塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

文字の大きさ
30 / 76

大型企画の代表責任者は?④

しおりを挟む
「……提出期限、前倒しになったって」

その日の午後、社内チャットで共有された一文に、佐伯がぴくりと眉を動かした。

「はやっ。ねぇ、黒宮さん、それ聞いてた?」

「 今、初めて知りましたぁ♡」

私はスマホを見ながら、にこりと微笑む。

佐伯は目を細め、口角を上げる。

「ま、いっか。黒宮さんって、たぶん“計画的にやる派”でしょ? 私、こういうの“早く出す方がいい”と思ってるんだよね」

「出すの早くても、中身がスカスカじゃ意味ないですもんねぇ♡」

佐伯の目元がピクリと動いたのを、私は見逃さなかった。


翌朝。
プロジェクトのレビュー会議にて。

「ふむ……黒宮、資料のこの比較図、いいな。先方にも見せたい」

部長のその一言で、会議室の空気が揺れる。
佐伯が一瞬、ノートのページをめくる手を止めた。

「比較図は、現場スタッフのヒアリングをベースに再構成したものです。――佐伯さんのヒアリング内容も、すごく参考になりました。」

そうやって“功績”を分散するふりをしつつ、私は先に“信頼”を取る。

佐伯は唇を尖らせながらも、声を張った。

「まぁ、情報出したのは私なんで。現場とちゃんと向き合ったって意味では、伝わったかなって」

「うん、でも黒宮の方が“使える形”になってるな。実務に落とし込むとしたら、こっちの資料がベースになる」

そう言ったのは、営業部の関口だった。
その後も、総務の梶原、広報の宮野と、黒宮支持のコメントが続いた。

佐伯は、椅子の背にもたれかかって、あからさまにため息をつく。

「みんなさぁ……“きれいに整ってる資料”ばっか重視してない? ほんとの中身、見てる?」

「中身も整ってましたよ?」

思わず口にした天城の言葉に、佐伯はちらっと睨みをきかせた。

「……まぁいいや。どうせ、上が決めるんだし」


しかし、打ち合わせが終わってすぐ、私は“わかりやすい”動きを見ることになる。



「すみませーん、部長いらっしゃいます?」

昼休み、佐伯はお菓子の袋とペットボトルを手に、部長席の周囲をうろうろしていた。

「たまには、こういうの差し入れしとこうと思って~。いつもお世話になってますし!」

「お、気が利くな佐伯!」

「いやぁ~それほどでもないですって~!」

遠目に見ながら、私はパソコンの画面に視線を戻す。
手元には、次のミーティング資料。

彼女が“見せたい動き”をしてくるたびに、私は“見せない実務”で、着々と差をつける。

勝負は、始まったばかり。
でも、たぶん――佐伯にはもう、それが分からなくなっている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...