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林の中での攻防戦
10 怪我の状態
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私達が分け合って甘い果汁を飲んだ後、クルトさん、ヨハン、ベンの三人は体のあちこちを確認していた。
「ヨハン、調子はどうだ。傷の治りは?」
クルトさんが、おかしな事を言った。
あんなに血が流れていたのだ。
すぐに良くなるはずがないじゃない、と思って見ていた私は驚く事になる。
「随分と良くなったよ」
そんな事を言うヨハンをよく見てみると、とても怪我をしている様には見えない動きだ。
包帯代わりにしていた布を取ると、血は完全に止まっていた。
刀傷に沿って肉芽が盛り上がり、傷口も塞がっている。
「信じられない、果汁を飲んだだけなのに」
治癒魔法が、掛けられた訳ではないのだ。
ここで普段食べていた、固い渋い実が熟しただけでこんな薬効があるなんて。
何故、知られていないのだろう?
「ベンが逃げる際あれだけ走れて、変だとは思っていたんだ」
「途中で、クルトさんが抱えてましたよね?」
「そうだ。いつもなら、もっと前にベンはバテていた筈だ。カーリと果汁を舐めていただろう。その影響が大きかったんだろうな」
この果汁にはゲームとかである、ポーションみたいな力があるんだね。
凄いな、でもそれなら何故『罪の実』なんてクルトさんは呟いたんだろう。
色々と考えていると、クルトさんが私の知らない事を教えてくれた。
「教会では、治療魔法以外での方法で、体を治す事は禁じられている。特例で薬の使用は認められているが、草から作るものだけだ。木々の樹液や果実の採取からの薬は、禁止事項だからな。今回の事、誰にも言うなよ。特にカーリ、いいな」
ヨハン、ベンが深く頷いた。
「私、そこまで口が軽い訳ではないですよ」
「カーリの場合、口が軽いんじゃなく常識が備わっていないんだ。特に教会関係な」
「うっ、分かりました」
クルトさんから、厳重注意された。
正直、その通りだから頷きましたとも。
一通り、体のチェックを終えたヨハンは、何かを決心した顔をした。
「クルトさん、俺の傷が良くなったから、前倒ししようと思うんです」
「まだ血が抜けた分、補っていないだろう。さっき決めた様に、一旦別の場所に出てから作戦を練った方がいい」
私達がいない間に、二人で行っていた話し合いだろう。
「しかし、こうしている間にもレーナがどうなっているか……」
ヨハンは、レーナを諦めてこちらに来た。
レーナが、喜ぶとも言っていた。
だから私は、ずっとそうだと思っていた。
私もベンもこの話題に触れないようにしていた。
レーナは無事だと、心の中で思って……。
「それは、さっきも言っただろう。騎士が言った『女が要る』と言うのは、独断で動いている奴らの戯言だ。今動く方が、余程レーナを危険に晒す事になる」
「そんなのは、分からないじゃないか」
ヨハンが、クルトさんに激しく言い寄る。
「この国は基本、人を無闇には殺さない。理由がないと殺さないんだ。俺達が行く事で理由を作るつもりか」
「違う。そんな事、望んでない」
