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刻王祭編
第94話 再会と説教と
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「おかえりなさいませ、レイ様」
「はい、ただいま戻りましたよッ!」
やはりと言うべきか、屋敷へ入ると当然のようにメイドのカンナが出迎えてくれた。
三ヵ月ぶりの再会だと言うのに感動なんてあったもんじゃない。学院から連れてきた友人を紹介するよりも先に俺は彼女に尋ねた。
「帰ってきて早々申し訳ないんだけど、フリージアが来てるってレブ爺から聞いた。それって本当?」
「はい、来てますね。そのお陰でこうしてレイ様のお出迎えの準備ができています」
「……」
やはり彼女は俺達よりいち早く屋敷に来ているらしい。カンナの言葉通り、屋敷の中は少々騒がしく、使用人が中を行ったり来たりしていた。「お出迎えの準備」とは具体的に何をしているのかは分からないが忙しそうである。普通に申し訳ない。やはり、連絡なしで突然帰ってくるのは今度から控えよう。
「フリージア様なら今はお嬢様のお部屋かと……」
「そうか……」
当然、メイド長であるカンナも忙しいわけで俺が知りたいことを教えてくれると直ぐに仕事へと戻っていった。
聞いてもないのに答えてくれる、ついでにと俺達の荷物まで預かって去っていく……流石は仕事デキのカンナだ。
「さて……」
「ど、どうするのレイくん?」
肩を回して関節をほぐす俺を見て勇者殿は落ち着かない様子だ。本当ならば父様のところに一番最初に赴き、二人の紹介をするべきなのだが────
「すまん、ヴァイス。居場所を突き止めたからには俺はあのアホを問い詰めなきゃいけない。後でちゃんと父のところに行くから今は黙ってついてきてくれ……」
「う、うん。それはいいんだけど……」
「レビィアもいいな?」
「どこまでもお供します!!」
「よし」
二人からの了承が得られた。実兄である俺を差し置いて、先に妹のアリスに会いに行くなど言語道断だ。いくら婚約者(一応)の彼女でもこればかりは看過できない。
────よろしい、ならば戦争である。
・
・
・
アリスの部屋へと向かう道中、すれ違う使用人たちに「おかえりなさいませ」と挨拶をされながら俺達は目的の部屋の前へとたどり着く。
────思えば、一度目の人生でこんなに屋敷の人たちから帰宅を歓迎されたことがあっただろうか?
ハッキリと断言しよう、無い。一度目のクズな俺は何処へ行っても厄介者であり、それは実家であっても変わりなかった。それが今ではこうして暖かく出迎えてもらえるのだから感慨深い。
「あのアホの悪戯が無ければもっと喜べただろうに……」
何とも心温まる感動をここまでの道中で体験したわけだが、それを塗りつぶすほどの憤りを覚え、それが原因で変に頭に血が上って全て台無しである。
────この落とし前、どうつけてもらおうか……。
時間が経過するごとに俺の中で彼女の罪状は重なる。既に彼女が助かる道は無いに等しい。
やはりと言うべきか眼前の扉の奥にはカンナの言葉通りアリスとフリージアがいるようだった。微かに聞こえる笑い声に俺の遣る瀬無い怒りは最高潮だ。
「俺だってアリスと楽しくお喋りしたいのにッ……!!」
「れ、レイくん?」
「し、嫉妬してるレイ様、尊い……」
歯噛みし、怒りの炎に身が焼かれるような思いで、俺は静かに部屋の扉をノックした。
すると「どうぞ」と、随分と懐かしく感じる少女の声がする。俺は何とか怒りとは別の衝動を抑え込んで、ゆっくりと扉を開けて部屋の中に入る。そうして中にいた二人の少女────アリスとフリージアが俺達を出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、お兄様」
「遅かったわね、レイ!」
