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刻王祭編
第115話 優勝権利
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「改めまして!今年のクロノスタリア剣術大会にて繰り広げられた死闘を見事に勝ち抜き、栄えある王者の称号を手に入れたフリージア・グレイフロストさんに改めて勝利者インタビューをいたしましょう! 今のお気持ちはどうですか!?」
ヴァイスとの決勝を終えたのも束の間、息を吐く暇もなく司会のスピカ・ラウダ―が尋ねてくる。
「え、えっ……と────」
急に話を振られるものだから思わず口ごもる。こちとら激しい決闘を終えた後で髪やら服やらが乱れていて酷い。一応、公爵家の令嬢と言う立場もあって、そういったお色直し的な時間が欲しいとは思ったけれど……この女性、ところどころ遠慮と言うか空気を読まずに突っ込んでくるきらいがあるので、そんな隙さえ与えてくれない。
────それが「司会者」と言う役柄には必要な技術や適性なのかもしれないが、実際に問い詰められる方からすれば勘弁してほしいわね……。
とは思いつつも長々とこの大会の結末を見届けた観客もこちらに期待の視線を向けてきている。これも勝利した者の責務か、私は一つ息を吐いて何とか言葉をひねり出した。
「す、素直に嬉しいです」
「大会に出場し始めてから、今年でなんと六回目。去年は惜しくも上位入賞どまりでした。今大会に向けて相当な努力と研鑽を積んでこられたように見受けられますがどうなんでしょうか?」
「鍛錬は変わらず続けてきましたが……今年は特に熱が入りました」
「……と、言いますと?」
間髪入れずに質問を次から次へと畳みかけてくるスピカ・ラウダ―。全く浮足立った気分を整える時間を与えてくれはしない……やはり苦手な部類だ。それでも、不思議と質問の返答はすんなりと出てきた。
「どうしても戦ってみたかった人がいるんです。今の私では彼に敵わないことは分かっているんですけれど、それでもずっと目標にしてきた憧れなので……」
自分の素直な気持ちをこんな大勢の前で話すと言うのは存外恥ずかしい。それでも口から一度零れてしまえば、止まることはない。
私は一気に湧いて出てきた恥ずかしさを誤魔化すように隣に並び立った〈勇者〉へと向ける。あまり私からの攻撃を当てることはできなかったが、それでも最後に私の魔法を諸に食らっているので損傷はかなりのはずだ。魔法は既に解除しているが、彼の服や肌の至る所には霜が被っていた。
それでも、平気そうな顔で勝利者インタビューに付き合っているのだから相当な耐久力だ。
「なるほどなるほど!それではお次は惜しくも敗れてしまったヴァイスさんに話を伺いましょう!対戦相手のフリージアさんはどうでしたか?」
次いでスピカの標的が自分から〈勇者〉に移った。彼は急接近して質問を投げかけてくるスピカに驚きながらも言葉を何とか紡ぐ。
「そう、ですね……とても強かったです。普段から戦う姿は何度も見たことがあって、それなりに対策を立ててきたはずなんですけど……途中で熱くなってしまって見事にやられちゃいました」
「うっわ、顔面良すぎ────じゃない……そ、そうだったんですねぇ~! でもでも!ヴァイス様もとても素晴らし剣技や魔法の数々でしたよ!!」
「あ、ありがとうございます」
悔し気ながらもしっかりと笑みを忘れずに愛想がいい勇者殿。と言うか司会者、今確実に色目を使ったわよね?
────優勝した私よりも対応が丁寧とはこれ如何に……。
まあ正直、それはどうでもいい。変に根掘り葉掘り話を聞かれるよりは何倍もマシだ。
剣術大会の勝者は決まったが、まだ私の勝負はなんにも終わっていない。寧ろ、ここからが始まりだと言ってもいい。何故かヴァイスに関係のない質問を始めた司会に呆れながらも私は深呼吸をする。漸く一息つける。勇者殿には申し訳ないが、少しの間彼には贄となってもらおう。
すると、私が自由になった隙を見て二人の騎士が近づいてくる。
「優勝、おめでとうございます。グレイフロスト嬢」
「おめでとーーーー!!」
誰か────なんてのは言うまでもなく今回の特別解説を務めたジルフレア様とウィーネ様だ。
「あ、ありがとうございます!」
流石の私も最優の騎士二人を前に緊張してしまう。そんな私を気遣ってか、ジルフレア様はこんな質問をしてくる。
「それで、見事に優勝したわけですが優勝賞品の相手はもう決まっているんですか?」
「え?」
「そうそう!それ!グラス先輩の妹ちゃんは私とジル先輩のどっちと戦いたい!?」
その質問に私はどう答えたものかと逡巡する。正直、もう誰を指名するのかは決まっている。けれどもそれをこの二人に素直に話すのは憚られた。何せ────
「おおっと!話が脱線している間にフリージアさんと〈比類なき七剣〉のお二人が秘密の話をしている!? ちょっとちょっと!その話、私も混ぜてください!!」
不意に、ヴァイスにナンパ────基、質問をしていたスピカ。ラウダ―が目敏くこちらに混ざってくる。それによって会場の注目は再び私に向いた。
「それで、皆さんで何を話しておられたんですか?」
「えーっと、優勝した権利で誰を指名するのかな……と」
「めちゃくちゃ大会に関係する重要な話じゃないですか!? 司会の私を仲間外れにしないでくださいよーーーー!!」
「あはは、すみません……」
捲し立てるスピカにジルフレア様は苦笑しながら謝る。大人な対応だ。そうしてそんな子芝居がひと段落すると更なる注目が私に振り落ちる。
「それでは改めてお伺いしましょう!大会に優勝したフリージアさんには「この会場にいる好きな相手を指名して特別決闘を申し込める権利」が与えられたわけですが、この権利は今日この場限りのモノです! 強敵との連戦続きですが大変お疲れなのは一目瞭然!それでもこの権利を使って誰かに決闘を申し込みますか!?」
お浚いと言わんばかりに最終確認をしてくる司会者。それに対する答えは決まっていた。
「もちろん」
「「「おおおおおおおおお!!」」」
私の答えを聞いて歓声が上がる。
疲れていようとも、魔力が残りわずかだろうと、全身が痛かろうと関係ない。私はこの瞬間の為に頑張ってきたのだ。
「素晴らしい答えをありがとうございます!
