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第3話 転の巻 『泉のほとりで』
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「さて。問題はアリアナがどこに行ってしまったのかってことだよね」
マヤちゃんのおかげで凍結状態から戻ったチョコを携えた僕は、大門をくぐって城下町を後にした。
夕闇で薄暗くなった街道を歩きながら僕はアリアナの行方に考えを巡らせていた。
そもそも最近NPCになったばかりの彼女には知り合いも少なく、あまり行くアテがないはずだ。
どこかで路頭に迷っていなければいいんだけど……心配だな。
昼間からメイン・システムの通信機能を利用して幾度もアリアナに呼び掛けているんだけど、一向に彼女は応じてくれないし。
「アリアナ……どこでどうしてるのかな」
僕は背後を振り返り、今出てきたばかりの大門を見上げた。
もし彼女がこの人の多い街の中にいるのだとしたら、探すのは至難の業だ。
ジェネットのところに行ったのかと思ったけど、彼女もアリアナの姿は見ていないと言っていたし、お菓子職人の人達も知らないようだった。
さて、どうしたものか。
「とりあえず一度、闇の洞窟に戻ろう。アリアナも戻って来てるかもしれないし」
それから街道を歩き続ける僕はほどなくして修道女の一団とすれ違った。
すると彼女らの話が耳に入ってきたんだ。
「あのお嬢さん。1人で神殿に残してきましたけど大丈夫でしょうか。やはり気になります」
「仕方がありません。いくらお声をかけてもあの場から動かれなかったのですから、何かよほどのことがあったのでしょう。ずいぶん意気消沈されていらっしゃいましたが、お強そうな方でしたので大丈夫でしょう」
……え?
その話に僕は思わず足を止めた。
「あ、あのっ。ちょっとお聞きしたいのですが……」
そう呼び止める僕に修道女の一団が振り向いた。
そして彼女たちから話を聞いた僕はお礼を言うと一目散に駆け出していた。
僕の住処である闇の洞窟と城下町との間には、聖職者たちが祈りを捧げるための白亜の小さな神殿があった。
そこは普段は管理者のいない無人施設で、僕も何度か立ち寄ったことのある場所だ。
以前にそこでジェネットから全裸カバディ攻撃を受けたり、記憶を失っていたミランダに誘拐されたりしたことがある、色々と苦い思い出のある場所でもある。
そして修道女たちの話からすると、そこにいるのは間違いなくアリアナだ。
思わず僕は拳を強く握り締めた。
昼間に闇の洞窟を出て城下町に向かう途中で、僕はその神殿の前を通り過ぎていたんだ。
そこにアリアナがいたってのに、どうしてもっと早く気付かなかったんだ。
僕は一刻も早くアリアナに会いたくて必死に走り続ける。
やがて見えてきた神殿の中へと僕は息を弾ませて駆け込んだ。
「アリアナ!」
神殿入口から続く礼拝堂には彼女の姿はなかった。
だけどここは中庭にキャラクターのライフを無償で回復してくれるありがたい回復の泉がある。
僕は礼拝堂の扉をくぐり抜けて中庭へと足を踏み入れた。
すると滾々と美しい水が湧き出る泉のほとりに……アリアナがいた。
「アリアナ……」
1人でしゃがみ込んで背を向けていた彼女は、僕の声にビクッと肩を震わせ、それでも振り返らない。
その肩がフルフルと小刻みに震えていた。
僕はポケットからハンカチを取り出すと、そっとアリアナの隣に腰を下ろす。
そして目の前の美しい泉を見つめながら彼女にハンカチを手渡した。
「迎えに来るのが遅くなってごめんね。アリアナ」
「……私が勝手に飛び出しただけだから。こっちこそごめんね。心配かけて」
うなだれたままのアリアナは僕のハンカチを受け取ると、泣き疲れたような声で力なくそう言う。
僕は何も言わず、抱えていたアリアナのチョコを彼女に見せた。
「えっ? それ……」
アリアナは信じられないといった顔で大きく目を見開いている。
「アリアナが作ってくれたそのままの状態に戻ってるよ」
「嘘……」
「本当だよ。ある人に協力してもらったんだ。開けてもいい?」
僕の言葉にアリアナはまだ呆然としつつ、頷いた。
僕が包み紙を開けていく中、隣でアリアナが息を飲む様子が伝わって来る。
その手が緊張で震えていた。
果たして中身は……。
「ほ、本当に……元通りになってる」
アリアナは身を乗り出して中身を覗き込むとそう言った。
良かった。
作った本人のアリアナが元通りと言うなら間違いない。
彼女が作ったチョコはジェネットの作ったものほど形は整っていなかったけれど、アリアナがこれを丁寧に一生懸命作ったんだと思うと僕は胸がいっぱいになった。
僕なんかにはもったいないくらいの彼女の真心が込められているって、すぐに分かったよ。
だけど……。
「……犬だね」
「アル君のことを考えながら作ってたら、何かこうなっちゃって」
またしても犬!