目を黒い布で覆った少女はまるでこちらが見えてるように顔を向けて微笑む。今も、その眼は〈影龍〉のノロイによってほとんど光を閉ざし、何も映し出すことはない。それでもアリスはそのことを感じさせないほど強く、逞しく、そこにいた。そして隣で得気に平たい胸を張っているアホはとりあえず無視することに決めた。どうやらこの罪人は自分の犯した罪を自覚していないらしい。
「ッ……ああ、ただいまアリス」
思わず、今までため込んでいた感情が吐き出そうになる。
ずっと会いたかった、元気にすごせているかずっと心配だった、悲しい思いをしてないか、辛い思いをしていないか気が気ではなかった。そんな無数の不安が彼女の嬉しそうな笑顔を見た瞬間に霧散した。
「お元気そうで何よりです」
「アリスの方こそ……元気そうでよかったよ」
「私もいるわよ!」
自然と足はアリスの腰掛けているベットを近づき、俺は優しく彼女を抱きしめていた。隣の雑音は無視する。
腕を回すと、力強くアリスが抱きしめ返してきた。〈影龍〉のノロイによって今もアリスの身体はその力に蝕まれ続けている。それでも彼女は理不尽な運命に立ち向かおうと確かに強さを手に入れた。
────本当に、敵わないな……。
そこには三ヵ月前よりも何倍も成長した妹の姿があった。
思わず俺は涙が零れそうになって、寸でのところで堪えた。涙を流すには、俺はまだ何も成し遂げられていない。泣く資格すらないのだ。再開の抱擁を終えると、アリスは俺に尋ねてきた。
「それで……そちらのお二人はどちら様……お兄様とはどういったご関係の方達なのですか?」
アリスに見られたヴァイスとレビィアはびくりと身体を震わせて、彼女の前まで歩み寄る。そこで俺が紹介をした。
「二人は学院でできた友人……ヴァイスとレビィアだ。夏季休暇に行く場所が無いって言うからウチに招いたんだ」
「よ、よろしくお願いします!」
「流石はレイ様の妹君……|容姿が神がかりすぎてる……!!」
「ねえ、ちょっと聞いてるの!?」
慌てたようにお辞儀をする勇者殿と昇天しそうなクソ女。そんな二人を見てアリスは興奮気味に言葉を続けた。何かが勢いよく俺の腕を掴んでくるが無視する。
「まあ!魔剣学院のご学友の方たちだったのですね!妹のアリスです、いつも兄がお世話になっています!」
「そ、そんなお世話になってるのは俺の方で……」
「そ、そうですそうです!!」
「レイってば!!」
ぺこぺこお辞儀合戦をする三人の光景をほほえましく思いながら、俺は隣でずっとうるさく騒いでいた公爵令嬢を一瞥する。
「色々と聞きたいことはあるが……まずはこの俺を差し置いて先にアリスと楽しくお喋りしているとは何事だ?」
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃない。ちょっとしたサプライズよ……」
漸く俺の怒りが伝わったのかフリージアは焦ったように視線を泳がせる。そこに俺は更に質問を重ねた。
「そもそもなんでウチにいる。自分の家はどうした?」
「実家には帰らないわ。「レイの家で鍛錬をする」って言ったら、お父様も許可を出してくれたし、貴方のお義父様も快く承諾してくれたから、そのままこっちに来て……」
「その話、俺は何も聞いてないんだけど???」
「そ、それはほら、みんなをちょっと驚かしてみようかなって────」
「俺は、何も、聞いていないんだが???」
「……」
笑顔で聞き返す俺と対照的に顔を青ざめさせるフリージア。事の重大さを理解したらしい。
「何か言うことがあるかな???」
「す、すみませんでした……」
そうだね、謝罪だね。報連相は大切だよね。俺は深く頷き、言葉を続ける。
「まあ、別にウチで鍛錬するのは構わない。父様も許可を出してるしな。しかし、俺よりも先にアリスに会ったことだけは許せん。これだけは二度とやってはいけない、分かったな?」
「う、うん……」
「分かってくれたなら、初犯の今回だけは許してやる」
一度目ならば許そう。人間だもの、間違うことだってあるのだ。しかし、次はない。