「捕らえた騎士達は言っていた。捕まえた女を殿下の通るところに置いたが、殿下は興味を持たれなかった。人違いかもしれないから、もう一度探しに来たとな」
人違い?それって……。
「人違いや勘違いなら、最後殺さず放置される可能性が高い。街外の女をわざわざ街中に入れて、売り飛ばす程手間をかけないだろうからな」
「しかしクルトさんなら、何とかならないのか?」
あのクルトさんの戦闘を見た後なら、「この人ならもしかして……」と思うよね。
私が同じ立場だったら、まず頼み込むだろう。
「それも答えただろう。無理だと。今回襲って来たのは、王族が絡んでいない独断だ。ご機嫌取りをしたい誰か上の指示だったから、あの程度の奴らが来た。王族を護っている者は、もっと実力がある。今の俺では無理だ」
そんな言い合いを二人は繰り返し。
次第に言い合いは、途中から怒鳴りあいに変わっていた。
ヨハンが怪我で諦めていた事が、もしかしてと希望を持ってしまったからだろう。
「魔法の縄で、騎士のみんなをくるくる巻にして、サッとレーナをさらえないのかな」
そしてベンも参戦して、作戦の提案をしてくる始末だ。
「禁魔法の縄は今回ので最後だ。もうない。ベンは口を挟むな!」
クルトさんは、最後通告の様に言い放った。
「とーにーかーく、今は勘違いかもしれないが、カーリを出来るだけ街から離す。これが今しなければならない事だ」
「え?私を……何故?」
何故、私を街から離す事が一番なのか分からず呟くと、クルトさんが答えてくれた。
「アイツらがカーリを捕まえ、王族が興味を持ったとする。それはレーナが人違いだったと、確実になる事だ。ここまでは分かるよな」
かなり噛み砕いて言われたけど、それ位は分かります。
「今回レーナを捕まえた奴が、カーリも捕らえたならまだいい。違う奴ならレーナは貴族に恥をかかせ、名誉を傷付けた者になる。レーナがどんな仕打ちをされるか分からない。今なら下働きを増やしたとか、適当に言い逃れ出来るんだよ。プライドのお高い、貴族の勝手な言い分だな」
凄く怖い言い分だけど、それがこの世界の常識なのだろう。
でも、私は言いたい。
「そんな言い分、通さないでよ」
「だが、アイツらはそれが正しいと思っている。今縛っている奴らも、どんな風に言い逃れするか見物なんだがな。正直、こっちに追い掛ける奴らもいるだろう。すぐには、追いかけられない様にしてきたけどな」
ニヤリと笑うクルトさんの顔には、含みがあった。
「もしかして、怖い事してきたとか……」
「いや、足を折ってきただけだ」
からっとした表情で、当たり前の様に言わないで。
クルトさん、あなたも十分に怖いです。
「ヨハン、調子はどうだ。傷の治りは?」
クルトさんが、おかしな事を言った。
あんなに血が流れていたのだ。
すぐに良くなるはずがないじゃない、と思って見ていた私は驚く事になる。
「随分と良くなったよ」
そんな事を言うヨハンをよく見てみると、とても怪我をしている様には見えない動きだ。
包帯代わりにしていた布を取ると、血は完全に止まっていた。
刀傷に沿って肉芽が盛り上がり、傷口も塞がっている。
「信じられない、果汁を飲んだだけなのに」
治癒魔法が、掛けられた訳ではないのだ。
ここで普段食べていた、固い渋い実が熟しただけでこんな薬効があるなんて。
何故、知られていないのだろう?