どういうことだコレ!
僕のことを考えていると、どうしてもこうなるのか!
そのチョコはジェネットが作ったものと同じく犬の形をしていた。
ハ、ハハハ……彼女たちにとって僕のイメージはどうしても犬なんだな。
「あ、ありがとう。アリアナ。一緒に食べようよ」
「う、うん。おいしくないかもしれないけど」
そう言うとアリアナは涙で赤くなった目をハンカチで拭い、ようやく笑顔を見せてくれたんだ。
やっぱりアリアナが笑ってくれると僕は嬉しくなるよ。
彼女にもっともっと笑顔でいてほしくなるんだ。
それから泉の前で僕らは2人でチョコを食べた。
アリアナの作ったチョコは手作り感があって、ジェネットが作ったものほど洗練されてはいなかったけれど、さっきまで凍っていたとは思えないほど食べると温かい気持ちになれたんだ。
間違いなくそれは一生忘れられないくらいおいしかった。
「すごくおいしいよ。アリアナ」
「お世辞言わなくてもいいよ。アル君。私、下手だし」
そう言ってうつむきがちになるアリアナの目を僕はまっすぐに見つめた。
こんなおいしいチョコを作ってくれた彼女にちゃんと伝えたいんだ。
感謝の気持ちを。
「お世辞なんかじゃないよ。下手でもない。毎日でも食べたいくらい本当においしいよ。僕にこんなおいしいチョコを作ってくれて、ありがとうね。アリアナ」
そう言って僕はアリアナのチョコをいくつも食べた。
チョコを頬張る僕を見てアリアナは思わず笑い出す。
「……フフフ。アハハハッ。もうっ。アル君ってば」
「アリアナ。今度何か御礼をしないとね」
「御礼……そ、それなら今……してくれる?」
「え? 今? ええと……」
僕が首を傾げているとアリアナはチョコの容れ物を僕に差し出して、頬を真っ赤に染めて言う。
「わ、私が指でチョコをつまむとまた緊張して凍らせちゃうかもしれないから、その……ア、アル君が食べさせて」
「へっ……?」
い、いや、そんな……む、無理だって。
僕は戸惑ってアタフタしてしまうけど、そんな僕をよそにアリアナはその小さな口をアーンと開けて待っている。
「え? えええっ? ちょ、ちょ待って……」
「早く。アル君」
僕を見つめるアリアナの目が恥ずかしさに潤んいる。
こ、このままだとアリアナに恥ずかしい思いをさせ続けてしまう。
僕は息を飲むと覚悟を決めて震える指でチョコをつまんだ。
そしてそれをアリアナの口に運ぶ。
ううう……は、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
さっきジェネットに食べさせてもらった時も照れクサかったけど、今度は僕がアリアナに食べさせてあげる番になるなんて。
一体今日はどうなってるんだ。
僕は緊張に身を硬くしながら、チョコを落とさないように注意してアリアナに食べさせる。
「ど、どうぞ」
「はむっ……」
「はわわわっ」
アリアナはチョコを食べてくれたけれど、僕の指先が彼女のやわらかな唇に触れてしまった。
ひえっ……やばいやばい。
アリアナの小さな唇の感触はフワフワで柔らかくて目が回りそうだ。
アリアナは顔を真っ赤にしながらチョコを飲み込むと、再度口を開く。
「も、もう一個……」
「ええっ? も、もう一個?」
「うん。お願い」
それから僕は全てのチョコが無くなるまで連続で彼女に食べさせるという照れクサい行為を続けることとなった。
