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【男の子の服を買うのよ】
「なるほど。男装すれば、見つかりにくいってことね?」
【そうじゃないわよ。いいこと、周りを見て見なさい。めちゃくちゃ目立っているから】
皆の目がこちらを向いている。顔を向ければ視線を逸らされるけれど、明らかに私を見ている。
……あ、聖女だってバレちゃってる?いや、もと聖女だっけ……。
【違うわよ。”私”の顔なんてちゃんと覚えてる人なんてそうそういないわよ。平凡顔の聖女なんて、制服着ちゃえばただの人よ】
平凡顔……。うぐぐ。
確かに、私は目を引くような美人ではないし、特徴的なパーツがあるわけでもない。
【そういうの、モブ顔って言うんだよね。前世ももそっちの顔だったよ】
平凡顔はモブ顔っていうのか。……もし、私が美人だったら皇太子殿下も婚約破棄しなかったのかな?
【あるね。でも顔で選ばれても不幸な未来しかないよ。人は年を取るんだから。美貌は必ず誰しも衰える。そうすれば若くてかわいい子に目が移っていくんだから。顔で選ばれないモブの方が幸せな人生が送れるのよ。間違いないわ!】
ふぅん。前世の私は幸せだったんだ。
【あー、いい男に選ばれることが幸せの基準って世の中でもなかったんだよ……ってほら、古着屋に入るよ】
あ、そうだった。店の前で立ち止まっていると余計に不審な目を向けられちゃう。でもなんで?
【貴族が通う学園のボロボロの制服を着た泥だらけの女生徒、何があったのか興味津々にもなるでしょ】
あ、そっか。
古着屋の中でも小ぎれいな服が置かれている店内には、初老の夫婦が店番をしていた。
前世の私のアドバイス通りの言葉を口にする。
「僕の体に合うサイズの男物の服をください」
「男物?」
夫人が首を傾げた。
「今日は卒業式だということで、羽目を外したクラスメイトに女装させられたんです。抵抗したらこんなボロボロに……。流石にこの服装で家には帰れないので……」
と、悔しそうな表情で説明すると、同情してもらえた。
「あらまぁまぁ……お貴族様も大変ね……」
「貴族と言っても、ほとんど皆さんと変わらない立場なので……、あの、あまりお金もなくて……」
と、路銀としてもらった金貨ではなく、なけなしの自分のお金をポケットから取り出して見せる。
日本円にして5000円くらい。
すると、私と夫人のやり取りを黙って後ろで聞いていた旦那さんが、古着の中から飾り気のない焦げ茶色のズボンと生成りのチュニックを取り出して見せてくれた。
「これでいいか?着替えていくなら、そこの衝立の裏で着替えてくれ」
ぶっきらぼうだけど、意地悪な感じはない。
すぐに衝立の裏で着替えを済ませる。
「この制服は処分してください。学園の制服は売り物にはならないでしょうからご迷惑をおかけしますが……」
お金を渡したら、おつりをもらった。
「え?」
「いいのよ。この制服は制服としては売れないけれど、とてもいい生地でできているから、リボンやハンカチに加工すれば売れるわ。だから。これは買い取った制服の代金よ。遠慮なく取っておきなさい」
お礼を言って店を出た。
店を出ると、入った時のような視線は待ったくなかった。
やっぱり、聖女の顔を覚えているから注目していたわけじゃななかったんだ。
================
感想、誤字報告ありがとうございます!
承認不要ということで、こちらにて感謝を伝えさせていただきます。
ご覧いただきありがとうございます!お気に入り登録嬉しいです!いいねありがとうございます!
