幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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ミスターバイオレンスの遺言【後編】

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時間差でそれぞれシャワーを浴びて、寝室に向かう。俺は入念に準備の時間も取ったからもしかしたら恭介は寝て待ってるかもな…くらいに思っていた。…が、リラックスとは真逆の状態で迎えられた。俺が渡したTシャツにスウェット姿の恭介は真剣な顔でベッドに正座している。その姿があまりにも予想外で思わず吹き出す。


「ブハッ…!!」
「…!ちょっと!かななんで笑うの!?」
「ふっ…!だって…お前何その状態…!武士かよ!」
「いや…こんなん緊張するじゃん!」
「だからってなんで正座なんだよ。なんの反省だよ」
「……強いて言うなら……これから…かなの初めてを貰うので…かなのお母さんと…菫ちゃんと…あと世界への謝罪」
「全くもって意味がわかんねぇけどそれでこそ恭介って感じするわ」
「おお…褒められた…」
「お前マジでポジティブで感心する」


クスクス笑いながらベッドに足をかける。わかりやすくドキッとした顔をした恭介にさらに笑いが込み上げた。すぐに部屋の電気を消そうとシーリング用のリモコンに手を伸ばした恭介を、俺は片手で制止する。


「え…部屋の電気消さないの?まじ?このベッドサイドのライトだけでよくない…?」
「よくない」
「えっ……あの、つけといていいの…?俺はその方が嬉しいに決まってるけど…かなは嫌がると思ってた……ほんとにいいの?」
「いいよ。見てーだろ俺の裸」
「………ハイ」
「お前しか見れねーんだから隅々までよく見ろよ。超綺麗だから」
「………かっこよすぎて濡れるんですけど」


どこが濡れるんだよ!ってツッコミを込めてベッドに何個か置いてあるクッションのひとつを投げつける。恭介はそれを笑って受け止めながら、俺の身体を舐めるように見た。


「……なんだよまだ脱いでねーぞ」
「いやぁ……バスローブエロいなぁって…」
「最近はいつも着てんだろ」
「わかってないなぁ~!!これから脱がすことを想像して興奮してんのこっちは!!」
「相変わらず想像力が逞しいですねほんとに」
「たぶん軽く想像超えてくるんだろうなぁ…」
「まぁそれはそうだろうな」
「うーん…自信満々な彼氏最高…」
「はいはい俺たち相性いいよな」


俺が嫌味半分に言った言葉に、恭介はうんうんと大きく頷く。素直で結構。単純で羨ましいよお前が。
そろそろいいだろうとおもむろにバスローブの紐に手をかけるが、慌てて阻まれた。



「なんだよ……あ、もしかしてあの服着て欲しかったとか?」
「え?あの服…?」
「ほら、初めて恭介とそういうことしたクリスマスの夜…着てたろ?クソどエロいボンテージ」


このアホが暁人にあんなもん渡したせいで俺が爽に微妙な顔をされたっていう…あの伝説の服な。あれ以来着てなかったし、今後も着る気は特になかったけど…コイツやっぱそういうの求めてる…?


「…ああ!あれ!?」
「そう…あれ着て欲しいってことかなって…」
「いや違う違う!!!そのままがいい!!いや確かにアレは死ぬほどエロかった…エロかったけど…今日は絶対素の状態のかながいい!!!」
「……へぇ」
「折角初めてかなの身体全部見れんのに服着せるなんて勿体なさすぎる!!!」
「あーはいはい……じゃあなんで脱ぐの止めんの?」
「ハァ!!?そんなの俺が脱がせたいからに決まってるでしょ!!!」
「……お前って男の煩悩全部背負ってるみたいな思考だよな」
「うっふっふっふ」
「きも」


いつも通りの口の悪さを披露してからノータイムでバスローブを脱ぎ捨てる。脱がせたかったのに!と文句を言うだろうと予想した恭介の口からはなぜか感嘆の声が漏れていた。喋るのも忘れて食い入るように俺の全身を隈なく見る恋人に笑いが込み上げた。


「…………結城 ……要さん……」
「なんでフルネームだよ」
「け………毛がありません……」
「あ?……ああ、え?知らなかった?俺全身脱毛済み」
「知る由がありません……」
「まぁそっか。髪と眉とまつ毛以外の毛は全て抹殺した」
「もうなんか……」
「チッ…なんなんだよ…パイパンは嫌ですとか言うなよ?」
「そんなわけないでしょ!!」
「じゃあなに?」
「……綺麗すぎて身体見ただけでイキそう」
「ギャグ漫画かよ」


俺の身体を見た瞬間に絶頂を迎える恭介…というアホすぎるシーンがついつい頭に浮かんでしまった。そんなことになったらこえーよいっそ。
俺は笑いを堪えながらベッドに上がり、正座している恭介にキスを仕掛ける。もう充分すぎるほど焦らしたから、そろそろ次に進もうか。


「んっ…!?ま、待って!?もうする!!?するの!?」
「なんだようるせーな…処女かお前は。おら、早く脱げ」
「ヒィッ…!やめてよ興奮しちゃう…!」
「このクソドM」
「違うってばぁ!!」


どっちかっていうと処女は俺なんだけどな。
Tシャツを無理矢理脱がせながら膝の上に対面で乗っかると恭介が慌てて天井を見つめる。意味がわからず両手で無理矢理こっちを向かせると何故か目を閉じられた。
…マジで何?


「てめー目開けろこのやろー」
「ねぇかなぴょんお口が悪いです!!いつもより!!」
「お前なんなんだよ!!いつまで恥ずかしがってんだよ!!何も出来ねーだろ!!」
「いや恥ずかしいって言うか…暴走しないように必死なの!!」


ああそういう…。こいつほんとに理性に仕事させてるわけね。大切にされるのはとても心が満たされるけれど…でも俺はさっきみたいな本能丸出しの恭介が見たいんだけどな。さてどうしたものか…。
俺は長い前髪をかきあげながら少し考え、そして最適解を導き出す。
両腕を恭介の首に絡ませ、先程教えられた濃厚なキスを仕掛ける。俺はもともとめちゃくちゃ器用なんだ。キスだってきっとすぐお前より上手くなるからな。そう思いながら、噛み付くように恭介の口を舐める。営業職らしい美しい歯列を確かめるように吸い付けば、あっという間に恭介の口元は朱に染まる。
キスしすぎて赤くなった口の周りって超エロいな…とまじまじと凝視する。だが、恭介はいまだに目を開かない。


「恭介お前…マジで強情だなぁ」
「ううっ…!頑張って我慢してるのにかながいじめるー!!」
「もういいって言ってんだろ…?」
「よくないよぉ~!!すぐには入れられないんだからゆっくり進められるようにちょっと深呼吸させて…!!ほんとお願い!!」
「………ふーん」


そういうことかと納得するが、もうなんだか色々めんどくさいので恭介の後頭部の髪を思いっきり掴む。恭介がびっくりして目を開いた瞬間、俺はニコッと笑ってから耳元に唇を寄せた。

そして一言だけ呟く。



『大丈夫……もう解してあるから、暴走していいよ?』



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