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学院入学編
第57話 再会
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「どうしてこうなった……」
本日二度目となる嘆き。人生と言うのは悉く上手くいかないものだとわかってはいるが、それにしたって二度目の俺の人生は上手くいかなさすぎだと思う。
「私、ずっとあなたに会いたかったんです!!」
「勘弁してくれ……」
なんだってこんな会いたくない奴ばかりに自然遭遇するっていうんだ。
────ヴァイスの時然り、もう呪われてるだろ。
目の前の女生徒こと、俺の人生最大のトラウマさんは何故か頬を赤らめてもじもじとしている。
艶やかな長い黒髪に切れ長な紫紺の瞳、白磁のような肌は一瞬でも陽に当たれば淡く消え入りそうで────一言でいえばこの女、見てくれだけは他とは一線を画している。
そんな彼女がいじらしいしぐさをしているとなれば、普通ならば可愛らしく思えるはずなのに俺は先ほどから寒気が止まらない。もう泡吹いて卒倒したい。何もかも投げ捨てて逃げ出したい。昨日のことのように彼女に体よく騙されたときのことが蘇る。
────そう、あれは二年時の春ごろ、彼女が欲しい装飾品があるからと言ってそれを探すのに奔走して……。
「いかんいかん……」
流れで思い出したくない記憶がズルズルと引き出される。補足するとその装飾品を巡ってヴァイスと殺し合いにも発展した。
閑話休題。
それほど、この女は俺のトラウマを刺激してくる。その名を────
「その……突然話しかけてごめんなさい!私はレビィアと言います!私はずっと貴方に────ブラッドレイ様にお礼が言いたかったんです!!」
レビィア・ハイデンロットとは最低最悪の悪女である。悪、悪と連呼して頭が悪そうに思えるが本当なんだから仕方がない。
そんな彼女がどうしてまだ接点もクソもない俺の前に現れたのか? これが本当に分からない。お礼って本当に何の話だ。身に覚えがなさ過ぎて逆にそんなことをしてきたような気がしてきた。
「いや、それは聞きましたけど────俺、あなた……レビィア?さんに何かしましたっけ?」
軽く錯乱状態に陥りながらも、捲し立てるトラウマ女に待ったを掛けて俺は問い質す。ついでに名前も初めて聞きましたと言わんばかりに惚けておく。トラウマ女は俺が名前を誤爆したことなど気にも留めずに、悲し気に表情を曇らせて答えた。
「お、覚えていませんか?先日の合同訓練で〈氷結魔帝〉のグラス様との決闘中に助けた生徒のことを……?」
「グラスとの決闘中……?」
この女に思い出すように言われて記憶を辿るのは癪ではあるが、思い出さなければこの状況は覆らないので仕方なく思い出す。
たった数日前の話だ、脳裏には今もありありとあの時の光景が蘇り、確かにあの時、俺はグラスの暴走した魔法から逃げ遅れた女生徒を助けたが────
「ま、まさかそれが……」
「はい!私です!」
「────」
嬉しそうにはにかむトラウマ女に俺は絶句する。まさかあの時助けたの女生徒がこの女だとは夢にも思わなかった。
────流石にあの時は必至だったし気が付かなかった……と言うか、それに気を遣うほど余裕がなかった。
たまに人助け、善行をしてみればこれである。やっぱり世界は俺のことが嫌いらしい。……マジで嫌われてるじゃん。
「ぶ、ブラッドレイ様?大丈夫ですか?」
「え?あーーーー、うん、大丈夫、大丈夫だから……」
途端に机に項垂れた俺を見てトラウマ女は癪にも心配をしてくる。やめてくれ、大変申し訳ないがお前に心配されても全く嬉しくない。それどころか寒気がするし、体調が更に悪化するまである。
────何とかして早く追い払わなければ……。
幸い……と言うべきか、この女は俺にお礼を言いに来ただけみたいだし、それも表面上は受け取った。ならばこれ以上関わる必要はない。俺はわざとらしく咳ばらいをして言葉を続ける。
「えーっと……あなたを助けたのは本当に偶然だし、別に恩義なんて感じる必要ない。こうして直接お礼を言ってくれたし、俺はそれをちゃんと受け取った。だからもう気にしなくていい」
少しでも油断すれば暴言が飛び出そうになるが我慢した。そして俺の包み隠した言葉の意としては暗に「早く失せろこの女!!」と言う意味を込めてのものだったが────
「いえ!そんな訳にはいきませんわ!帝国の淑女としてただ頭を下げておしまいと言うわけにはいきません。よければ私にお礼をさせてください!!」
「そんな気にしなくても…………ちょっと待ってくれ、今帝国って言ったか?」
「……?ええ、はい」
全く引き下がる気配がなく。なんなら面倒なことを口走った奴の言葉に違和感を覚える。
────どういうことだ?