いつものことですが、見切り発車の行き先知らず。今回は……直書きでデータ消失がないよう、直書きは辞めることにします。
応援していただけると嬉しいです。
今回、前世の記憶持ちですが、前世の記憶が別人格的な感じで脳内会話をしています……。初挑戦です。
……二重人格……最後どうなるのだ?ずっと別れてるのも微妙だなぁ……
「なるほど。男装すれば、見つかりにくいってことね?」
【そうじゃないわよ。いいこと、周りを見て見なさい。めちゃくちゃ目立っているから】
皆の目がこちらを向いている。顔を向ければ視線を逸らされるけれど、明らかに私を見ている。
……あ、聖女だってバレちゃってる?いや、もと聖女だっけ……。
【違うわよ。”私”の顔なんてちゃんと覚えてる人なんてそうそういないわよ。平凡顔の聖女なんて、制服着ちゃえばただの人よ】
平凡顔……。うぐぐ。
確かに、私は目を引くような美人ではないし、特徴的なパーツがあるわけでもない。
【そういうの、モブ顔って言うんだよね。前世ももそっちの顔だったよ】
平凡顔はモブ顔っていうのか。……もし、私が美人だったら皇太子殿下も婚約破棄しなかったのかな?
【あるね。でも顔で選ばれても不幸な未来しかないよ。人は年を取るんだから。美貌は必ず誰しも衰える。そうすれば若くてかわいい子に目が移っていくんだから。顔で選ばれないモブの方が幸せな人生が送れるのよ。間違いないわ!】
ふぅん。前世の私は幸せだったんだ。
【あー、いい男に選ばれることが幸せの基準って世の中でもなかったんだよ……ってほら、古着屋に入るよ】
あ、そうだった。店の前で立ち止まっていると余計に不審な目を向けられちゃう。でもなんで?
【貴族が通う学園のボロボロの制服を着た泥だらけの女生徒、何があったのか興味津々にもなるでしょ】
あ、そっか。
古着屋の中でも小ぎれいな服が置かれている店内には、初老の夫婦が店番をしていた。
前世の私のアドバイス通りの言葉を口にする。
「僕の体に合うサイズの男物の服をください」
「男物?」
夫人が首を傾げた。
「今日は卒業式だということで、羽目を外したクラスメイトに女装させられたんです。抵抗したらこんなボロボロに……。流石にこの服装で家には帰れないので……」
と、悔しそうな表情で説明すると、同情してもらえた。
「あらまぁまぁ……お貴族様も大変ね……」
「貴族と言っても、ほとんど皆さんと変わらない立場なので……、あの、あまりお金もなくて……」
と、路銀としてもらった金貨ではなく、なけなしの自分のお金をポケットから取り出して見せる。
日本円にして5000円くらい。
すると、私と夫人のやり取りを黙って後ろで聞いていた旦那さんが、古着の中から飾り気のない焦げ茶色のズボンと生成りのチュニックを取り出して見せてくれた。
「これでいいか?着替えていくなら、そこの衝立の裏で着替えてくれ」
ぶっきらぼうだけど、意地悪な感じはない。
すぐに衝立の裏で着替えを済ませる。
「この制服は処分してください。学園の制服は売り物にはならないでしょうからご迷惑をおかけしますが……」
お金を渡したら、おつりをもらった。
「え?」
「いいのよ。この制服は制服としては売れないけれど、とてもいい生地でできているから、リボンやハンカチに加工すれば売れるわ。だから。これは買い取った制服の代金よ。遠慮なく取っておきなさい」
お礼を言って店を出た。
店を出ると、入った時のような視線は待ったくなかった。
やっぱり、聖女の顔を覚えているから注目していたわけじゃななかったんだ。
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感想、誤字報告ありがとうございます!
承認不要ということで、こちらにて感謝を伝えさせていただきます。
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いつものことですが、見切り発車の行き先知らず。今回は……直書きでデータ消失がないよう、直書きは辞めることにします。
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今回、前世の記憶持ちですが、前世の記憶が別人格的な感じで脳内会話をしています……。初挑戦です。
……二重人格……最後どうなるのだ?ずっと別れてるのも微妙だなぁ……
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