このフリージアさんに与えられた権利はクロノスタリア王の押印が記された書面として政治的な効力があるものとなっております。簡単に言えば王命と同等の力を有しており、更に言ってしまえば決闘を申し込まれた相手に拒否権はありません。それが例え、この国最強の〈比類なき七剣〉と言えど同じです!」
つらつらと補足説明をする司会者。そうして彼女は今日一番の楽し気な笑みで尋ねてくる。
「さて、フリージアさん。貴方がこの場で決闘を申し込みたい相手はだれですか!?」
誰もが次の私の言葉を固唾を呑んで待っている。呼吸を整えて改めて周囲を見渡した。
「私は────」
ここまで戦ってきた女剣士イブキや〈勇者〉ヴァイス、観客席には予選で倒した出場者もチラホラ、〈比類なき七剣〉の二人もどこか浮足立っているように思えるのは気の所為だろうか。
────でも、ごめんなさい。最優の騎士と戦っても意味がないの。随分と贅沢なことを言っているのは分かっている。
それでも私の気持ちは何ら変わらない。
徐に一際、見晴らしがよさそうで貴族や国賓ばかりが座っている特別席……その一角で肩身狭そうにこちらを見ていた少年に焦点を合わせる。私の位置から彼の座る場所はかなりの距離である。それでも確かに彼と私の視線は合致した。明らかに驚いた様子の彼を見て私はほくそ笑む。
「────私は、クレイム・ブラッドレイとの決闘を希望するわ!!」
そんな頑なに私の誘いを断るのなら無理やりこっちの土俵に上がってもらうわよ、レイ!
ヴァイスとの決勝を終えたのも束の間、息を吐く暇もなく司会のスピカ・ラウダ―が尋ねてくる。
「え、えっ……と────」
急に話を振られるものだから思わず口ごもる。こちとら激しい決闘を終えた後で髪やら服やらが乱れていて酷い。一応、公爵家の令嬢と言う立場もあって、そういったお色直し的な時間が欲しいとは思ったけれど……この女性、ところどころ遠慮と言うか空気を読まずに突っ込んでくるきらいがあるので、そんな隙さえ与えてくれない。
────それが「司会者」と言う役柄には必要な技術や適性なのかもしれないが、実際に問い詰められる方からすれば勘弁してほしいわね……。
とは思いつつも長々とこの大会の結末を見届けた観客もこちらに期待の視線を向けてきている。これも勝利した者の責務か、私は一つ息を吐いて何とか言葉をひねり出した。
「す、素直に嬉しいです」
「大会に出場し始めてから、今年でなんと六回目。去年は惜しくも上位入賞どまりでした。今大会に向けて相当な努力と研鑽を積んでこられたように見受けられますがどうなんでしょうか?」
「鍛錬は変わらず続けてきましたが……今年は特に熱が入りました」
「……と、言いますと?」
間髪入れずに質問を次から次へと畳みかけてくるスピカ・ラウダ―。全く浮足立った気分を整える時間を与えてくれはしない……やはり苦手な部類だ。それでも、不思議と質問の返答はすんなりと出てきた。
「どうしても戦ってみたかった人がいるんです。今の私では彼に敵わないことは分かっているんですけれど、それでもずっと目標にしてきた憧れなので……」
自分の素直な気持ちをこんな大勢の前で話すと言うのは存外恥ずかしい。それでも口から一度零れてしまえば、止まることはない。
私は一気に湧いて出てきた恥ずかしさを誤魔化すように隣に並び立った〈勇者〉へと向ける。あまり私からの攻撃を当てることはできなかったが、それでも最後に私の魔法を諸に食らっているので損傷はかなりのはずだ。魔法は既に解除しているが、彼の服や肌の至る所には霜が被っていた。
それでも、平気そうな顔で勝利者インタビューに付き合っているのだから相当な耐久力だ。
「なるほどなるほど!それではお次は惜しくも敗れてしまったヴァイスさんに話を伺いましょう!対戦相手のフリージアさんはどうでしたか?」
次いでスピカの標的が自分から〈勇者〉に移った。彼は急接近して質問を投げかけてくるスピカに驚きながらも言葉を何とか紡ぐ。
「そう、ですね……とても強かったです。普段から戦う姿は何度も見たことがあって、それなりに対策を立ててきたはずなんですけど……途中で熱くなってしまって見事にやられちゃいました」
「うっわ、顔面良すぎ────じゃない……そ、そうだったんですねぇ~! でもでも!ヴァイス様もとても素晴らし剣技や魔法の数々でしたよ!!」
「あ、ありがとうございます」
悔し気ながらもしっかりと笑みを忘れずに愛想がいい勇者殿。と言うか司会者、今確実に色目を使ったわよね?