説教もほどほどに、アリスとヴァイス達も挨拶を終えた様子だった。こうして俺はアリスとの再会を果たしたのであった。
「はい、ただいま戻りましたよッ!」
やはりと言うべきか、屋敷へ入ると当然のようにメイドのカンナが出迎えてくれた。
三ヵ月ぶりの再会だと言うのに感動なんてあったもんじゃない。学院から連れてきた友人を紹介するよりも先に俺は彼女に尋ねた。
「帰ってきて早々申し訳ないんだけど、フリージアが来てるってレブ爺から聞いた。それって本当?」
「はい、来てますね。そのお陰でこうしてレイ様のお出迎えの準備ができています」
「……」
やはり彼女は俺達よりいち早く屋敷に来ているらしい。カンナの言葉通り、屋敷の中は少々騒がしく、使用人が中を行ったり来たりしていた。「お出迎えの準備」とは具体的に何をしているのかは分からないが忙しそうである。普通に申し訳ない。やはり、連絡なしで突然帰ってくるのは今度から控えよう。
「フリージア様なら今はお嬢様のお部屋かと……」
「そうか……」
当然、メイド長であるカンナも忙しいわけで俺が知りたいことを教えてくれると直ぐに仕事へと戻っていった。
聞いてもないのに答えてくれる、ついでにと俺達の荷物まで預かって去っていく……流石は仕事デキのカンナだ。
「さて……」
「ど、どうするのレイくん?」
肩を回して関節をほぐす俺を見て勇者殿は落ち着かない様子だ。本当ならば父様のところに一番最初に赴き、二人の紹介をするべきなのだが────
「すまん、ヴァイス。居場所を突き止めたからには俺はあのアホを問い詰めなきゃいけない。後でちゃんと父のところに行くから今は黙ってついてきてくれ……」
「う、うん。それはいいんだけど……」
「レビィアもいいな?」
「どこまでもお供します!!」
「よし」
二人からの了承が得られた。実兄である俺を差し置いて、先に妹のアリスに会いに行くなど言語道断だ。いくら婚約者(一応)の彼女でもこればかりは看過できない。
────よろしい、ならば戦争である。
・
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アリスの部屋へと向かう道中、すれ違う使用人たちに「おかえりなさいませ」と挨拶をされながら俺達は目的の部屋の前へとたどり着く。
────思えば、一度目の人生でこんなに屋敷の人たちから帰宅を歓迎されたことがあっただろうか?
ハッキリと断言しよう、無い。一度目のクズな俺は何処へ行っても厄介者であり、それは実家であっても変わりなかった。それが今ではこうして暖かく出迎えてもらえるのだから感慨深い。
「あのアホの悪戯が無ければもっと喜べただろうに……」
何とも心温まる感動をここまでの道中で体験したわけだが、それを塗りつぶすほどの憤りを覚え、それが原因で変に頭に血が上って全て台無しである。
────この落とし前、どうつけてもらおうか……。
時間が経過するごとに俺の中で彼女の罪状は重なる。既に彼女が助かる道は無いに等しい。
やはりと言うべきか眼前の扉の奥にはカンナの言葉通りアリスとフリージアがいるようだった。微かに聞こえる笑い声に俺の遣る瀬無い怒りは最高潮だ。
「俺だってアリスと楽しくお喋りしたいのにッ……!!」
「れ、レイくん?」
「し、嫉妬してるレイ様、尊い……」
歯噛みし、怒りの炎に身が焼かれるような思いで、俺は静かに部屋の扉をノックした。
すると「どうぞ」と、随分と懐かしく感じる少女の声がする。俺は何とか怒りとは別の衝動を抑え込んで、ゆっくりと扉を開けて部屋の中に入る。そうして中にいた二人の少女────アリスとフリージアが俺達を出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、お兄様」
「遅かったわね、レイ!」
