ビジネスの番なのに運命の番よりも愛してしまったからどうすればいい

子犬一 はぁて

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「デザート食います?」

「甘いものは好きじゃない」

   素直な意見を述べる。

「部長らしいですね」

 くすりと笑って、デザートの欄を見ながら岸本は悩みに悩んでいるようだった。期間限定の梨のシャーベットか桃のパンケーキとに悩んでいるらしい。これだか甘党は。簡単に選ぶこともできないなんて。

「これにしようかなあ」

 店員を呼んでお目当てのものを注文している岸本の横顔を見る。まじまじと顔を見つめるのは初めてかもしれない。男らしい顔つきをしていると思う。キリッとした二重の下にある瞳は黒く澄み切っている。やや広い口からは真っ白な歯がのぞく。歯並びがいい。こいつの笑顔を見ただけで何人の女性社員が黄色い声をあげるだろうかと考えながら黙って見つめていた。

 ふと岸本がこちらを見つめてきた。黒曜石のような瞳に見入られ、瞬きするのを忘れてしまう。そうして軽く口端を上げた。

「……急に笑うな」

「いいじゃないですか。部長の顔綺麗だからずっと眺めていたいんです」

 綺麗だと? 

 そんなことを言われたのは初めてだった。昔から目つきが悪いだとか、常に眉が寄っていて機嫌が悪そうだとしか言われてこなかったのに。

「あ、やっときた」

 桃のパンケーキがやってきて岸本ははしゃぎだす。デザートひとつでここまで喜べる男がいるとは信じがたかった。早速大きな口で桃を頬張る岸本を見て、小鳥遊は昨夜の出来事を思い出しそうになり頭を振る。

 何を考えているんだ俺は。

 まだ幼さの残る顔をした新人社員とここまで深く付き合うことになるとは想定外だった。お互いの秘密を抱えた関係性は果たしていつまで続くのだろうかと想像する。番の契約をしてしまった以上どちらかが死ぬまでは続くのだろう。それが意外にも面倒だとか苦痛だとは思わない。そんな自分に驚いているのは小鳥遊自身だった。
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