調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT

文字の大きさ
58 / 126
学院入学編

第56話 閲覧権限

しおりを挟む
 話を聞くにどうやら特定の本を借りるには条件があるらしい。

「どういうこっちゃ???」

 と書士さんから説明を聞いた時は思わず首を傾げてしまったが、その条件を満たさなければ借りられない本が以下の通り。

 ・禁術指定書 

 ・古代魔法に関する文献 

 ・魔導書グリモワ 

 そして────

「〈龍〉に関する文献や書物……」

 基本的に館内に所狭しと並べられている本は全て、どんな人間でも閲覧可能となっている。しかし、今あげた蔵書は特定の人間にしか開示されないと言うのだ。

 何故か?

 理由は単純明快、至極真っ当。そもそも、今あげた蔵書が貴重なモノであり、希少なモノと言うこともあるが、何よりも今あげた書物一つで世界が破滅しても可笑しくはない重要機密であるからだ。

 禁術とか古代魔術とかは分かりやすい部類であるが、それには〈龍〉も含まれる。詰まるところ万が一のことがない為に厳重に管理されている。そしてその蔵書の閲覧権限を許さるのは実績と信頼のある条件を満たした一部の未来ある生徒のみ。

 その条件と言うのが『学院階級カースト【第一級】の生徒からが他の〈龍〉に関する蔵書を閲覧することができます』と言うもの。

学院階級カースト

 それはまだ学院に入学したばかりの生徒には馴染みのないものであるが、このクロノスタリア魔剣学院とは切っても切れない制度であり、まさに学院を象徴するかのようなものである。

「弱肉強食」を謳うこの学院には生まれや家柄ではなくここ独自の評価方法がある。それが〈学院階級〉であり、簡単に言えば強さの証明。定期的に学院内で開催される武闘会────〈昇級決闘〉を勝つことによって階級が定められる。

〈学院階級〉の等級は全部で十一段階。下から十、九、八と続いて上に行くと一級、最高位になると【特級】の〈学院階級〉が与えられる。この階級次第で将来の進路、騎士団への推薦や〈比類なき七剣〉になる為の第一歩である騎士団の特別部隊への配属推薦がなされる。この学院に通う殆どの生徒がこの推薦の獲得であり、必然的にこの階級を上げることが目的となる。

 ────まさか本を借りるにもこの階級が必要だとは……。

 一度目の人生経験がある俺は勿論この制度を知ってはいたが、まさかそれがこの図書館内でも適用されるとは思わなかった。まあ大した利用もなかったら初耳なのも当然なのだが……それにしても条件が厳しすぎる。

「【第一級】となると最低でもこの学院の上位────〈最優五騎ペンタグラム〉になる必要がある……」

 基本的に〈昇級決闘〉の参加は自由。それでも殆どの生徒が参加していたわけだが、その中でも一度目の俺はまともにこれに参加したことがない。理由は無論、面倒だったからだ。

 ────今回も参加する気は微塵もなかったけど……。

「致し方ないか……」

 龍の情報を手に入れるためだ、誠に遺憾ながら階級を上げるために〈昇級決闘〉に参加するしかない。【第一級】を目指すということはそれなりに学院内での知名度も跳ね上がってしまうが、今更な話である。もう既に変な噂が出回っているし、それがマシになるかどうかの違いである。

「どうしてこうなった……」

 本当に人生と言うのは上手くいかないことばかりだ。二度目の今回は如実にそう思ってしまうのは気の所為ではないと思う。

────儘ならないね。

 なんて気落ちしそうな面持ちを何とか持ち上げる。

「それでも収穫はあった」

 本を借りるための条件を明確化できたし、今の俺でも借りられる本は一冊だけあった。今はその一冊だけで我慢しよう。何も収穫がないよりは何倍もマシだ。

 ────さてさていったいどんな本が……。

 姿勢を正して本の表紙を見ると色彩豊かな絵と題名が目に入る。

『龍狩りの勇者────ジークフリートの大冒険』

「……」

 そして貸し出しが許された本はやけに薄くて、とても見覚えがあった。俺はその本を確かに知っている。いつの日か、休息日にアリスに「読んでください!」とせがまれたことがあるとても馴染み深い本だ────

