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昇級決闘編
第59話 不調
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懐かしい夢を見た。
懐かしい……なんて感情を覚えると言うことは、基本的にそういう類の夢と言うのはその人にとっては良い思い出なのだろうが、俺がその日見た夢は所謂「悪夢」であり、自業自得な人生のトラウマの一つの焼き回しだった。
その夢は、一度目の人生で一回だけ〈昇級決闘〉に参加した時だ。
高い志もなく、怠惰な日々を過ごしていた俺がどうして一度だけ面倒極まりないそれに参加したのか? 大体、一度目の人生で俺が行動を起こすときの理由は決まっているわけで────確実にあの時も、俺はあの女に唆されて決闘に参加したのだ。
「カッコいいところが見たい」だとか「クレイム様はお強いです!」と言った煽て文句にまんまと釣られた一度目の愚かな俺は意気揚々と決闘に出て、一人の上級生に悉くぶちのめされた。
────ここまで来ると潔さすら覚えるな。
完膚なきまでに打ちのめされた自分の姿は正に、小物な悪役貴族そのもので、一般的な貴族のお手本のような振る舞いだ。そんな一度目の俺を清々しく成敗してくれた上級生のことは今でもハッキリと覚えている。
忘れるはずなんてない。何せ同じ〈血統魔法〉の〈継承者〉であり、あの学院で最も〈比類なき七剣〉に近い生徒だったのだ。
────名前は確か……。
一度目の記憶からその生徒の名前を呼び起こそうとして、そこで意識が唐突に引き上げられる。
眩い光と安堵……そして仄かに名残を孕む焦燥感によって俺は目を覚ました。
・
・
・
「はあ……」
いつものように早朝に目が覚めて寮の裏庭で鍛錬をする。しかし、気分は優れず、目覚めは最悪だった。そんな俺の沈んだ気分を模したかのように本日の天気は生憎の曇り空だ。
「大丈夫、レイくん?」
そして深く溜め息を吐いた俺を見かねて、隣で素振りをしていた勇者殿が下から覗き込むように心配をしてくる。
「あーーーー、うん、だいじょぶだいじょぶ……」
なんとも男らしからぬそのあざといしぐさに、普段ならば心の中でツコッミを入れるところだが今日の俺にはそんな余裕もない。
合同訓練が終わり、スチュアードだかスチューデントだかを決闘で打倒したヴァイスはその後もこうして鍛錬を続けている。もう別に無理をしてこのバカげた鍛錬を続ける必要はないのだが、彼の言い分としては「もう鍛錬をしないと落ち着かなくなっちゃった」とのこと。
────完全に毒されてしまったな……。
自分と同じ道を辿ろうとしている勇者殿には同情せざるを得ないが、他人を心配している場合ではないくらいに調子が悪すぎる。
素振りのキレは皆無で、こんなへなちょこな素振りをするぐらいなら死んだ方がマシだった。爺さんにこんな為体を晒そうものなら、ものすごく煽られてバカにしてくるだろう。そうしてそれに腹が立って無駄な小競り合いをするまでが常である。
────なんだったかなぁ……。
何か思い出したくない夢を見たような気がするが、思い出そうにも記憶は朧気だ。嫌な事だけは脳裏にハッキリと小堀付いていて、その残滓を手繰るように夢の内容を思い出そうとすると体調が悪化しているような気がした。
「きょ、今日は安静にしておいたら?」
「……いや、そこまでのもんじゃない。ありがとうな」
依然として心配してくれる勇者殿の気遣いに感謝しつつも素振りはやめない。別に熱があるわけでもあるまいし、どちらかと言えばこれは精神の問題である。クソみたいな素振りではあるが、やらないよりはマシ、なんならやってる最中で調子を取り戻す可能性だってある。ここで下手に休む暇なんてのは存在しないのだ。
────そろそろ、どうにかしないとな。
常々思っていたが、やはり俺はメンタルが色々と脆すぎる。
確かに、一度目の人生と比べれば身体も実力も魔法の扱いもマシになったし、それなりに戦えるようにはなったが所詮はそれだけだ。結局は一度目のトラウマに釣られて、崩れてしまう。
