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昇級決闘編
第87話 表彰式
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黒灰の騎士────〈五天剣〉タイラス・アーネルを打倒し、即座に地上へと戻ろうとした俺達はすぐに三階層の入り口まで来ていた救助隊と合流することができた。
「おい!ここに〈龍滅の派閥〉の残りの二人がいるぞ!!」
「話にあった謎の騎士は何処だ!?」
「大丈夫か、君達!!?」
当然ながら、招かれざる乱入者により〈最優五騎〉を決めるための最終選定【迷宮踏破】は大混乱に陥っていた。謎の黒灰の騎士により、最終選定に参加していた殆どの生徒が被害に遭い、決して軽くはない傷を負った。
死者が十名も出てしまい、これにより学院内の問題だけでは収まらず、王国も調査に乗り出した。迷宮にいた生徒全員が地上に戻ると、今回の騒動の現場となった学院が管理している迷宮は向こう数か月は立ち入り禁止となった。
これも当然と言えば当然な話で、学院で抜け目ない警備と管理がなされている迷宮に学院外の人間が不法侵入したとなれば大問題である。今回の騒動の原因を究明すべくこのような処置がなされた。それに紐づいて、実際に現場にいた各〈派閥〉にも事情聴取が執り行われた。
その中で唯一乱入者と戦闘をして、見事に打ち破って見せた俺は他の人よりも懇切丁寧な尋問────いわゆる、事情聴取が執り行われた。俺の尋問を担当したのはこの学院の長であるグイン学院長と、教師陣の中で一番の実力者であるヴォルト先生だ。この二人ならばある程度の事は話しても問題ないと判断して、俺は素直に事の顛末を話した。
「まさかそんなことが……」
「学院長、これは立派な国際問題です。直ぐにクロノスタリア王との謁見を────」
ある程度……主に今回の元凶であるタイラス・アーネルと帝国が関与している事を話すと、二人の尋問官は大変慌てた様子だった。
────聞かなかったことにしよう。
俺は二人の会話に耳を塞いで、逃げるようにその場を後にした。
俺が帝国……影龍に狙われていることや、クソ女……レビィアの事は敢えて伏せた。理由としてはそちらの方が俺にとって都合がいいからだ。バレれば普通に断罪ものだが、龍を殺すためにはこの情報は伏せておきたかった。あと、二人の尋問官がタイラス・アーネルの話だけで大混乱した様子だったので自重したのだ。しょうがないね。
そんなこんなで後始末や事情聴取なんかに追われていると気が付けば【迷宮踏破】から一週間も経っていた。これだけ時間が経てば周囲は漸く落ち着きを取り戻し、それと同時に一つの疑問が浮かび上がった。
「そういえば、〈昇級決闘〉の結果はどうなったんだ?」と。
全くもって呑気なものである。あれだけの大事件が起きておきながら、その頭の中は件の事件の余韻ではなく、「この学院の最強は結局誰になったのか?」なのだから。
しかしながら、それもまた魔剣学院の生徒らしいと思えてしまう。そして、塞ぎがちだった学院内の暗い雰囲気を払拭するにはやはり明るい報せや、それに準じたお祭りごとを企てるのが手っ取り早い。そんな訳で一週間前のやり直し、再び今年初の〈最優五騎〉を決めるための〈昇級決戦〉が行われると思っていたのだが────
「どうしてこうなった???」
どういうわけか俺────俺達と言うべきか────〈龍滅の派閥〉は全生徒が集まる大講堂で壇上にて表彰されていた。
「今年度、一回目の〈昇級決闘〉、全ての〈派閥〉を蹴散らし自分たちの力を見事に証明した〈龍滅の派閥〉に〈最優五騎〉の称号を与える」
────いや、本当になんで?