「絵本かよ!!?」

 そう絵本である。ブラッドレイの屋敷にもある何の変哲もない絵本であった。今の俺が閲覧できる〈龍〉に関する本はどうやらこれだけらしい。

「あの書士、暗に俺を煽っていたのでは……???」

 そう思われてしょうがないくらいのことをあの鉄面皮の書士はやってのけた。マジでふざけんな。

 文句を言いに立ち上がろうとするが、言ったところで閲覧できる本があるわけでもない。ここは沸き立った怒りをぐっと飲みこんで再び椅子に座り直す。

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……!」

「あ、あの……」

 何度か深呼吸をして酷く逆立った気を落ち着けていると、不意に声を掛けられる。そこで我に帰る。

「ッ!!」

 現在地は図書館、本来ならば静かに本を探したり、読書をする場所だ。なのに色々と処理する情報が多すぎて情緒が昂り大きな声で騒いでしまった。周りにいた他の生徒の迷惑になっていたのは確実であり、俺は焦って声をかけてきた女生徒に振り返って謝罪を────

「す、すいません。ちょっとうるさ────は?」

 しようとして絶句する。

 何故か?

 それは俺に声をかけてきた彼女がどうしようもないくらい見覚えのある少女だったからだ。

 ────う、嘘だ……。

 途端に思考が真っ白になる。何かの間違いだと目を反らす。これは何かの間違いだと全力で否定しにかかる。全身が今すぐ逃げろと警鐘を鳴らす。

 その感覚は酷く懐かしいものに思えた。

 血の気が引いていくのがハッキリと分かる。反射的に脳裏にはありありと一度目のが蘇った。その女生徒の名前を

「レビィア……」

 無意識に眼前の女生徒の名前を呟いてしまう。

 それは一度目の人生、学院での唯一の友人だと思っていた少女であり。しかし、その正体は俺を騙し、手駒にして悪事の片棒を担がせてきた悪女。一度目の破滅の元凶であった。

「え、私、名乗りましたっけ?」

 二度目の今回はまだ面識はない。だから初対面の俺に名前を呼ばれて彼女は困惑した様子だが、俺としてはそれどころではない。どうして彼女がここにいるのか、ずっと近づくまいと注意を払っていた彼女がここにいるのか。

 ────そもそもどうしてこの女が俺に声をかけてきた?

 理由は分かり切っている。自業自得、自らが招いた事であった。感情に身を任せてこんなところで騒いでいた少し前の自分をぶん殴りたい。

 ────完全に油断していた!!

「ま、まあいいや!私、あなたにお礼が言いたかったんです!!」

「は?」

 激しい後悔に頭を抱えていると、どうやらこの女が俺に声をかけてきた理由は別にあるらしい。全く予想だにしていなかった言葉にまた呆けた声しかでない。そんな俺を気にも留めずに眼前の女は勢いよく頭を下げた。

「先日は助けていただきありがとうございました!!」

「……は???」

 思わぬお礼。この女が一体全体なんの話をしているのか今の俺には理解できない。理解したところで納得などできるはずがないし、お礼を言われる意味が分からない。なんなら寒気がして嫌な記憶が次から次へと思い出されるから俺の前から消え失せてほしい。

 ────どうなってるんだ?

 疑問は募るばかり。それでもこの意味不明な状況を解決してくれる誰かなんてのは存在しない。今日はどうやら俺の情緒を悉く弄ぶ日らしく、やはり世界は俺のことが大嫌いらしい。

「マジでふざけろ……」

「あの……???」

 一人で勝手に盛り上がる俺を見てトラウマ女は困惑した様子だ。常時であればこんな失礼な態度を取ることなどないが、お前に関してはその常識は適用されない。というか困惑したままどっか行ってくれ。

 そうしないなら俺がこの場から逃げ出したかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...