一度目の記憶と差異が生じる。今、この女はハッキリと自分が帝国の出身であると言った。しかし、一度目の人生で聞いた彼女の故郷は帝国ではなく、遥か東方の遠国だったはずだ。詳しい名前……は思い出せないが確かにそのはずだ。
気が動転する。だからこそ俺は反射的に確かめてしまった。
「あんた、帝国の出身なのか?」
「はい!私は同盟国のシェイドエンド帝国の伯爵家ハイデンロットの次女でございます」
「……は???」
トラウマ女の返答に俺の思考は停止する。彼女のその話を、情報を俺は何一つ知らなかった。一度目の人生で確かに面識のある、因縁のある、破滅へと進んだ元凶であるこの女の今の言葉に全くの覚えがない。
────未来が、変化している?
そんなはずがない……とは言い切れないが一度目との多少の違いはあれどその人間の出身や出生が変化することは今まで一度もなかった。
それじゃあ、今起きてることはいったいどういうことなのか?
────そもそも一度目で俺はこの女に騙されていた……いや、記憶が改竄されていた?
そう言われた方がまだ納得できる。そう思えば確かにこの女の記憶は鮮明なものがあれば、全く覚えていないものがあったりと差が激しい。
「ブラッドレイ様?」
「ッ!!」
途端に眼前の女が得体の知れないモノへと変容する。こちらを心配するその表情が嘘くさく、張り付けられたものにしか思えない。一度目でこの女のことは全て知り尽くしていたと思っていた。けれどもそれは全くの見当違いだったらしい。
妖しく、女の紫紺の双眸が光る。それに魅入られると深く思考が微睡んでいき────強制的な夢が訪れようとする。その感覚には覚えがあり、一度目の俺ならば確実に抗えなかったであろうその魅惑に、
「────お前、俺に何をした?」
今回の俺は確かに抗えた。ハッキリと自分のモノではない魔力が無断で身体に入り込んでくる違和感。全身の血流が防衛本能によって活性化される。魔力は既に十全に行き渡り、いつでも眼前の異物を斬り伏せることは容易い。
「え?」
女の双眸が俺から外れる。確かに今、この女は俺に何かをしようとした。それを明確な敵意と捕らえ、今までなんとか取り繕っていた殺気をさらけ出す。
「なんのことで────」
「惚けるな。質問に答えろ……答えられないというのなら今すぐ俺の前から失せろ────不快だ」
本当は直ぐにその首を刎ね飛ばしたい。けれど感情に身を任せてそれをすれば俺は本来の目的を達することが出来なくなる。
────甘いと、自分でもわかっている。
それでも、今は見逃すしかない。それでも今後、俺に危害を加えなのならば────
「仕方がないから一度目は許してやる。だが、二度はないと知れ」
「ッ……ご、ごめんなさい!!」
有無を言わさずに忠告をすると女は血相を変えて図書館から出ていく。それで場は切り抜けられたと安心するが────
「……あ、やべ」
処かまわず殺気を晒した所為で館内には異様な緊張と静寂が満ちていた。これを解消するためにはこんな雰囲気にしてしまった元凶も即刻ここを立ち去る必要がある。
────どのみち、ここにはしばらく要はない……か。
唯一借りられた絵本を持って俺は席を立つ。
こうして俺は再び最大のトラウマとの邂逅を果たし、見事に撃退できた────
「吐きそう……」
と思っていた。
しかし、それは全くの見当違いであり更なる面倒ごとの予兆に過ぎなかった。
~第二章 学院入学編 閉幕~
本日二度目となる嘆き。人生と言うのは悉く上手くいかないものだとわかってはいるが、それにしたって二度目の俺の人生は上手くいかなさすぎだと思う。
「私、ずっとあなたに会いたかったんです!!」
「勘弁してくれ……」
なんだってこんな会いたくない奴ばかりに自然遭遇するっていうんだ。
────ヴァイスの時然り、もう呪われてるだろ。
目の前の女生徒こと、俺の人生最大のトラウマさんは何故か頬を赤らめてもじもじとしている。
