調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT

文字の大きさ
99 / 126
刻王祭編

第95話 近況報告

しおりを挟む
 アリスの部屋でフリージアを説教をした俺は彼女達を引き攣れて、父ジークの執務室へと訪れていた。

「三人ともこの休暇期間は自分の家だと思って過ごしてくれ」

「「「ありがとうございます!」」」

 挨拶もほどほどに帰宅の報告とヴァイスとレビィアの紹介を済ませて、ジークは部屋の外で待機していた使用人にこの休暇期間中に三人が使う部屋の案内を指示する。

「長時間の移動で疲れただろう。鍛錬は明日からにして今日はゆっくりと休むといい」

「お気遣いありがとうございます、ジーク侯爵」

 三人を代表して罪人系お嬢様がお礼を言って、隣の二人は慌てたようにお辞儀をする。明らかに緊張した様子のヴァイスとレビィアをジークは微笑ましく認めた。そうして三人はそのまま使用人に促されるままに部屋を後にして、俺だけが部屋に残される。

「まあそんなに気を張るな。とりあえず座れ」

「……はい」

 余程、俺の表情が硬かったのかジークはおかしそうに笑うとソファーに深く腰を沈めた。それに倣って俺も対面のソファーに座る。

 緊張するなと言う方が難しい。一度目の人生ならばこうして執務室に呼び出され、ソファーに座らされるときは決まって説教をされる時だった。その時の記憶の所為か、体が勝手に身構えてしまう。今の父の反応から見て分かる通りこれから説教をされると言うわけでもない、そうとはわかっていても緊張はしてしまう。

 そうして、なぜ俺だけ取り残されてこれから何を話すと言うのか────

「学院生活は随分と充実して、慌ただしいみたいだな、レイ?王城に居てもよくお前の話を耳にするよ」

「まあ、はい……残念ながら」

 内容なんてのは分かり切っている。細かな近況報告とこの前の騒動の件だ。

 国の要職であるジークの耳にも学院であった【迷宮踏破ダンジョンアタック】の騒動は既に届いており、その渦中にて、〈五天剣〉を打倒してしまった俺と情報のすり合わせをしたいのだろう。

 ────俺も聞きたいことがあったからちょうどいい。

 切り出された話に対して、なんと続けたものか言葉を選んでいるとジークは大変嬉しそうに笑った。

「あれだけ「行きたくない」と騒いでいたのに、いざ入学してしまえばたったの三ヵ月で〈最優五騎〉になってしまうのだから本当に驚いたよ」

「まあ、そうしないといけない理由があったと言いますか……全部、あのクソトカゲが悪いんです」

 実に愉快そうに表情を緩めるジークとは対照的に俺の顔は引き攣っていることだろう。何度でも言うが俺としても学院でのことは全て予想外なのだ。そんな俺の心境を知ってか知らずかジークは言葉を続けた。

「まさか帝国の〈五天剣〉、それも第二剣を倒すとはな……もういつでもお前に家の事を任せられそうで俺としては安心だよ」

「いえいえ、俺なんかまだまだですよ。それにあれは俺一人だけの力じゃありませんから」

「随分と謙遜するんだな。だとしても帝国の最強の騎士を倒したとなればもう少し調子に乗るものだろう。仮に俺がそんなことしたら調子に乗ってるぞ」

「あはは……調子に乗るのはもう懲りたので……」

 冗談交じりのつもりで父は言ったのだろうが俺としては全くもって笑えない冗談である。

 なんなら自制してるつもりでも偶に血が昂って調子に乗ってしまうのだ。ブラッドレイの血筋ゆえか、我慢してもこうなのだから自制しなければどうなることか……それを考えると調子になんて乗ってはいられない。それに────