低く唸るような声でグイン学院長が俺に黒鉄の胸飾を手渡す。それがこの学院の最強の五人に与えられる証の中で最上位の【特級】を示すモノなのは言うまでもない。それに続いてフリージアと殿下が黄金の、ヴァイスとグラビテル嬢が白銀の胸飾を受け取った。
「喜び、讃えよ!これから貴殿らがこの一年をかけて目指す頂点の誕生である!!」
「「「うおぉぉおおおおおおおおおお!!」」」
壇上に上がり、表彰される俺達を見て生徒たちが思い思いの声を上げる。
「絶対に俺がお前の黒曜の胸飾を奪ってやる!!」
「一年で〈最優五騎〉とかこのバケモノどもめ!!」
「そのままお前らが三年間、その称号を守り抜け!そうすりゃ俺は大金持ちだ!!」
「俺の借金をどうしてくれるんだぁあああああ!!?」
そのどれもが俺達を祝福したり、宣戦布告であり、裏賭博の愚痴であったり……何故か彼らもこの状況を受け入れている。
壇上の脇に整列している他の〈派閥〉に視線を投げれば、やはり拍手をして祝福ムードだ。不意に未だ全身に包帯が巻かれたジェイド・カラミティと目が合う。その他の〈派閥〉の生徒もまだ完全には傷が癒えていなかった。
これが、再び〈昇級決戦〉が行われなかった理由の一つである。
たった一週間ではあの騒動の傷は完治せず、再び〈昇級決戦〉なんてできる状態ではなかった。
それじゃあなんで大講堂でこんな、まるで〈最優五騎〉が決まったようなかのような表彰式が執り行われているのか?
これはもう一つの理由が原因であった。今回の騒動の元凶である謎の騎士(殆どの生徒にはその詳しい名前などは伏せられている)を俺が打倒したと言う話は既に学院内に広まっていた。今回の〈最優五騎〉最有力候補であったジェイド・カラミティ率いる〈轟雷の派閥〉でさえも歯が立たなかった傑物を倒したとなれば、もう満場一致でこう思ったらしい。
『じゃあ、あのバケモノに勝てる奴なんていなくね?』と。
全くもって失礼な話である。そもそもあれは俺一人の力で倒したわけではないし、本当に偶然と奇跡の連続で手にした勝利であった。
もう一度やれと言われてもできる自信がないし。俺としては釈然としない勝利なのだ。だから、この結果には納得がいっていない。あと、誰がバケモンだ。潰すぞ。
しかし、そんな俺の釈然としない思いを押しつぶす事実がもう一つあった。それは、どういうわけか【迷宮踏破】での目標物である王冠を俺達の派閥が持ち帰ったことになっているのである。騒動のどさくさに紛れて誰がそんなことをしたのだと、調べてみればこれまたびっくり、犯人はグラビテル嬢だったのだ。彼女は逃げる直前にタイラス・アーネルがジェイド・カラミティと一緒に投げ捨てていたらしい王冠を回収していたのだと言う。
────本当になにしてんだよ……。
さり気ないと言うか、抜け目がないと言うか、異常事態で中止にはなったがそれでも王冠を持ち帰ったという事実は覆らない。
寧ろ何故か、この事実を学院の長は評価していた。そんな様々な理由が重なり、じゃあもういっそのこと俺達を〈最優五騎〉にして「学院の血気盛んな雰囲気を取り戻そう!」と言うのが学院側の意向らしい。つまり言い換えれば俺達は神輿を担がれたと言うわけだ。
────やっぱり釈然としねぇ……。
あっさり……と言うわけではないがまさかこんな感じで目的を達成できるとは思っていなかった。
脳内は様々な情報が渋滞してもう停止しそうである。それでも式は勝手に進んでいた。
考えることは大量にある、降って湧いてきた謎を気にする必要も出てきたし、龍も殺さなくちゃいけない。本当にやることが盛りだくさんである。
「儘ならねぇなぁ……」
日を増すごとに俺の本来の目的である平穏な未来とやらは遠ざかっていく。ここまで遠のくと本当にそんな未来が訪れるのか甚だ疑問でもあった。それでも────