────優勝した私よりも対応が丁寧とはこれ如何に……。
まあ正直、それはどうでもいい。変に根掘り葉掘り話を聞かれるよりは何倍もマシだ。
剣術大会の勝者は決まったが、まだ私の勝負はなんにも終わっていない。寧ろ、ここからが始まりだと言ってもいい。何故かヴァイスに関係のない質問を始めた司会に呆れながらも私は深呼吸をする。漸く一息つける。勇者殿には申し訳ないが、少しの間彼には贄となってもらおう。
すると、私が自由になった隙を見て二人の騎士が近づいてくる。
「優勝、おめでとうございます。グレイフロスト嬢」
「おめでとーーーー!!」
誰か────なんてのは言うまでもなく今回の特別解説を務めたジルフレア様とウィーネ様だ。
「あ、ありがとうございます!」
流石の私も最優の騎士二人を前に緊張してしまう。そんな私を気遣ってか、ジルフレア様はこんな質問をしてくる。
「それで、見事に優勝したわけですが優勝賞品の相手はもう決まっているんですか?」
「え?」
「そうそう!それ!グラス先輩の妹ちゃんは私とジル先輩のどっちと戦いたい!?」
その質問に私はどう答えたものかと逡巡する。正直、もう誰を指名するのかは決まっている。けれどもそれをこの二人に素直に話すのは憚られた。何せ────
「おおっと!話が脱線している間にフリージアさんと〈比類なき七剣〉のお二人が秘密の話をしている!? ちょっとちょっと!その話、私も混ぜてください!!」
不意に、ヴァイスにナンパ────基、質問をしていたスピカ。ラウダ―が目敏くこちらに混ざってくる。それによって会場の注目は再び私に向いた。
「それで、皆さんで何を話しておられたんですか?」
「えーっと、優勝した権利で誰を指名するのかな……と」
「めちゃくちゃ大会に関係する重要な話じゃないですか!? 司会の私を仲間外れにしないでくださいよーーーー!!」
「あはは、すみません……」
捲し立てるスピカにジルフレア様は苦笑しながら謝る。大人な対応だ。そうしてそんな子芝居がひと段落すると更なる注目が私に振り落ちる。
「それでは改めてお伺いしましょう!大会に優勝したフリージアさんには「この会場にいる好きな相手を指名して特別決闘を申し込める権利」が与えられたわけですが、この権利は今日この場限りのモノです! 強敵との連戦続きですが大変お疲れなのは一目瞭然!それでもこの権利を使って誰かに決闘を申し込みますか!?」
お浚いと言わんばかりに最終確認をしてくる司会者。それに対する答えは決まっていた。
「もちろん」
「「「おおおおおおおおお!!」」」
私の答えを聞いて歓声が上がる。
疲れていようとも、魔力が残りわずかだろうと、全身が痛かろうと関係ない。私はこの瞬間の為に頑張ってきたのだ。
「素晴らしい答えをありがとうございます!
このフリージアさんに与えられた権利はクロノスタリア王の押印が記された書面として政治的な効力があるものとなっております。簡単に言えば王命と同等の力を有しており、更に言ってしまえば決闘を申し込まれた相手に拒否権はありません。それが例え、この国最強の〈比類なき七剣〉と言えど同じです!」
つらつらと補足説明をする司会者。そうして彼女は今日一番の楽し気な笑みで尋ねてくる。
「さて、フリージアさん。貴方がこの場で決闘を申し込みたい相手はだれですか!?」
誰もが次の私の言葉を固唾を呑んで待っている。呼吸を整えて改めて周囲を見渡した。
「私は────」
ここまで戦ってきた女剣士イブキや〈勇者〉ヴァイス、観客席には予選で倒した出場者もチラホラ、〈比類なき七剣〉の二人もどこか浮足立っているように思えるのは気の所為だろうか。
────でも、ごめんなさい。最優の騎士と戦っても意味がないの。随分と贅沢なことを言っているのは分かっている。
それでも私の気持ちは何ら変わらない。
徐に一際、見晴らしがよさそうで貴族や国賓ばかりが座っている特別席……その一角で肩身狭そうにこちらを見ていた少年に焦点を合わせる。私の位置から彼の座る場所はかなりの距離である。それでも確かに彼と私の視線は合致した。明らかに驚いた様子の彼を見て私はほくそ笑む。
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