「今回の一件で、自分がまだまだ未熟だと言うことを痛感しました。〈影龍〉を殺すにはまだ到底、実力が足りません」

「……そう、だな。彼の龍を打倒するのならば〈五天剣〉でも安心できないな」

 俺の言葉にジークは表所を引き締め深く頷く。それを認めて、俺は話を切り替える。

「それで今回の件で何か父様の方で分かったことはありますか?」

「うむ、国から正式に問い質してはいるのだが帝国の方は黙りでな、それどころか不気味なほどに他国との接触を避けているようなのだ」

「それは……」

「ここ六年で親交が薄くなってはいたが、そこに来て今回の件だ。陛下も今回の件を重く受け止めて慎重になられている。探りを入れるにはもう少し時間が掛かるだろう」

「そう、ですか……」

 やはりと言うべきか、国を通した正規の場でも帝国からの回答はまだないらしい。深刻そうに顔を顰めるジークの気持ちは語らずとも察せられた。それでも彼は直ぐに表情を一転させて笑って見せた。

「それでも今回、お前が無事で本当に良かった。それどころか〈五天剣〉を倒してしまうのだから要らぬ心配だったかもな!」

「そんなことは……」

「それにしてもレイよ。学院に通い始めてから随分とフリージアと親密な関係になったようだな」

 快活に笑う父にどう反応するべきか悩んでいると、思わぬ話題に話が動いた。

「え?」

「二人が家の裏庭で決闘をしたときはどうなることかと思ったが、着実に仲良くなってくれているようで俺は嬉しいぞ。さっきもレイ達が帰ってくる前までフリージアと話をしていたんだがな、その時に彼女にお義父さまと呼ばれてなぁ────」

「ちょ、ちょ……っと待ってください父様」

「ん?なんだ、どうした?」

 妙に嬉しそうに語る父に水を差すようで申し訳ないが、俺は待ったを掛ける。

 誰が、誰のことを「お義父さま」と呼んだって? フリージアが父様を? なんで??? 

 何度話を脳裏に反芻させても理解できない。不思議で仕方がない。理屈が分からない。

 ────どうしてそうなった???

 確かに表面上、俺とフリージアは婚約者であり将来を誓い合った仲ではある。が、それはあくまで表面上であって、俺と彼女の間に色恋なんて言う感情は存在しないはずだ。今でこそ良好な関係を築けてはいるがそれは偏に好敵手としてであって、彼女が俺に好意を持っているとは────

「急に黙り込んでどうしたレイ? やはり流石のお前でも慣れない馬車での移動は堪えたか?」

「あ、いや、そういうわけでは……」

 考えすぎて思考がこんがらがってきた。

 ────誰と誰が仲良くなって、このまま問題なく結婚できそうだって? 最近の彼女の様子のおかしさには変に拍車が掛かっているとは思っていたが、まさかそういうことだと言うのか? 小さい頃の印象に引っ張られすぎて俺だけが変な勘違いをしていたと言うのか?

「わ、わっかんねぇ……」

 やはり困惑する俺を見て、父はとても楽しそうに笑う。

「くっ、ははははははは! なんだそういうことか。レイよ、お前は鍛錬に打ち込みすぎだ。もう少し女心と言う奴も勉強しないとな!」

「は、はあ……」

 人生の先達として少し生々しい助言をしてくれる父に俺の心境は複雑だ。と言うか、普通に父親とそういう話をするのが恥ずかしい。こればかりは一度目の人生の弊害だ。

 ────なんとか話をそらさなければ……。

 旗色の悪い状況にそう判断するが、こちらが策を弄する前に救世主が勝手にやってくる。

『レイ!レイは何処だ!?帰ってきたのだろう!!?』

「おおっと、お前のお師匠様が戻ってきたみたいだな。小難しい話はこれくらいにしておこうか」

「あ、はい……」

 ドスドスと屋敷内を乱雑に闊歩し、着々とこちらに迫りくる足音を聞いて父はやはり笑って、俺は何とも言えない表情を浮かべる。

 タイミングとしては助かったが、爺さんに助けられたと考えるとなんだか癪だ。

 結局、俺の聞きたいことは聞けず終いで執務室の扉が激しく開け放たれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...