艶やかな長い黒髪に切れ長な紫紺の瞳、白磁のような肌は一瞬でも陽に当たれば淡く消え入りそうで────一言でいえばこの女、見てくれだけは他とは一線を画している。
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────そう、あれは二年時の春ごろ、彼女が欲しい装飾品があるからと言ってそれを探すのに奔走して……。
「いかんいかん……」
流れで思い出したくない記憶がズルズルと引き出される。補足するとその装飾品を巡ってヴァイスと殺し合いにも発展した。
閑話休題。
それほど、この女は俺のトラウマを刺激してくる。その名を────
「その……突然話しかけてごめんなさい!私はレビィアと言います!私はずっと貴方に────ブラッドレイ様にお礼が言いたかったんです!!」
レビィア・ハイデンロットとは最低最悪の悪女である。悪、悪と連呼して頭が悪そうに思えるが本当なんだから仕方がない。
そんな彼女がどうしてまだ接点もクソもない俺の前に現れたのか? これが本当に分からない。お礼って本当に何の話だ。身に覚えがなさ過ぎて逆にそんなことをしてきたような気がしてきた。
「いや、それは聞きましたけど────俺、あなた……レビィア?さんに何かしましたっけ?」
軽く錯乱状態に陥りながらも、捲し立てるトラウマ女に待ったを掛けて俺は問い質す。ついでに名前も初めて聞きましたと言わんばかりに惚けておく。トラウマ女は俺が名前を誤爆したことなど気にも留めずに、悲し気に表情を曇らせて答えた。
「お、覚えていませんか?先日の合同訓練で〈氷結魔帝〉のグラス様との決闘中に助けた生徒のことを……?」
「グラスとの決闘中……?」
この女に思い出すように言われて記憶を辿るのは癪ではあるが、思い出さなければこの状況は覆らないので仕方なく思い出す。
たった数日前の話だ、脳裏には今もありありとあの時の光景が蘇り、確かにあの時、俺はグラスの暴走した魔法から逃げ遅れた女生徒を助けたが────
「ま、まさかそれが……」
「はい!私です!」
「────」
嬉しそうにはにかむトラウマ女に俺は絶句する。まさかあの時助けたの女生徒がこの女だとは夢にも思わなかった。
────流石にあの時は必至だったし気が付かなかった……と言うか、それに気を遣うほど余裕がなかった。
たまに人助け、善行をしてみればこれである。やっぱり世界は俺のことが嫌いらしい。……マジで嫌われてるじゃん。
「ぶ、ブラッドレイ様?大丈夫ですか?」
「え?あーーーー、うん、大丈夫、大丈夫だから……」
途端に机に項垂れた俺を見てトラウマ女は癪にも心配をしてくる。やめてくれ、大変申し訳ないがお前に心配されても全く嬉しくない。それどころか寒気がするし、体調が更に悪化するまである。
────何とかして早く追い払わなければ……。
幸い……と言うべきか、この女は俺にお礼を言いに来ただけみたいだし、それも表面上は受け取った。ならばこれ以上関わる必要はない。俺はわざとらしく咳ばらいをして言葉を続ける。
「えーっと……あなたを助けたのは本当に偶然だし、別に恩義なんて感じる必要ない。こうして直接お礼を言ってくれたし、俺はそれをちゃんと受け取った。だからもう気にしなくていい」
少しでも油断すれば暴言が飛び出そうになるが我慢した。そして俺の包み隠した言葉の意としては暗に「早く失せろこの女!!」と言う意味を込めてのものだったが────
「いえ!そんな訳にはいきませんわ!帝国の淑女としてただ頭を下げておしまいと言うわけにはいきません。よければ私にお礼をさせてください!!」
「そんな気にしなくても…………ちょっと待ってくれ、今帝国って言ったか?」
「……?ええ、はい」
全く引き下がる気配がなく。なんなら面倒なことを口走った奴の言葉に違和感を覚える。
────どういうことだ?