度々、同じ問題に直面しては改善しようとするが上手くいった試しがない。
「どうしたもんかなぁ……」
かと思えばこの前のレビィアの変な魔法は抵抗できた。
あの時、あの女は自分ではないと最後まで白を切っていたが、確実にあれは奴が行使した魔法だった。しかも普通の魔法ではなく、特別な血統をその身に宿した人間にしか扱えないはずの血統魔法だ。
────本当にどうなってるんだよ。
何度思い返しても一度目のあいつと今回のあいつでは別人すぎる。出身や魔法のことだってそうだ。何度、クソみたいな記憶を思い返してみても差異が生じてしまう。あの魔法は確実に人の精神に作用する類の魔法だ。そんな特異性のある魔法は十中八九、血統魔法しかありえない。詳しい魔法の効果は……一度目と先日の事から察するに精神に作用するモノだろう。
────わっかんねぇなぁ……。
考えれば考えるほど思考は混濁していく。何にしても情報が少なすぎる。断言するには早いかもしれないが、それでも分かったことだってあった。
一度目の人生、処刑された時点で何となく分かっていたことではあるが、俺はあの女の謎の血統魔法によって言葉巧みに操られ、そして陥れたのだと。先日の一件で疑いようのないものになった。それが分かっただけでも今は良しとしよう。
────今日から本格的に〈昇級決闘〉が始まるしな。
いつまでもあの女に気を取られている場合でもない。あの日から変に絡まれることもなくなったのだ。ならば今はそれで良しとしよう。あの女の処遇はある程度の事が片付いてからでも考えればいい。
「朝はこれぐらいにしとこう」
「分かりました!」
結論が付くころにはクソみたいな素振りもまあクソが消えかかるぐらいにはマシになった。切りの良いところで朝の鍛錬を切り上げる。無理にでも身体を動かしたお陰か気分もだいぶマシになった。やはり素振りは万能だ、素振りを信じていれば大抵の事は何とかなる。
これなら件の〈昇級決闘〉には支障を来さないだろう。
懐かしい……なんて感情を覚えると言うことは、基本的にそういう類の夢と言うのはその人にとっては良い思い出なのだろうが、俺がその日見た夢は所謂「悪夢」であり、自業自得な人生のトラウマの一つの焼き回しだった。
その夢は、一度目の人生で一回だけ〈昇級決闘〉に参加した時だ。
高い志もなく、怠惰な日々を過ごしていた俺がどうして一度だけ面倒極まりないそれに参加したのか? 大体、一度目の人生で俺が行動を起こすときの理由は決まっているわけで────確実にあの時も、俺はあの女に唆されて決闘に参加したのだ。
「カッコいいところが見たい」だとか「クレイム様はお強いです!」と言った煽て文句にまんまと釣られた一度目の愚かな俺は意気揚々と決闘に出て、一人の上級生に悉くぶちのめされた。
────ここまで来ると潔さすら覚えるな。
完膚なきまでに打ちのめされた自分の姿は正に、小物な悪役貴族そのもので、一般的な貴族のお手本のような振る舞いだ。そんな一度目の俺を清々しく成敗してくれた上級生のことは今でもハッキリと覚えている。
忘れるはずなんてない。何せ同じ〈血統魔法〉の〈継承者〉であり、あの学院で最も〈比類なき七剣〉に近い生徒だったのだ。
────名前は確か……。
一度目の記憶からその生徒の名前を呼び起こそうとして、そこで意識が唐突に引き上げられる。
眩い光と安堵……そして仄かに名残を孕む焦燥感によって俺は目を覚ました。
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「はあ……」
いつものように早朝に目が覚めて寮の裏庭で鍛錬をする。しかし、気分は優れず、目覚めは最悪だった。そんな俺の沈んだ気分を模したかのように本日の天気は生憎の曇り空だ。
「大丈夫、レイくん?」
そして深く溜め息を吐いた俺を見かねて、隣で素振りをしていた勇者殿が下から覗き込むように心配をしてくる。
