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大型企画の代表責任者は?②
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レポート提出期限の3日前、18時過ぎ。
静まり返ったオフィスで、私はパソコンに向かっていた。
提出用の現場レポート。
佐伯は“スピード”を武器に、すでに提出済み。
だが――中身は、薄い。
現場ヒアリングの内容は“印象論”が多く、分析項目の粒度もバラバラ。
でも、“熱意”だけは伝わる。
それが、彼女の計算だ。
「黒宮さん、今日まだ帰ってなかったんですね~」
不意に聞こえた声に振り向くと、そこにはまた佐伯がいた。
「ちょっと気になって見に来ちゃいました。追い上げ中ですか?」
「佐伯さんは、もう出されたんですよねぇ? すごいですぅ♡ 早いってだけで、“できる人”って思われますもんねぇ♡」
「いやいや、そういうの、後追いで“修正”する人がいるから成り立つんですよ?」
「えぇ♡ でも私、“修正担当”じゃないんでぇ♡ “最初から完成させる系”なんですぅ♡」
「……ふぅん」
佐伯はあからさまに苛立った目をした。
でも、あくまで笑顔を崩さない。
今の彼女は、“勝ち筋”を見出している顔だった。
「ま、あとは部長の判断ですけどね。あの人、“熱量”で見てくるから」
「そうですねぇ♡ “熱量”って、分析できないんですよねぇ♡」
「……は?」
「そういうものに頼るって、たとえば“失敗したときの説明責任”どうするんですかぁ?」
佐伯が一瞬言葉に詰まったのを確認し、私は静かにプリンタの電源を入れる。
「……ま、いいです。黒宮さんのレポート、楽しみにしてます。私のより“完璧”なんですよね?」
「え~? “完璧”って言葉、好きなんでぇ♡」
プリントアウトされたレポートは、全部で14ページ。
データ、グラフ、要点整理、そして現場ごとの課題と提案の一覧。
“読み手の目線で構成されている”というだけで、
読み手の脳みそには、ちゃんと残る。
□
翌朝。
レポート提出の場には、制作部の部長、広報の係長、そしてLUCENTのプロデューサーまで来ていた。
「……うーん。二人とも、よくやったな」
部長が唸る。
「黒宮、お前のレポートは“分析資料”としては申し分ない。佐伯の方は……そうだな、“現場の肌感”を伝えるには役立つ部分もある」
私は微笑んで一礼した。
佐伯は、不機嫌そうに腕を組む。
「で、どっちを“現場マネジメント役”にするか、だが――」
ピリ、と空気が張ったその瞬間。
プロデューサーが口を開いた。
「――このプロジェクト、内部構成は二人制にしたらどうです?」
「えっ」
「一人は“現場マネジメントの監督”。もう一人は、“現場サイドの連携役”。
黒宮さんは“進行と報告”。佐伯さんは“現場からのフィードバック収集”。
それぞれ得意なとこやらせて、合体させる形で回しましょうよ。佐伯さ
んもマネージャー候補ですし。」
佐伯の目が一瞬、輝いた。
「つまり……私も入るってことですよね?」
「まあ、“現場寄り”の役割でね。あくまで、黒宮さんが主導になるけど」
「……」
佐伯の顔から、ほんの一瞬、表情が抜けた。
私は、静かに頭を下げる。
「ありがとうございます。精一杯やらせていただきます。」
部長が笑って席を立った。
「じゃあ、今日から正式始動だな。二人でしっかり連携してくれよ。頼んだぞ」
「……はい」
「了解です。」
――この瞬間、佐伯は勘違いしている。
「同じ土俵に上がった」と。
でも、それは違う。
上に立ったのは、こっちだ。
下請けじゃない。
“メイン”で回すのは、私。
そして私は、そのことを―
わざわざ、言ってあげたりはしない。
静まり返ったオフィスで、私はパソコンに向かっていた。
提出用の現場レポート。
佐伯は“スピード”を武器に、すでに提出済み。
だが――中身は、薄い。
現場ヒアリングの内容は“印象論”が多く、分析項目の粒度もバラバラ。
でも、“熱意”だけは伝わる。
それが、彼女の計算だ。
「黒宮さん、今日まだ帰ってなかったんですね~」
不意に聞こえた声に振り向くと、そこにはまた佐伯がいた。
「ちょっと気になって見に来ちゃいました。追い上げ中ですか?」
「佐伯さんは、もう出されたんですよねぇ? すごいですぅ♡ 早いってだけで、“できる人”って思われますもんねぇ♡」
「いやいや、そういうの、後追いで“修正”する人がいるから成り立つんですよ?」
「えぇ♡ でも私、“修正担当”じゃないんでぇ♡ “最初から完成させる系”なんですぅ♡」
「……ふぅん」
佐伯はあからさまに苛立った目をした。
でも、あくまで笑顔を崩さない。
今の彼女は、“勝ち筋”を見出している顔だった。
「ま、あとは部長の判断ですけどね。あの人、“熱量”で見てくるから」
「そうですねぇ♡ “熱量”って、分析できないんですよねぇ♡」
「……は?」
「そういうものに頼るって、たとえば“失敗したときの説明責任”どうするんですかぁ?」
佐伯が一瞬言葉に詰まったのを確認し、私は静かにプリンタの電源を入れる。
「……ま、いいです。黒宮さんのレポート、楽しみにしてます。私のより“完璧”なんですよね?」
「え~? “完璧”って言葉、好きなんでぇ♡」
プリントアウトされたレポートは、全部で14ページ。
データ、グラフ、要点整理、そして現場ごとの課題と提案の一覧。
“読み手の目線で構成されている”というだけで、
読み手の脳みそには、ちゃんと残る。
□
翌朝。
レポート提出の場には、制作部の部長、広報の係長、そしてLUCENTのプロデューサーまで来ていた。
「……うーん。二人とも、よくやったな」
部長が唸る。
「黒宮、お前のレポートは“分析資料”としては申し分ない。佐伯の方は……そうだな、“現場の肌感”を伝えるには役立つ部分もある」
私は微笑んで一礼した。
佐伯は、不機嫌そうに腕を組む。
「で、どっちを“現場マネジメント役”にするか、だが――」
ピリ、と空気が張ったその瞬間。
プロデューサーが口を開いた。
「――このプロジェクト、内部構成は二人制にしたらどうです?」
「えっ」
「一人は“現場マネジメントの監督”。もう一人は、“現場サイドの連携役”。
黒宮さんは“進行と報告”。佐伯さんは“現場からのフィードバック収集”。
それぞれ得意なとこやらせて、合体させる形で回しましょうよ。佐伯さ
んもマネージャー候補ですし。」
佐伯の目が一瞬、輝いた。
「つまり……私も入るってことですよね?」
「まあ、“現場寄り”の役割でね。あくまで、黒宮さんが主導になるけど」
「……」
佐伯の顔から、ほんの一瞬、表情が抜けた。
私は、静かに頭を下げる。
「ありがとうございます。精一杯やらせていただきます。」
部長が笑って席を立った。
「じゃあ、今日から正式始動だな。二人でしっかり連携してくれよ。頼んだぞ」
「……はい」
「了解です。」
――この瞬間、佐伯は勘違いしている。
「同じ土俵に上がった」と。
でも、それは違う。
上に立ったのは、こっちだ。
下請けじゃない。
“メイン”で回すのは、私。
そして私は、そのことを―
わざわざ、言ってあげたりはしない。
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