一度目の記憶と差異が生じる。今、この女はハッキリと自分が帝国の出身であると言った。しかし、一度目の人生で聞いた彼女の故郷は帝国ではなく、遥か東方の遠国だったはずだ。詳しい名前……は思い出せないが確かにそのはずだ。
気が動転する。だからこそ俺は反射的に確かめてしまった。
「あんた、帝国の出身なのか?」
「はい!私は同盟国のシェイドエンド帝国の伯爵家ハイデンロットの次女でございます」
「……は???」
トラウマ女の返答に俺の思考は停止する。彼女のその話を、情報を俺は何一つ知らなかった。一度目の人生で確かに面識のある、因縁のある、破滅へと進んだ元凶であるこの女の今の言葉に全くの覚えがない。
────未来が、変化している?
そんなはずがない……とは言い切れないが一度目との多少の違いはあれどその人間の出身や出生が変化することは今まで一度もなかった。
それじゃあ、今起きてることはいったいどういうことなのか?
────そもそも一度目で俺はこの女に騙されていた……いや、記憶が改竄されていた?
そう言われた方がまだ納得できる。そう思えば確かにこの女の記憶は鮮明なものがあれば、全く覚えていないものがあったりと差が激しい。
「ブラッドレイ様?」
「ッ!!」
途端に眼前の女が得体の知れないモノへと変容する。こちらを心配するその表情が嘘くさく、張り付けられたものにしか思えない。一度目でこの女のことは全て知り尽くしていたと思っていた。けれどもそれは全くの見当違いだったらしい。
妖しく、女の紫紺の双眸が光る。それに魅入られると深く思考が微睡んでいき────強制的な夢が訪れようとする。その感覚には覚えがあり、一度目の俺ならば確実に抗えなかったであろうその魅惑に、
「────お前、俺に何をした?」
今回の俺は確かに抗えた。ハッキリと自分のモノではない魔力が無断で身体に入り込んでくる違和感。全身の血流が防衛本能によって活性化される。魔力は既に十全に行き渡り、いつでも眼前の異物を斬り伏せることは容易い。
「え?」
女の双眸が俺から外れる。確かに今、この女は俺に何かをしようとした。それを明確な敵意と捕らえ、今までなんとか取り繕っていた殺気をさらけ出す。
「なんのことで────」
「惚けるな。質問に答えろ……答えられないというのなら今すぐ俺の前から失せろ────不快だ」
本当は直ぐにその首を刎ね飛ばしたい。けれど感情に身を任せてそれをすれば俺は本来の目的を達することが出来なくなる。
────甘いと、自分でもわかっている。
それでも、今は見逃すしかない。それでも今後、俺に危害を加えなのならば────
「仕方がないから一度目は許してやる。だが、二度はないと知れ」
「ッ……ご、ごめんなさい!!」
有無を言わさずに忠告をすると女は血相を変えて図書館から出ていく。それで場は切り抜けられたと安心するが────
「……あ、やべ」
処かまわず殺気を晒した所為で館内には異様な緊張と静寂が満ちていた。これを解消するためにはこんな雰囲気にしてしまった元凶も即刻ここを立ち去る必要がある。
────どのみち、ここにはしばらく要はない……か。
唯一借りられた絵本を持って俺は席を立つ。
こうして俺は再び最大のトラウマとの邂逅を果たし、見事に撃退できた────
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