調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT

文字の大きさ
64 / 126
昇級決闘編

第61話 有象無象

しおりを挟む
 正式に学院内での〈昇級決闘〉が認められてから数日が経った。

「おらぁぁぁああああああ!!」

「これで終わりだ!!」

「死に晒せッ!!」

 学院内では今日もあちこちから雄叫びや罵声、そして剣戟やら魔法の音が鳴り響いていた。

 ────世紀末かな???

 そう思わずにはいられないくらいに学院内の治安は終わっていた。

 本日までの決闘によって出た負傷者は軽く百を超えて、既に学院内の複数施設が決闘の余波により立ち入り禁止となった。それだけでどれだけの決闘が行われてきたのかは想像に難くない。

 そんな生徒たちの首からは魔石の護符アミュレットがぶら下がっていて、それはその所持者によって様々な色へと変化している。

〈証明の護符〉

 それは持っている人間の〈学院階級〉によって勝手に色が変化する魔装具であり、視覚的な実力を証明するものである。

【第十級】ならば無色に、【第八級】ならば淡い緑に────その護符の色を見て生徒たちは自身の相手を選定し、決闘を申し込む。一生徒に決して安くはない魔道具を惜しみなく支給するのだから、本当に手の込んだ学内行事だ。ちなみに【第六級】を示す護符の色は橙色。例に漏れず、俺もその護符を首から下げているわけだが、今のところ護符の色が変化する気配は見られない。

 それもそのはずだ、俺はこの〈昇級決闘〉が始まってからまだ一度も決闘を申し込まれていない。

 ────なんで???

 困惑してみたが理由なんてのは分かり切っている。そもそも【第六級】に振り分けられた生徒の大半……と言うか俺意外が二~三年生で構成されており、一年生の教室と二、三年生の教室は物理的に離れているから学舎で遭遇することが稀である。加えて、上級生は現実的に将来が決まってしまう時期であり、自分の階級をいたずらに下げない為に、〈昇級決闘〉が始まったばかりの現時点ではまだ慎重に戦局を様子見している。

 そこに一年で唯一【第六級】の生徒が突然出てくればその警戒度は更に引き上がってしまう。ただでさえ決闘を取り付けられずらいと言うのに変に目立ってしまった所為で、昇級の難易度に拍車がかかってしまっている。

 ────俺が何をしたって言うんだ……。

 あからさまに避けられているような感覚は、世界どころかもっと身近な誰かに俺は嫌われているのかもしれないと錯覚させる。そんな訳もあってか俺は未だに一度も決闘をできていなかった。そんな俺とは対照的に同級生たちはとても活気に満ち溢れていた。

「あと二人倒せば【第七級】よ!直ぐに追いついて見せるから待ってなさいよレイ!!」

「ああ、うん。ガンバッテネ……」

「聞いてくださいアニキ!俺ももう少しで【第八級】に昇級なんです」

「スゴイネー……」

「レイくん!僕も次の人に勝てれば【第九級】だよ!」

「あはは……」

 別にもともと〈昇級決闘〉には参加するつもりなどなかった。本を借りるために仕方なく参加しているだけであって、本当に全くもって楽しそうなんて思ってはいないけれど、こうもあからさまに勝った負けた、昇級したしないの話をされると嫌でも気になってしまう。

 ────別にうらやましくなんてないし???

 本当だし。全くこれっぽちも俺も決闘したいなんて思ってはいない。俺はどこかの戦闘狂とは違うんだい。

 ……なんて強がってみるが、正直ここまで騒がれると気になってしまうのが人間という生き物。そもそも昇級できないと目的を達成できないので、普通に死活問題でもある。

「どうしたもんかな……」

 結構真面目に困っているわけだが、それだけには飽き足らず俺を悩ます悩みの種があった。と言うのも────

「お前を倒せば一気に飛び級だ!いざ尋常に勝負!!」

「今年で卒業なんだ!少しでも良い進路先を選ぶために、俺の糧となってくれ……卑怯だとは言うなよ一年生!!」

「ボーナスエネミー発見ッ!!」

 放課後になると次から次へとの生徒が襲い掛かってくるのだ。

 何故か?

