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57 忠犬社員の1日(岸本side)
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部長をからかうのは楽しい。番になって1週間が経った頃、いつものように仕事中は上司と部下という関係で過ごしている。本当はもっと距離を縮めたいのが本心だが、きっと真面目で強情な部長はそれを許さないだろう。岸本は少しづつ小鳥遊部長という人間の性格や考え方がわかってくるようになった。The 仕事人間。職人気質でさえある。この人にかかればどんな難しい契約だって必ずとれるだろう。そんな信頼を会社の部署の皆が置いている。もれなく岸本自身もだった。ふと、初めて出会ったときのことを思い出す。自己紹介をするとき、部長からの射抜くような視線にぞくりとした。狼のような威厳のある立ち振る舞いに憧れを抱くのにそう時間は要さなかった。艶びた貌に、透明感のある黒髪は撫でてしまいたくなる。まるで彫像のような細身ですらりとした肉体は、スーツを脱がせば腰周りは細いのに上腕や肩周りは鍛えられていて感嘆とした。日々のトレーニングや食事管理をしっかりしている人なのだろうと好印象だった。
仏頂面の部長の慌てた顔や気持ちよさそうな顔が見れるのは自分だけの特権だった。寝起きの不機嫌そうな顔を拝めるのもこの世で唯一俺だけだった。そんな顔もかわいいだなんて思う俺はどうかしているだろうか。
部長の住むマンションに引っ越してから毎日が輝いて見えた。朝食と夕食の準備はいつも献立に悩みながら作っていてさながら新婚気分だった。きっとそれも俺だけなんだろうけど、毎日部長の隣にいれるのは嬉しい。部長はよく俺のことを大型犬みたいだって言うけど、最近自分でもそう思うようになっていた。部長よりちょっと背の高い俺だけど、丸い形をしている部長の頭に顎を乗っけるのが大好きだった。毎回暴れて逃げられてしまうのだがそれを追いかけるのも一興だった。最終的には追いかけっこに疲れた部長はソファに寝転がって新聞を読み始める。本当に仕事に一途な人だと思う。仕事熱心なのはとっても良いことだけど、たまには俺にも甘えて欲しいし、飴がほしい。いつもいい子にしてるからたくさん撫でて欲しい。たまには抱っこもしてほしい。自分はいつからこんなに乙女心を持つようになったのかわからないけど、部長にだけならなんでもしてほしかった。そうして俺も、部長になんでもしてあげたかった。ビジネスの番とはそういうものだろうとも思っていた。
「岸本」
「はい」
くるっと名前を呼ばれた方向を振り向く。今日は休日で小鳥遊部長は朝からコーヒーを飲んで新聞を眺めている。今時新聞を取っているなんて珍しいですねと言うと、今読んでるのは日経新聞だから会社から借りているのだという。休みの日も時間があれば新聞を隅から隅まで目を通している部長のことを俺は心の底から尊敬している。
「今日はクローゼットの整理を頼む」
じんわりと梅雨の暑さがやってきた今日この頃、久しぶりの青空が窓から見える。窓の隙間からじめっとした風が吹いてきて部屋の中を梅雨の匂いでいっぱいにする。春から夏へと季節が移り変わろうとしていた。
「わかりました。ちゃっちゃとやっちゃいますね」
「ああ……終わったら声をかけてくれ」
部長は新聞から目を離さずに、俺に声をかけた。
仏頂面の部長の慌てた顔や気持ちよさそうな顔が見れるのは自分だけの特権だった。寝起きの不機嫌そうな顔を拝めるのもこの世で唯一俺だけだった。そんな顔もかわいいだなんて思う俺はどうかしているだろうか。
部長の住むマンションに引っ越してから毎日が輝いて見えた。朝食と夕食の準備はいつも献立に悩みながら作っていてさながら新婚気分だった。きっとそれも俺だけなんだろうけど、毎日部長の隣にいれるのは嬉しい。部長はよく俺のことを大型犬みたいだって言うけど、最近自分でもそう思うようになっていた。部長よりちょっと背の高い俺だけど、丸い形をしている部長の頭に顎を乗っけるのが大好きだった。毎回暴れて逃げられてしまうのだがそれを追いかけるのも一興だった。最終的には追いかけっこに疲れた部長はソファに寝転がって新聞を読み始める。本当に仕事に一途な人だと思う。仕事熱心なのはとっても良いことだけど、たまには俺にも甘えて欲しいし、飴がほしい。いつもいい子にしてるからたくさん撫でて欲しい。たまには抱っこもしてほしい。自分はいつからこんなに乙女心を持つようになったのかわからないけど、部長にだけならなんでもしてほしかった。そうして俺も、部長になんでもしてあげたかった。ビジネスの番とはそういうものだろうとも思っていた。
「岸本」
「はい」
くるっと名前を呼ばれた方向を振り向く。今日は休日で小鳥遊部長は朝からコーヒーを飲んで新聞を眺めている。今時新聞を取っているなんて珍しいですねと言うと、今読んでるのは日経新聞だから会社から借りているのだという。休みの日も時間があれば新聞を隅から隅まで目を通している部長のことを俺は心の底から尊敬している。
「今日はクローゼットの整理を頼む」
じんわりと梅雨の暑さがやってきた今日この頃、久しぶりの青空が窓から見える。窓の隙間からじめっとした風が吹いてきて部屋の中を梅雨の匂いでいっぱいにする。春から夏へと季節が移り変わろうとしていた。
「わかりました。ちゃっちゃとやっちゃいますね」
「ああ……終わったら声をかけてくれ」
部長は新聞から目を離さずに、俺に声をかけた。
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