な、何のプレイだコレ。
アリアナはチョコを食べ終えると、少し恥ずかしそうにハンカチで口元を拭う。
「わ、私のほうがいっぱい食べちゃったね。何かゴメン」
「い、いいんだよ」
「今日は色々あったけど、アル君のおかげで幸せだった」
そう言って笑うアリアナは言葉の通り本当に嬉しそうな顔をしてくれた。
ふぅぅぅぅ……ドキドキしたぁ。
でも、色々あったけど僕は彼女のこの顔が見たかったんだ。
そう思いながら僕はアリアナに手を差し出した。
「一緒に帰ろう。僕らの家に」
「……うん。ありがとう」
アリアナは満面の笑みで僕の手を取ってくれたんだ。
だけど……。
「あああああああっ!」
「えっ? な、なになに? どうしたの?」
いきなり大きな声を上げて立ち上がるアリアナに僕は思わず面食らってしまう。
そんな僕を見ながらアリアナは顔を引きつらせて言った。
「わ、忘れてた! こ、今夜、仕事の依頼を受けてたんだ!」
「えっ? そ、そうなの?」
NPCとしてはまだ駆け出しのアリアナだけど、プレイヤー時代から経験を積み重ねた彼女はランクAの優秀なキャラクターだから、仕事を請け負うことがあるらしい。
話によると今夜はプレイヤーたちが活火山に巣食う火食い鳥というモンスターを倒すため、アリアナに依頼をしていたんだけど、その待ち合わせ時刻が一時間後に迫っていた。
彼女、それをすっかり忘れてたんだって。
「す、すぐに行かなきゃ! ごめんアル君! 気をつけて帰ってね!」
「う、うん。アリアナも気をつけてね」
アリアナは慌てふためいて神殿を飛び出して行った。
ま、間に合うかなぁ。
でも、彼女が元気を取り戻してくれて良かった。
僕はようやく一仕事終えたような安堵感を覚えながら家路についた。
そして自分の家である闇の洞窟へと戻ったんだけど、今日という一日はまだ終わらなかった。
そんな僕をまたもや困惑させる出来事がそこでは待っていたんだ。
マヤちゃんのおかげで凍結状態から戻ったチョコを携えた僕は、大門をくぐって城下町を後にした。
夕闇で薄暗くなった街道を歩きながら僕はアリアナの行方に考えを巡らせていた。
そもそも最近NPCになったばかりの彼女には知り合いも少なく、あまり行くアテがないはずだ。
どこかで路頭に迷っていなければいいんだけど……心配だな。
昼間からメイン・システムの通信機能を利用して幾度もアリアナに呼び掛けているんだけど、一向に彼女は応じてくれないし。
「アリアナ……どこでどうしてるのかな」
僕は背後を振り返り、今出てきたばかりの大門を見上げた。
もし彼女がこの人の多い街の中にいるのだとしたら、探すのは至難の業だ。
ジェネットのところに行ったのかと思ったけど、彼女もアリアナの姿は見ていないと言っていたし、お菓子職人の人達も知らないようだった。
さて、どうしたものか。
「とりあえず一度、闇の洞窟に戻ろう。アリアナも戻って来てるかもしれないし」
それから街道を歩き続ける僕はほどなくして修道女の一団とすれ違った。
すると彼女らの話が耳に入ってきたんだ。
「あのお嬢さん。1人で神殿に残してきましたけど大丈夫でしょうか。やはり気になります」
「仕方がありません。いくらお声をかけてもあの場から動かれなかったのですから、何かよほどのことがあったのでしょう。ずいぶん意気消沈されていらっしゃいましたが、お強そうな方でしたので大丈夫でしょう」
……え?