「あーーーー、うん、だいじょぶだいじょぶ……」
なんとも男らしからぬそのあざといしぐさに、普段ならば心の中でツコッミを入れるところだが今日の俺にはそんな余裕もない。
合同訓練が終わり、スチュアードだかスチューデントだかを決闘で打倒したヴァイスはその後もこうして鍛錬を続けている。もう別に無理をしてこのバカげた鍛錬を続ける必要はないのだが、彼の言い分としては「もう鍛錬をしないと落ち着かなくなっちゃった」とのこと。
────完全に毒されてしまったな……。
自分と同じ道を辿ろうとしている勇者殿には同情せざるを得ないが、他人を心配している場合ではないくらいに調子が悪すぎる。
素振りのキレは皆無で、こんなへなちょこな素振りをするぐらいなら死んだ方がマシだった。爺さんにこんな為体を晒そうものなら、ものすごく煽られてバカにしてくるだろう。そうしてそれに腹が立って無駄な小競り合いをするまでが常である。
────なんだったかなぁ……。
何か思い出したくない夢を見たような気がするが、思い出そうにも記憶は朧気だ。嫌な事だけは脳裏にハッキリと小堀付いていて、その残滓を手繰るように夢の内容を思い出そうとすると体調が悪化しているような気がした。
「きょ、今日は安静にしておいたら?」
「……いや、そこまでのもんじゃない。ありがとうな」
依然として心配してくれる勇者殿の気遣いに感謝しつつも素振りはやめない。別に熱があるわけでもあるまいし、どちらかと言えばこれは精神の問題である。クソみたいな素振りではあるが、やらないよりはマシ、なんならやってる最中で調子を取り戻す可能性だってある。ここで下手に休む暇なんてのは存在しないのだ。
────そろそろ、どうにかしないとな。
常々思っていたが、やはり俺はメンタルが色々と脆すぎる。
確かに、一度目の人生と比べれば身体も実力も魔法の扱いもマシになったし、それなりに戦えるようにはなったが所詮はそれだけだ。結局は一度目のトラウマに釣られて、崩れてしまう。
度々、同じ問題に直面しては改善しようとするが上手くいった試しがない。
「どうしたもんかなぁ……」
かと思えばこの前のレビィアの変な魔法は抵抗できた。
あの時、あの女は自分ではないと最後まで白を切っていたが、確実にあれは奴が行使した魔法だった。しかも普通の魔法ではなく、特別な血統をその身に宿した人間にしか扱えないはずの血統魔法だ。
────本当にどうなってるんだよ。
何度思い返しても一度目のあいつと今回のあいつでは別人すぎる。出身や魔法のことだってそうだ。何度、クソみたいな記憶を思い返してみても差異が生じてしまう。あの魔法は確実に人の精神に作用する類の魔法だ。そんな特異性のある魔法は十中八九、血統魔法しかありえない。詳しい魔法の効果は……一度目と先日の事から察するに精神に作用するモノだろう。
────わっかんねぇなぁ……。
考えれば考えるほど思考は混濁していく。何にしても情報が少なすぎる。断言するには早いかもしれないが、それでも分かったことだってあった。
一度目の人生、処刑された時点で何となく分かっていたことではあるが、俺はあの女の謎の血統魔法によって言葉巧みに操られ、そして陥れたのだと。先日の一件で疑いようのないものになった。それが分かっただけでも今は良しとしよう。
────今日から本格的に〈昇級決闘〉が始まるしな。
いつまでもあの女に気を取られている場合でもない。あの日から変に絡まれることもなくなったのだ。ならば今はそれで良しとしよう。あの女の処遇はある程度の事が片付いてからでも考えればいい。
「朝はこれぐらいにしとこう」
「分かりました!」
結論が付くころにはクソみたいな素振りもまあクソが消えかかるぐらいにはマシになった。切りの良いところで朝の鍛錬を切り上げる。無理にでも身体を動かしたお陰か気分もだいぶマシになった。やはり素振りは万能だ、素振りを信じていれば大抵の事は何とかなる。
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