「ベンが逃げる際あれだけ走れて、変だとは思っていたんだ」
「途中で、クルトさんが抱えてましたよね?」
「そうだ。いつもなら、もっと前にベンはバテていた筈だ。カーリと果汁を舐めていただろう。その影響が大きかったんだろうな」
この果汁にはゲームとかである、ポーションみたいな力があるんだね。
凄いな、でもそれなら何故『罪の実』なんてクルトさんは呟いたんだろう。
色々と考えていると、クルトさんが私の知らない事を教えてくれた。
「教会では、治療魔法以外での方法で、体を治す事は禁じられている。特例で薬の使用は認められているが、草から作るものだけだ。木々の樹液や果実の採取からの薬は、禁止事項だからな。今回の事、誰にも言うなよ。特にカーリ、いいな」
ヨハン、ベンが深く頷いた。
「私、そこまで口が軽い訳ではないですよ」
「カーリの場合、口が軽いんじゃなく常識が備わっていないんだ。特に教会関係な」
「うっ、分かりました」
クルトさんから、厳重注意された。
正直、その通りだから頷きましたとも。
一通り、体のチェックを終えたヨハンは、何かを決心した顔をした。
「クルトさん、俺の傷が良くなったから、前倒ししようと思うんです」
「まだ血が抜けた分、補っていないだろう。さっき決めた様に、一旦別の場所に出てから作戦を練った方がいい」
私達がいない間に、二人で行っていた話し合いだろう。
「しかし、こうしている間にもレーナがどうなっているか……」
ヨハンは、レーナを諦めてこちらに来た。
レーナが、喜ぶとも言っていた。
だから私は、ずっとそうだと思っていた。
私もベンもこの話題に触れないようにしていた。
レーナは無事だと、心の中で思って……。
「それは、さっきも言っただろう。騎士が言った『女が要る』と言うのは、独断で動いている奴らの戯言だ。今動く方が、余程レーナを危険に晒す事になる」
「そんなのは、分からないじゃないか」
ヨハンが、クルトさんに激しく言い寄る。
「この国は基本、人を無闇には殺さない。理由がないと殺さないんだ。俺達が行く事で理由を作るつもりか」
「違う。そんな事、望んでない」
「捕らえた騎士達は言っていた。捕まえた女を殿下の通るところに置いたが、殿下は興味を持たれなかった。人違いかもしれないから、もう一度探しに来たとな」
人違い?それって……。
「人違いや勘違いなら、最後殺さず放置される可能性が高い。街外の女をわざわざ街中に入れて、売り飛ばす程手間をかけないだろうからな」
「しかしクルトさんなら、何とかならないのか?」
あのクルトさんの戦闘を見た後なら、「この人ならもしかして……」と思うよね。
私が同じ立場だったら、まず頼み込むだろう。
「それも答えただろう。無理だと。今回襲って来たのは、王族が絡んでいない独断だ。ご機嫌取りをしたい誰か上の指示だったから、あの程度の奴らが来た。王族を護っている者は、もっと実力がある。今の俺では無理だ」
そんな言い合いを二人は繰り返し。
次第に言い合いは、途中から怒鳴りあいに変わっていた。
ヨハンが怪我で諦めていた事が、もしかしてと希望を持ってしまったからだろう。
「魔法の縄で、騎士のみんなをくるくる巻にして、サッとレーナをさらえないのかな」
そしてベンも参戦して、作戦の提案をしてくる始末だ。
「禁魔法の縄は今回ので最後だ。もうない。ベンは口を挟むな!」
クルトさんは、最後通告の様に言い放った。
「とーにーかーく、今は勘違いかもしれないが、カーリを出来るだけ街から離す。これが今しなければならない事だ」
「え?私を……何故?」
何故、私を街から離す事が一番なのか分からず呟くと、クルトさんが答えてくれた。
「アイツらがカーリを捕まえ、王族が興味を持ったとする。それはレーナが人違いだったと、確実になる事だ。ここまでは分かるよな」
かなり噛み砕いて言われたけど、それ位は分かります。
「今回レーナを捕まえた奴が、カーリも捕らえたならまだいい。違う奴ならレーナは貴族に恥をかかせ、名誉を傷付けた者になる。レーナがどんな仕打ちをされるか分からない。今なら下働きを増やしたとか、適当に言い逃れ出来るんだよ。プライドのお高い、貴族の勝手な言い分だな」
凄く怖い言い分だけど、それがこの世界の常識なのだろう。
でも、私は言いたい。
「そんな言い分、通さないでよ」
「だが、アイツらはそれが正しいと思っている。今縛っている奴らも、どんな風に言い逃れするか見物なんだがな。正直、こっちに追い掛ける奴らもいるだろう。すぐには、追いかけられない様にしてきたけどな」
ニヤリと笑うクルトさんの顔には、含みがあった。
「もしかして、怖い事してきたとか……」
「いや、足を折ってきただけだ」
からっとした表情で、当たり前の様に言わないで。
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