調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT

文字の大きさ
113 / 126
刻王祭編

第109話 予選開始

しおりを挟む
 おさらいするがこの〈刻王祭〉は本日限りの開催であり、よって剣術大会も本日限りだ。そしてこの催物は午前と午後の部で分けられる。前座的な立ち位置で午前に十四歳未満の少年部が行われ、午後から年齢無制限の部が行われる。言わずもがな、注目度で言えば午後からの部の方が注目度は高く、年齢制限がないので出場者の数も多い。つまり、何が言いたいかと言うと悠長にきちんとした決闘形式で予選をしようものなら確実に一日なんかでは終わらないということである。

 所詮、予選なんてのは前座であり観客の殆どがそれほど興味なんて示さない。やはりメインは本選であり、言ってしまえば誰もがその結果で決まった勝者と〈比類なき七剣〉の一戦を楽しみにしている。詰まるところ────

「予選はクロノスタリア剣術大会の名物の乱戦!一グループ約五十人に分けて、その中で最後まで立っていた強者のみが本選へと進めます!」

 本選へと進む出場者を決める予選は結構大雑把に行われる。今回の大会出場者は凡そ二百人、そうして今しがたの説明通りにグループを分けた結果、本選に出場できるのはたったの四人ばかりだ。

 ────まあ、円滑に進めるならこれが一番手っ取り早いか……。

 予めグループ分けが決まっていたのか、すんなりと出場者たちはそれぞれの組み分けに分けられていく。どうやらヴァイスとフリージアは別々のグループらしく、これで二人が本選で戦う可能性が出てきた。

 ────と、言うか二人はほぼ確定で本選に出場だろうな。

 やけにクッションの効いた椅子に深く座り直す。特に今から予選を勝ち抜かんとする二人の仲間を応援する素振りのない俺を見て、隣の殿下がこんなことを聞いてくる。

「おや、婚約者と弟子の晴れ舞台だというのに随分と落ち着いているな? まるで、もう二人の本選出場が決まったようだ」

「揶揄わないでください……殿下もお気づきでしょう。周りと比べたらあの二人は実力が数段飛びぬけている」

 これは贔屓目でも世辞なんかでもなく、事実だ。

「ほう、その心は?」

 確実に隣の王子殿下もそれを理解してるだろうに、それでも分からないふりをして尋ねてくる。

 ────次は何を企んでいるんだ?

 とんだ茶番だと思いながらも周囲の視線があるので俺は殿下の子芝居に付き合うことにする。

「二人は一学生であり、栄えある魔剣学院の生徒と言えど、世間からすればまだまだ未熟に映って見えるでしょう。現に他の参加者はあの二人より実践経験もあるだろうし、乗り越えてきた修羅場も違う」

「それなら……」

「でもまあ、それを考えても余りあるほどの潜在能力が二人にはある。決して周りの出場者が弱いとかではなくて、二人が規格外なだけです。それにフリージアは去年の大会で上位入賞しているし、そんな去年よりも強くなっている。ヴァイスも爺さんにこの短期間でだいぶしごかれて実力を伸ばした。他の参加者には同情しますね」

「なるほど」

「「「おお……!!」」」

 俺の説明を聞いてわざとらしく頷く殿下と、それに聞き耳を立てていた貴族たちの唸る声。いつの間にか周囲には名も知らぬ身なりの良い大人たちに囲まれていた。

 ────なんだこれは……。

 変な盛り上がりを見せる貴族たちを尻目に、気がつけば件のフリージアがいるグループの予選が始まる。

 流石に四つのグループ一斉に予選はできないので一グループずつで予選は行われる。制限時間は三十分で、予選は魔法の使用は禁止。己の肉体と剣技のみで周囲の出場者を蹴散らす必要がある。

「こんなところで躓くようじゃレイにバカにされちゃうものね!!」

「な、なんて荒々しさだ!?」

「〈氷鬼〉の名は伊達じゃないってか!!」

「つ、強すぎる!?」

 戦闘の開始を告げる風魔法の空砲。それと同時に戦闘狂は意気揚々と剣を揮い、周りの参加者を薙ぎ払う。それに同じグループの参加者は為す術がない。時たま、何合か切り結ぶ張り合いのある手合いもいるにはいるが────

「こりゃあ三十分もいらないな……」

 もうこれ以上は何も語るまい。結果は見るよりも明らかだ。

「流石は前大会上位入賞者のフリージア・グレイフロスト!強い!速い!圧倒的だぁあああああ!!」

 白熱する実況の声に混じって、左隣に座っているアリスが不意に疑問を零した。

「お兄様の言う通り、お姉さまとヴァイス様が本選に出場が固いのは分かりました。それでは残り二つのグループは誰が本選まで勝ち上がると思いますか?」

「お!それは俺も素直に気になるな」

 我が妹の問題提起に右隣の殿下や周りの貴族も興味津々である。

 ────え、これなんかの座談会?

 とは思いながらも愛しの妹に聞かれたからには答えなければ兄が廃る。アリスに聞かれたお兄ちゃん、無条件で何でも応えちゃう。

「まあ、そうだな。残りのグループも一人ずつ目ぼしいのはいる。それもフリージア達に匹敵……それ以上かもしれない猛者がな」

「「「おお……!!」」」

 もう全く隠すつもりのない周囲の反応にゲンナリとしながらも俺は視線を待機しているグループの一つに向ける。その中の一人────この国に住む人ならば知らない人はいない〈比類なき七剣〉、その登竜門と言われる騎士団の特別部隊〈錬魔剣成〉の騎士服に身を包んだ男を指さした。

「まずは彼だな、名前は知らんが〈練魔剣成〉に入るだけあって相当な実力者だと思う」

「フレイル・ガーロットだな。騎士団入団してまだ一年だが、それなりに成果を上げていると聞く。所謂、期待の新星ってやつだな」

「へえ……」

 殿下の補足説明に俺は頷く。謂わば、彼は俺達の先輩にあたる訳で、そんなガーロット先輩には是非とも頑張ってもらいたい。そうして最後のグループへと視線を移す。

 その中の一人────東方の国では一般的な装い、着流しを着た黒髪の女を指した。

「そんで一見パッとしない最後のグループはあの長髪を一つ結びにした女性だな。あいつは相当な曲者だ。全く覇気や気力を感じないのに、妙に堂に入った佇まい……」

「レイにそこまで言わせるとは相当だな……」

「お兄様でも勝てるかわかりませんか?」

 純真無垢に小首を傾げるアリスに俺は食い気味に答える。

「あっはっはっ!全然ヨユーだし?そもそも魔力すらまともに扱えない未熟者なんてお兄ちゃんの手に掛かれば一分と立たずに瞬殺だが???」

「お兄様……」

 ちょっと妹の前でカッコつけた過ぎて調子に乗ったことを口走ってしまった。

 ────いかんいかん。

 アリスの呆れたような溜息に精神をゴリゴリと削られながら俺は咳払いをして誤魔化す。

「ま、まあ、あれだ。勝負は時の運でもあるから俺の見立てが一概に正しいとも限らない。だから、。なので当方、今言ったことに責任は一切持ちませんし、そういった賭け事は自己責任でお願い申し上げます」

「「「ッ!!」」」

 俺の忠告に周囲の貴族たちは分かりやすく動揺する。ほんと、学院だろうが外だろうがこういった祭りごとで行われることと言うのは一緒らしい。

 ────ロクでもないな……。

 そんな事実に呆れていると気が付けば一回目の予選が終わった。

 結果は勿論、フリージアの圧勝である。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...