その話に僕は思わず足を止めた。
「あ、あのっ。ちょっとお聞きしたいのですが……」
そう呼び止める僕に修道女の一団が振り向いた。
そして彼女たちから話を聞いた僕はお礼を言うと一目散に駆け出していた。
僕の住処である闇の洞窟と城下町との間には、聖職者たちが祈りを捧げるための白亜の小さな神殿があった。
そこは普段は管理者のいない無人施設で、僕も何度か立ち寄ったことのある場所だ。
以前にそこでジェネットから全裸カバディ攻撃を受けたり、記憶を失っていたミランダに誘拐されたりしたことがある、色々と苦い思い出のある場所でもある。
そして修道女たちの話からすると、そこにいるのは間違いなくアリアナだ。
思わず僕は拳を強く握り締めた。
昼間に闇の洞窟を出て城下町に向かう途中で、僕はその神殿の前を通り過ぎていたんだ。
そこにアリアナがいたってのに、どうしてもっと早く気付かなかったんだ。
僕は一刻も早くアリアナに会いたくて必死に走り続ける。
やがて見えてきた神殿の中へと僕は息を弾ませて駆け込んだ。
「アリアナ!」
神殿入口から続く礼拝堂には彼女の姿はなかった。
だけどここは中庭にキャラクターのライフを無償で回復してくれるありがたい回復の泉がある。
僕は礼拝堂の扉をくぐり抜けて中庭へと足を踏み入れた。
すると滾々と美しい水が湧き出る泉のほとりに……アリアナがいた。
「アリアナ……」
1人でしゃがみ込んで背を向けていた彼女は、僕の声にビクッと肩を震わせ、それでも振り返らない。
その肩がフルフルと小刻みに震えていた。
僕はポケットからハンカチを取り出すと、そっとアリアナの隣に腰を下ろす。
そして目の前の美しい泉を見つめながら彼女にハンカチを手渡した。
「迎えに来るのが遅くなってごめんね。アリアナ」
「……私が勝手に飛び出しただけだから。こっちこそごめんね。心配かけて」
うなだれたままのアリアナは僕のハンカチを受け取ると、泣き疲れたような声で力なくそう言う。
僕は何も言わず、抱えていたアリアナのチョコを彼女に見せた。
「えっ? それ……」
アリアナは信じられないといった顔で大きく目を見開いている。
「アリアナが作ってくれたそのままの状態に戻ってるよ」
「嘘……」
「本当だよ。ある人に協力してもらったんだ。開けてもいい?」
僕の言葉にアリアナはまだ呆然としつつ、頷いた。
僕が包み紙を開けていく中、隣でアリアナが息を飲む様子が伝わって来る。
その手が緊張で震えていた。
果たして中身は……。
「ほ、本当に……元通りになってる」
アリアナは身を乗り出して中身を覗き込むとそう言った。
良かった。
作った本人のアリアナが元通りと言うなら間違いない。
彼女が作ったチョコはジェネットの作ったものほど形は整っていなかったけれど、アリアナがこれを丁寧に一生懸命作ったんだと思うと僕は胸がいっぱいになった。
僕なんかにはもったいないくらいの彼女の真心が込められているって、すぐに分かったよ。
だけど……。
「……犬だね」
「アル君のことを考えながら作ってたら、何かこうなっちゃって」
またしても犬!
どういうことだコレ!
僕のことを考えていると、どうしてもこうなるのか!
そのチョコはジェネットが作ったものと同じく犬の形をしていた。
ハ、ハハハ……彼女たちにとって僕のイメージはどうしても犬なんだな。
「あ、ありがとう。アリアナ。一緒に食べようよ」
「う、うん。おいしくないかもしれないけど」
そう言うとアリアナは涙で赤くなった目をハンカチで拭い、ようやく笑顔を見せてくれたんだ。
やっぱりアリアナが笑ってくれると僕は嬉しくなるよ。
彼女にもっともっと笑顔でいてほしくなるんだ。
それから泉の前で僕らは2人でチョコを食べた。
アリアナの作ったチョコは手作り感があって、ジェネットが作ったものほど洗練されてはいなかったけれど、さっきまで凍っていたとは思えないほど食べると温かい気持ちになれたんだ。
間違いなくそれは一生忘れられないくらいおいしかった。
「すごくおいしいよ。アリアナ」
「お世辞言わなくてもいいよ。アル君。私、下手だし」
そう言ってうつむきがちになるアリアナの目を僕はまっすぐに見つめた。
こんなおいしいチョコを作ってくれた彼女にちゃんと伝えたいんだ。
感謝の気持ちを。