「やったわね、レイ!!」
「ああ、うん。ソダネ……」
こんな滅茶苦茶な人生を仕方なくも受け入れている自分がいる。
人生と言うのはそう簡単に上手くなんていかない。それは一度目の人生や二度目の今回で嫌と言うほど思い知った。もうここまで来ると変に騒ぐの馬鹿らしく思えてくるし、人間、ときには「しょうがないね」と諦めも重要なのだ。
……やはり、だいぶ毒されてきているらしい。
満面の笑みを咲かせるフリージアを見て、俺は大きくため息を吐いた。
「おい!ここに〈龍滅の派閥〉の残りの二人がいるぞ!!」
「話にあった謎の騎士は何処だ!?」
「大丈夫か、君達!!?」
当然ながら、招かれざる乱入者により〈最優五騎〉を決めるための最終選定【迷宮踏破】は大混乱に陥っていた。謎の黒灰の騎士により、最終選定に参加していた殆どの生徒が被害に遭い、決して軽くはない傷を負った。
死者が十名も出てしまい、これにより学院内の問題だけでは収まらず、王国も調査に乗り出した。迷宮にいた生徒全員が地上に戻ると、今回の騒動の現場となった学院が管理している迷宮は向こう数か月は立ち入り禁止となった。
これも当然と言えば当然な話で、学院で抜け目ない警備と管理がなされている迷宮に学院外の人間が不法侵入したとなれば大問題である。今回の騒動の原因を究明すべくこのような処置がなされた。それに紐づいて、実際に現場にいた各〈派閥〉にも事情聴取が執り行われた。
その中で唯一乱入者と戦闘をして、見事に打ち破って見せた俺は他の人よりも懇切丁寧な尋問────いわゆる、事情聴取が執り行われた。俺の尋問を担当したのはこの学院の長であるグイン学院長と、教師陣の中で一番の実力者であるヴォルト先生だ。この二人ならばある程度の事は話しても問題ないと判断して、俺は素直に事の顛末を話した。
「まさかそんなことが……」
「学院長、これは立派な国際問題です。直ぐにクロノスタリア王との謁見を────」
ある程度……主に今回の元凶であるタイラス・アーネルと帝国が関与している事を話すと、二人の尋問官は大変慌てた様子だった。
────聞かなかったことにしよう。
俺は二人の会話に耳を塞いで、逃げるようにその場を後にした。
俺が帝国……影龍に狙われていることや、クソ女……レビィアの事は敢えて伏せた。理由としてはそちらの方が俺にとって都合がいいからだ。バレれば普通に断罪ものだが、龍を殺すためにはこの情報は伏せておきたかった。あと、二人の尋問官がタイラス・アーネルの話だけで大混乱した様子だったので自重したのだ。しょうがないね。
そんなこんなで後始末や事情聴取なんかに追われていると気が付けば【迷宮踏破】から一週間も経っていた。これだけ時間が経てば周囲は漸く落ち着きを取り戻し、それと同時に一つの疑問が浮かび上がった。
「そういえば、〈昇級決闘〉の結果はどうなったんだ?」と。
全くもって呑気なものである。あれだけの大事件が起きておきながら、その頭の中は件の事件の余韻ではなく、「この学院の最強は結局誰になったのか?」なのだから。
しかしながら、それもまた魔剣学院の生徒らしいと思えてしまう。そして、塞ぎがちだった学院内の暗い雰囲気を払拭するにはやはり明るい報せや、それに準じたお祭りごとを企てるのが手っ取り早い。そんな訳で一週間前のやり直し、再び今年初の〈最優五騎〉を決めるための〈昇級決戦〉が行われると思っていたのだが────
「どうしてこうなった???」
どういうわけか俺────俺達と言うべきか────〈龍滅の派閥〉は全生徒が集まる大講堂で壇上にて表彰されていた。
「今年度、一回目の〈昇級決闘〉、全ての〈派閥〉を蹴散らし自分たちの力を見事に証明した〈龍滅の派閥〉に〈最優五騎〉の称号を与える」
────いや、本当になんで?