目を黒い布で覆った少女はまるでこちらが見えてるように顔を向けて微笑む。今も、その眼は〈影龍〉のノロイによってほとんど光を閉ざし、何も映し出すことはない。それでもアリスはそのことを感じさせないほど強く、逞しく、そこにいた。そして隣で得気に平たい胸を張っているアホはとりあえず無視することに決めた。どうやらこの罪人は自分の犯した罪を自覚していないらしい。
「ッ……ああ、ただいまアリス」
思わず、今までため込んでいた感情が吐き出そうになる。
ずっと会いたかった、元気にすごせているかずっと心配だった、悲しい思いをしてないか、辛い思いをしていないか気が気ではなかった。そんな無数の不安が彼女の嬉しそうな笑顔を見た瞬間に霧散した。
「お元気そうで何よりです」
「アリスの方こそ……元気そうでよかったよ」
「私もいるわよ!」
自然と足はアリスの腰掛けているベットを近づき、俺は優しく彼女を抱きしめていた。隣の雑音は無視する。
腕を回すと、力強くアリスが抱きしめ返してきた。〈影龍〉のノロイによって今もアリスの身体はその力に蝕まれ続けている。それでも彼女は理不尽な運命に立ち向かおうと確かに強さを手に入れた。
────本当に、敵わないな……。
そこには三ヵ月前よりも何倍も成長した妹の姿があった。
思わず俺は涙が零れそうになって、寸でのところで堪えた。涙を流すには、俺はまだ何も成し遂げられていない。泣く資格すらないのだ。再開の抱擁を終えると、アリスは俺に尋ねてきた。
「それで……そちらのお二人はどちら様……お兄様とはどういったご関係の方達なのですか?」
アリスに見られたヴァイスとレビィアはびくりと身体を震わせて、彼女の前まで歩み寄る。そこで俺が紹介をした。
「二人は学院でできた友人……ヴァイスとレビィアだ。夏季休暇に行く場所が無いって言うからウチに招いたんだ」
「よ、よろしくお願いします!」
「流石はレイ様の妹君……|容姿が神がかりすぎてる……!!」
「ねえ、ちょっと聞いてるの!?」
慌てたようにお辞儀をする勇者殿と昇天しそうなクソ女。そんな二人を見てアリスは興奮気味に言葉を続けた。何かが勢いよく俺の腕を掴んでくるが無視する。
「まあ!魔剣学院のご学友の方たちだったのですね!妹のアリスです、いつも兄がお世話になっています!」
「そ、そんなお世話になってるのは俺の方で……」
「そ、そうですそうです!!」
「レイってば!!」
ぺこぺこお辞儀合戦をする三人の光景をほほえましく思いながら、俺は隣でずっとうるさく騒いでいた公爵令嬢を一瞥する。
「色々と聞きたいことはあるが……まずはこの俺を差し置いて先にアリスと楽しくお喋りしているとは何事だ?」
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃない。ちょっとしたサプライズよ……」
漸く俺の怒りが伝わったのかフリージアは焦ったように視線を泳がせる。そこに俺は更に質問を重ねた。
「そもそもなんでウチにいる。自分の家はどうした?」
「実家には帰らないわ。「レイの家で鍛錬をする」って言ったら、お父様も許可を出してくれたし、貴方のお義父様も快く承諾してくれたから、そのままこっちに来て……」
「その話、俺は何も聞いてないんだけど???」
「そ、それはほら、みんなをちょっと驚かしてみようかなって────」
「俺は、何も、聞いていないんだが???」
「……」
笑顔で聞き返す俺と対照的に顔を青ざめさせるフリージア。事の重大さを理解したらしい。
「何か言うことがあるかな???」
「す、すみませんでした……」
そうだね、謝罪だね。報連相は大切だよね。俺は深く頷き、言葉を続ける。
「まあ、別にウチで鍛錬するのは構わない。父様も許可を出してるしな。しかし、俺よりも先にアリスに会ったことだけは許せん。これだけは二度とやってはいけない、分かったな?」
「う、うん……」
「分かってくれたなら、初犯の今回だけは許してやる」
一度目ならば許そう。人間だもの、間違うことだってあるのだ。しかし、次はない。
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