「お世辞なんかじゃないよ。下手でもない。毎日でも食べたいくらい本当においしいよ。僕にこんなおいしいチョコを作ってくれて、ありがとうね。アリアナ」
そう言って僕はアリアナのチョコをいくつも食べた。
チョコを頬張る僕を見てアリアナは思わず笑い出す。
「……フフフ。アハハハッ。もうっ。アル君ってば」
「アリアナ。今度何か御礼をしないとね」
「御礼……そ、それなら今……してくれる?」
「え? 今? ええと……」
僕が首を傾げているとアリアナはチョコの容れ物を僕に差し出して、頬を真っ赤に染めて言う。
「わ、私が指でチョコをつまむとまた緊張して凍らせちゃうかもしれないから、その……ア、アル君が食べさせて」
「へっ……?」
い、いや、そんな……む、無理だって。
僕は戸惑ってアタフタしてしまうけど、そんな僕をよそにアリアナはその小さな口をアーンと開けて待っている。
「え? えええっ? ちょ、ちょ待って……」
「早く。アル君」
僕を見つめるアリアナの目が恥ずかしさに潤んいる。
こ、このままだとアリアナに恥ずかしい思いをさせ続けてしまう。
僕は息を飲むと覚悟を決めて震える指でチョコをつまんだ。
そしてそれをアリアナの口に運ぶ。
ううう……は、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
さっきジェネットに食べさせてもらった時も照れクサかったけど、今度は僕がアリアナに食べさせてあげる番になるなんて。
一体今日はどうなってるんだ。
僕は緊張に身を硬くしながら、チョコを落とさないように注意してアリアナに食べさせる。
「ど、どうぞ」
「はむっ……」
「はわわわっ」
アリアナはチョコを食べてくれたけれど、僕の指先が彼女のやわらかな唇に触れてしまった。
ひえっ……やばいやばい。
アリアナの小さな唇の感触はフワフワで柔らかくて目が回りそうだ。
アリアナは顔を真っ赤にしながらチョコを飲み込むと、再度口を開く。
「も、もう一個……」
「ええっ? も、もう一個?」
「うん。お願い」
それから僕は全てのチョコが無くなるまで連続で彼女に食べさせるという照れクサい行為を続けることとなった。
な、何のプレイだコレ。
アリアナはチョコを食べ終えると、少し恥ずかしそうにハンカチで口元を拭う。
「わ、私のほうがいっぱい食べちゃったね。何かゴメン」
「い、いいんだよ」
「今日は色々あったけど、アル君のおかげで幸せだった」
そう言って笑うアリアナは言葉の通り本当に嬉しそうな顔をしてくれた。
ふぅぅぅぅ……ドキドキしたぁ。
でも、色々あったけど僕は彼女のこの顔が見たかったんだ。
そう思いながら僕はアリアナに手を差し出した。
「一緒に帰ろう。僕らの家に」
「……うん。ありがとう」
アリアナは満面の笑みで僕の手を取ってくれたんだ。
だけど……。
「あああああああっ!」
「えっ? な、なになに? どうしたの?」
いきなり大きな声を上げて立ち上がるアリアナに僕は思わず面食らってしまう。
そんな僕を見ながらアリアナは顔を引きつらせて言った。
「わ、忘れてた! こ、今夜、仕事の依頼を受けてたんだ!」
「えっ? そ、そうなの?」
NPCとしてはまだ駆け出しのアリアナだけど、プレイヤー時代から経験を積み重ねた彼女はランクAの優秀なキャラクターだから、仕事を請け負うことがあるらしい。
話によると今夜はプレイヤーたちが活火山に巣食う火食い鳥というモンスターを倒すため、アリアナに依頼をしていたんだけど、その待ち合わせ時刻が一時間後に迫っていた。
彼女、それをすっかり忘れてたんだって。
「す、すぐに行かなきゃ! ごめんアル君! 気をつけて帰ってね!」
「う、うん。アリアナも気をつけてね」
アリアナは慌てふためいて神殿を飛び出して行った。
ま、間に合うかなぁ。
でも、彼女が元気を取り戻してくれて良かった。
僕はようやく一仕事終えたような安堵感を覚えながら家路についた。
そして自分の家である闇の洞窟へと戻ったんだけど、今日という一日はまだ終わらなかった。
そんな僕をまたもや困惑させる出来事がそこでは待っていたんだ。
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