを思い出す……」
周囲から軽く注目を集めながらもそれを気にしないようにして、俺は〈特進〉クラスへと向かう。
正直に言うと気が重い。戦闘狂の相手に、王子と同じ空間に居なければならないというストレス、そして何より他のクラスメイト────特に〈試験組〉の生徒たちからなにやら憎悪を感じるしで気重な悩みが渋滞している。昨日は入学初日と言うこともあって、特に何かをしてくることはなかったが学院が本格的に始まってしまえばそれも分からない。
────こんなことなら素直に試験を受けておくべきだったか?
過去の愚かな自分の選択を後悔してしまう。しかし、いまさら後悔したところで何も意味はない……それに俺としてはあの時の判断を完全に間違ったとも思ってはいない。あの時間があったおかげで更に俺は強くなることができたのだ。龍を殺すための実力を短時間で付ける為には必要な時間であった。
だとしても億劫なものは億劫である。正直、面倒事は御免だ。下手に喧嘩を買うのもしたくなかった。別に弱いものイジメをしたくて強くなったわけじゃないのだ。
「はあ……」
教室の前で立ち止まる。一人で中に入る勇気が出ずに扉を開けるのに躊躇っていると背後から声をかけられた。
「何してるのレイ?」
「うおっ!?……ってなんだフリージアか、驚かすなよ……」
反射的に振り返るとそこには呆れた表情でこちらを見る戦闘狂系お嬢様が立っていた。彼女は半目を向けて言葉を続ける。
「で、何してるのよ?あと、私と勝負をしなさい」
「しれっと変な要求をしてくるな……別に何もしてねえよ」
「ふーん……そういう割には躊躇ってる風だったけど?」
「……」
よく見てるなこいつ……と言うか――――
「いつから見てた?」
「あなたが可愛らしい女の子と廊下で別れて、教室の前で大きな深呼吸をするところから」
「ほぼ全部じゃねえか……」
なんだかフリージアの説明から怒気を感じる。何故に彼女はこんなに不機嫌そうなのだろうか。そんなに決闘したいのか? やはり戦闘狂系お嬢様なのか? あと、変な勘違いをしているところ悪いがヴァイスは歴とした男である。
まあそれはこの際どうでもいい。今はとにかく彼女がまだ教室の中に居なくて助かった。
「悪いんだけど先に教室に入ってくれない?」
「なんでよ。別に普通には居ればいいじゃない?」
「うぐ……そりゃそうなんだけど……」
なんだかこの女にごく当たり前のことを言われるとちょっと腹が立つ。しかし、事はそう簡単な話じゃないんだ。一度目では気にならなかったことも二度目ではなんだか気になって仕方ないのだ。特に人の悪意とか。
「なんか俺、〈試験組〉のクラスメイトに嫌われてるみたいでさ」
「そうなの?」
もうここまで来たら素直に話してみる。首を傾げるフリージアに俺は頷くと彼女は更に表情を困惑の色に変えた。
「なら別にそいつらをぶっ飛ばせばいいんじゃない?」
「……」
何を言うのかと思ったらこれである。この女に何かを期待した自分がバカであった。一度目の人生ではこんなに脳筋ではなかったのに……どうしてこうなった? 思わず大きなため息を吐いて出る。
「あのな、俺は平和主義者なの。学院生活は平穏にすごしたいの、わかる?」
「なにそれ?新手の冗句?面白いわね」
「ぶっ飛ばすぞコラ」
「望むところよ」
ダメだ。何を言ってもこの脳筋女には話が通じない。なんなら無駄な墓穴を掘ってしまった。
────いつまでもここでうだうだしているのがアホらしく思えてきた。
その実、本当に時間の無駄なわけだが目の前の少女は俺の言葉を真に受けてそれどころではない。どこから取り出したのか剣を抜き放とうとしている。
「なにしてんのお前ら?」
すると担任教師のヴォルトが変なものを見るような視線を向けて俺達の背後に立った。どうやら相当に時間の無駄をしていたらしいと思い至るが、だからと言って彼にこの状況を馬鹿正直に説明するのも憚られた。
「いや、その~……」
「まあいいや。ほれ、さっさと教室入れ、ホームルーム始めるぞ~」
口ごもる俺を無視してヴォルト先生は俺達の間に割って入り、難なく教室の中へと入った。その流れに身を任せて俺も教室へと入る。戦闘狂の相手もうやむやにできるしな。
「あ、ちょっとレイ!勝負は!?」
「勝手にやってろ」
喧しく騒ぐフリージアを無視して中にいたクラスメイト達を一瞥すると、やはりと言うべきか窓際の席に固まって陣取っている〈試験組〉の生徒たちから険しい視線を向けられる。その中でも既に群れの長として絶対的な位置に君臨しているガイナ・バスターくんは顕著であった。
────恨まれすぎだろ……。
そんなに推薦で学院に入った俺が恨めしいかと、ここまでしつこく敵意を向けられると不満が募りそうになるが、そもそも大した努力もせずにこの学院に入ったのは事実なので恨まれても仕方ないと思いなおる。
────せめて睨むのはやめてくれないものか。
仲良く……とは言わずともこう毎度のこと睨まれるのは勘弁だし、結構ストレスなのでそこだけはどうにかしたかった。あたかも彼らの視線を気にしてないように平静を装う。
「おはよう」
「……おはようございます」
昨日も座っていた席に座るとその途中でクロノス殿下に手を振られたので会釈を返す。本当にもうヤダ。どこを見ても胃がキリキリとする。そしてやはり俺の隣に座ったフリージアを見て、ヴォルト先生は言葉を続けた。
「さて、今日から本格的に授業が始まるわけなんだが……その前にお前たちにはやってもらうことがある」
「やってもらうこと?」
「簡単に言っちまえばこのクラスのリーダーを決めてもらう。これから一年間はこのクラスで色々な学院行事に参加することもある。そんな時に集団を統括する頭が必要だろ?」
ヴォルトはつらつらと御託を並べる。詰まり、彼が言いたいことは――――
「なにより、このクラスは他のクラスと違って特殊だ。〈推薦組〉と〈試験組〉でまだ初日だってのに変な蟠りがある。それを解消するためにも交友を図ろうってわけだ」
「な、なるほど……」
「リーダー決めはお前らで好きにしろ。話し合いでもいいし、学力を競って賢い奴をリーダーに据えてもいい。もちろん────決闘も大アリだ」
納得のいくまでやり合えと言うことだ。ヴォルト先生が話し終わるのと同時に教室内の空気が一変した。どうやら二日目にして波乱が起こるらしい。俺はわざとらしくクラスメイト達を焚きつけた先生に半目を向ける。
────絶対この教師、楽しんでやがる。
俺には分かる。あの男からは爺さんがめちゃくちゃを言って周囲を困惑させる時と同じ雰囲気をヒシヒシと感じる。
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