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大型企画の代表責任者は?⑥
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今日は、次の大型プロジェクトに向けた“方向性のすり合わせ”が議題だった。
部屋の隅、私は静かにメンバーの様子を見守っていた。
その中央に――佐伯が、いた。
「ね、宮原さん。この新しいスケジュール案、どう思います?」
「え、あ、はい……まあ、悪くはないかと」
「でしょ? 私もちょっと相談してって言われてて~。メンバーの負担が増えすぎないようにって、木村さんとも調整してるの」
佐伯は“代表ではない”のに、まるで自分が代表かのように振る舞う。
その傍らで、木村さんも頷いていた。
「佐伯さん、なんだか最近よく動いてくれてるから、頼っちゃうんだよね~」
「いやいや~、現場が回らなかったら意味ないし? 黒宮さんは“全体調整”が得意だし、私がちょっとサポートしてるだけっていうか?」
宮原さんと木村さん。どちらも、LUCENT内で穏やかで、どちらかといえば流されやすい子たち。
そこを、佐伯はちゃんと“見て”いる。
□
打ち合わせ後、望月がぼそっと言った。
「……あれ、見ててゾッとしたんだけど。あんな“世話好き風”って武器になるんだ…」
「佐伯さん、“味方”をつくるの、上手ですからね」
「宮原、流されてんなあ……」
「木村さんもですね。二人とも、佐伯さんの“圧”に慣れてないのかもしれません」
天城がため息をついた。
「黒宮さん、放っといて大丈夫なんすか?」
「大丈夫ですよ。 私、“必要以上に好かれない”よう気をつけてるので。」
□翌日。LUCENTのリハーサル現場にて。
「え? 佐伯さんに言われて、スケジュール変えた?」
そう口にしたのは、照明スタッフのひとり。
「はい、佐伯さんが“こっちのほうが動きやすい”って……でも、黒宮さんには聞いてない感じでした?」
「……そうなんですね」
調整を“先に回す”ことで、既成事実をつくっていく。
彼女のやり方は巧妙で、確かに現場ではありがたい、と思われたりもする。
ただ、そこには――
「情報が一箇所に集まってないと、混乱するってわかってないんですねぇ♡」
私はスケジュール表にさっと赤を入れ、微笑んだ。
□
週明けの進捗確認会議。私は全体フローを再整理した資料を提出しながら言った。
「現場判断を尊重しつつ、統一されたラインで全体を見るため、情報共有ルートを一本化します。以後、タスク確認は“調整担当者を通して”お願いします」
会議室がしんと静まる中、佐伯が手を挙げる。
「……え、それって私がメンバーから直接聞いてる話も、いちいち黒宮さんに通さなきゃダメってことですか?」
「いちいち、というより“最低限”の確認ですよぉ♡ 現場が混乱したら意味ないですからぁ♡」
「……ふーん、そうですかぁ?」
佐伯は、笑っていた。でもその笑顔は、うっすらと崩れていた。
□
会議の後。
「黒宮さん……あの、さっきの件、佐伯さんちょっと怒ってたかも……」と、木村さんがこっそり声をかけてくる。
「大丈夫ですよ。 佐伯さん“味方”を作るのは上手ですけど、私は“味方を巻き込まない”でやるのがポリシーなので。」
「……なんか、すごいですね……」
私は、佐伯に勝とうと思って動いてはいない。
ただ、“私のやり方”で、必要な仕事を進めているだけ。
部屋の隅、私は静かにメンバーの様子を見守っていた。
その中央に――佐伯が、いた。
「ね、宮原さん。この新しいスケジュール案、どう思います?」
「え、あ、はい……まあ、悪くはないかと」
「でしょ? 私もちょっと相談してって言われてて~。メンバーの負担が増えすぎないようにって、木村さんとも調整してるの」
佐伯は“代表ではない”のに、まるで自分が代表かのように振る舞う。
その傍らで、木村さんも頷いていた。
「佐伯さん、なんだか最近よく動いてくれてるから、頼っちゃうんだよね~」
「いやいや~、現場が回らなかったら意味ないし? 黒宮さんは“全体調整”が得意だし、私がちょっとサポートしてるだけっていうか?」
宮原さんと木村さん。どちらも、LUCENT内で穏やかで、どちらかといえば流されやすい子たち。
そこを、佐伯はちゃんと“見て”いる。
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打ち合わせ後、望月がぼそっと言った。
「……あれ、見ててゾッとしたんだけど。あんな“世話好き風”って武器になるんだ…」
「佐伯さん、“味方”をつくるの、上手ですからね」
「宮原、流されてんなあ……」
「木村さんもですね。二人とも、佐伯さんの“圧”に慣れてないのかもしれません」
天城がため息をついた。
「黒宮さん、放っといて大丈夫なんすか?」
「大丈夫ですよ。 私、“必要以上に好かれない”よう気をつけてるので。」
□翌日。LUCENTのリハーサル現場にて。
「え? 佐伯さんに言われて、スケジュール変えた?」
そう口にしたのは、照明スタッフのひとり。
「はい、佐伯さんが“こっちのほうが動きやすい”って……でも、黒宮さんには聞いてない感じでした?」
「……そうなんですね」
調整を“先に回す”ことで、既成事実をつくっていく。
彼女のやり方は巧妙で、確かに現場ではありがたい、と思われたりもする。
ただ、そこには――
「情報が一箇所に集まってないと、混乱するってわかってないんですねぇ♡」
私はスケジュール表にさっと赤を入れ、微笑んだ。
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週明けの進捗確認会議。私は全体フローを再整理した資料を提出しながら言った。
「現場判断を尊重しつつ、統一されたラインで全体を見るため、情報共有ルートを一本化します。以後、タスク確認は“調整担当者を通して”お願いします」
会議室がしんと静まる中、佐伯が手を挙げる。
「……え、それって私がメンバーから直接聞いてる話も、いちいち黒宮さんに通さなきゃダメってことですか?」
「いちいち、というより“最低限”の確認ですよぉ♡ 現場が混乱したら意味ないですからぁ♡」
「……ふーん、そうですかぁ?」
佐伯は、笑っていた。でもその笑顔は、うっすらと崩れていた。
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会議の後。
「黒宮さん……あの、さっきの件、佐伯さんちょっと怒ってたかも……」と、木村さんがこっそり声をかけてくる。
「大丈夫ですよ。 佐伯さん“味方”を作るのは上手ですけど、私は“味方を巻き込まない”でやるのがポリシーなので。」
「……なんか、すごいですね……」
私は、佐伯に勝とうと思って動いてはいない。
ただ、“私のやり方”で、必要な仕事を進めているだけ。
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