 理由はもちろん、階級を上げるためである。別にこの〈昇級決闘〉は同じ階級同士でなくても成立するのだ。なんなら格下の級が格上の級を倒すと一気に倒した相手の級まで飛び級できるなんてルールも存在したりする。

 しかし、このルールはあってないようなものなのだ。

 だって格上としては格下の相手と決闘をするメリットが微塵もないのである。勝ったところで昇級に必要な勝星が増えるわけでもなし、何なら降格する危険まで孕んでいるのだからマジでやる意味がない。けれど自衛をしなければ無防備に痛めつけられるわけで、一度武器を抜けば首にぶら下げた〈証明の護符〉がそれを臨戦態勢と判断して決闘が成立してしまう。

 ────最初の説明にあった正々堂々はどこ行った???

 無駄に高性能な魔道具を支給してきた学院が今では恨めしい。そんな魔道具の性質を利用して半ば強引に決闘へと持ち込めてしまうわけで、ルールなんてのは名ばかり、建前であって、今のところなんら効力を発揮していなかった。本当にふざけんなこの野郎。

 そんなわけで今年が終われば卒業してしまう下級の追い詰められた上級生たちがこうして挑んでくることが増えた。そういう意味では今日まで俺は異様な数の決闘をこなしたわけだが、前述した通り全く成果はなかった。

 ────しかも変なのまで混じってるし。

 下手すれば暗殺まがいの強襲の中には一部変なの……確実にの手勢まで混じっていた。

「お前を殺せば俺はレビィアと結婚するんだ!!」

「レビィアたんにその首捧げろや!!」

「レビィアたん!レビィアたぁああああああん!!」

「うわぁ……」

 マジで勘弁してほしい。まだ軽くあしらえる程度だからいいものの、流石にこう連日で有象無象に絡まられると心労も蓄積する。「二度とその面を見せるな」とは言ったしその実、その約束は守られてるわけだが、だからと言って何らかの血統魔法で篭絡した手勢を送り込んでくるのは違うだろう。これはほんまもんの嫌がらせである。

 ────二度と会いたくはないが、致し方なく遭遇した場合は絶対に処す。

 と言うか、どうしてあの女は俺にこんな嫌がらせをしてくるのか、これが本当に分からない。一度目と違って、二度目の今回は全くの無関係だ。そんなに脅されたのが気に食わなかったのだろうか? どう転んでも俺はあの女に絡まれる運命なのだろうか?

「鬱だ……」

 本当に悉く上手くいかない。こんな理不尽な二度目の人生に「まあそういうもんだよね」と慣れ始めている自分も嫌だった。

 ────こうなりゃ俺も強者打倒ジャイアントキリングと洒落込むしかないか?

 今しがた降した格下(上級生)よろしく、俺も彼らと同じようにチンピラまがいのことに身を投じなければ昇級は難しいのかもしれない。けれど、こんなアホどもと同じ行為に及んで同列の存在に身を落とすのも癪な話だ。

 ……いや、龍を殺すためならば何でもする所存ではあるが、まだもう少し様子を見たいと言うのが本音である。

「マジで儘ならねぇ……」

 今日も一つも勝星が増えないまま一日が終わってしまうのかと、地面に無数に転がる生徒を一瞥して憂いていたところに────

「君がクレイム・ブラッドレイだね?」

 一人の生徒が声をかけてきた。

 また格下の生徒が襲い掛かってきたのかと身構えるがどうやら違うらしい。だって普通ならそんな確認をするまでもなく襲い掛かってくる奴らが常であるからだ。

「あー……はい、そうですけど────」

 明らかに様子の違うその生徒の方へと振り返ると、そこにはどこか見覚えのある生徒がいた。

「────は?」

 それも何故かクソ女レビィアを連れて……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...