低く唸るような声でグイン学院長が俺に黒鉄の胸飾を手渡す。それがこの学院の最強の五人に与えられる証の中で最上位の【特級】を示すモノなのは言うまでもない。それに続いてフリージアと殿下が黄金の、ヴァイスとグラビテル嬢が白銀の胸飾を受け取った。
「喜び、讃えよ!これから貴殿らがこの一年をかけて目指す頂点の誕生である!!」
「「「うおぉぉおおおおおおおおおお!!」」」
壇上に上がり、表彰される俺達を見て生徒たちが思い思いの声を上げる。
「絶対に俺がお前の黒曜の胸飾を奪ってやる!!」
「一年で〈最優五騎〉とかこのバケモノどもめ!!」
「そのままお前らが三年間、その称号を守り抜け!そうすりゃ俺は大金持ちだ!!」
「俺の借金をどうしてくれるんだぁあああああ!!?」
そのどれもが俺達を祝福したり、宣戦布告であり、裏賭博の愚痴であったり……何故か彼らもこの状況を受け入れている。
壇上の脇に整列している他の〈派閥〉に視線を投げれば、やはり拍手をして祝福ムードだ。不意に未だ全身に包帯が巻かれたジェイド・カラミティと目が合う。その他の〈派閥〉の生徒もまだ完全には傷が癒えていなかった。
これが、再び〈昇級決戦〉が行われなかった理由の一つである。
たった一週間ではあの騒動の傷は完治せず、再び〈昇級決戦〉なんてできる状態ではなかった。
それじゃあなんで大講堂でこんな、まるで〈最優五騎〉が決まったようなかのような表彰式が執り行われているのか?
これはもう一つの理由が原因であった。今回の騒動の元凶である謎の騎士(殆どの生徒にはその詳しい名前などは伏せられている)を俺が打倒したと言う話は既に学院内に広まっていた。今回の〈最優五騎〉最有力候補であったジェイド・カラミティ率いる〈轟雷の派閥〉でさえも歯が立たなかった傑物を倒したとなれば、もう満場一致でこう思ったらしい。
『じゃあ、あのバケモノに勝てる奴なんていなくね?』と。
全くもって失礼な話である。そもそもあれは俺一人の力で倒したわけではないし、本当に偶然と奇跡の連続で手にした勝利であった。
もう一度やれと言われてもできる自信がないし。俺としては釈然としない勝利なのだ。だから、この結果には納得がいっていない。あと、誰がバケモンだ。潰すぞ。
しかし、そんな俺の釈然としない思いを押しつぶす事実がもう一つあった。それは、どういうわけか【迷宮踏破】での目標物である王冠を俺達の派閥が持ち帰ったことになっているのである。騒動のどさくさに紛れて誰がそんなことをしたのだと、調べてみればこれまたびっくり、犯人はグラビテル嬢だったのだ。彼女は逃げる直前にタイラス・アーネルがジェイド・カラミティと一緒に投げ捨てていたらしい王冠を回収していたのだと言う。
────本当になにしてんだよ……。
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寧ろ何故か、この事実を学院の長は評価していた。そんな様々な理由が重なり、じゃあもういっそのこと俺達を〈最優五騎〉にして「学院の血気盛んな雰囲気を取り戻そう!」と言うのが学院側の意向らしい。つまり言い換えれば俺達は神輿を担がれたと言うわけだ。
────やっぱり釈然としねぇ……。
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「儘ならねぇなぁ……」
日を増すごとに俺の本来の目的である平穏な未来とやらは遠ざかっていく。ここまで遠のくと本当にそんな未来が訪れるのか甚だ疑問でもあった。それでも────
「やったわね、レイ!!」
「ああ、うん。ソダネ……」
こんな滅茶苦茶な人生を仕方なくも受け入れている自分がいる。
人生と言うのはそう簡単に上手くなんていかない。それは一度目の人生や二度目の今回で嫌と言うほど思い知った。もうここまで来ると変に騒ぐの馬鹿らしく思えてくるし、人間、ときには「しょうがないね」と諦めも重要なのだ。
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