塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

文字の大きさ
34 / 76

大型企画の代表責任者は?⑧

しおりを挟む
「……てかさあ、佐伯さんって、最近すごく動いてない?」

昼休み、事務所近くのカフェにて。営業の松野さんがぼそっと言った。

「外部のスタジオからも評判いいって話、聞いたよ。現場回ってるって」

「確かに動いてますね」

私はカップを口に運んだ。

――どうやら、佐伯が“評価されてる風の空気”を、外にも広げはじめているらしい。



週明け。

「この前の現場スタッフ、また佐伯さんのこと褒めてたらしいですよ~。『現場感ある女性マネージャー』って」

会議室の片隅で、木村さんがこっそり話している。

「現場“感”ってなに? 現場の“段取りミス”で困ったの、私なんだけど……」
宮原さんが苦笑いする。

「あの人、周囲が困ってるときにフォローしてくれるヒロイン的ポジションに入りたがるよね」
霧島がぼそっと言い、朝倉はスッと親指で自分の首を切る仕草をした。

私は無言でパソコンを操作しながら、報告書に目を通す。

そこには、佐伯が勝手に書き足したような一文があった。

「スタジオ選定の段階で不安要素を察知し、現地で即時調整した」

「……私、そんな指示出してませんけど」



翌日。

「黒宮さん、ちょっと聞きたいんですけど」

メイクさんが近づいてくる。

「佐伯さんが、次のプロモ案件で“責任者的なポジション”に選ばれそうって聞いたんですけど……本当ですか?」

「えぇ~? 佐伯さん、またそう言ってるんですか?」

「えっ、やっぱり本人の自己申告なんだ……」

「まぁ、外部にいい顔するのも、仕事のうちですから」

私はスマホで資料を確認しながら、微笑んで言った。



その日の午後。

社内の共用スペースで、佐伯が誰かと電話している声が聞こえた。

「はい、そうですね~。黒宮さん、すごくしっかりしてる方なんですけど、ちょっと“机上管理”なところがあって……私が現場で拾って補完してる感じです」

「はい、もちろん~!“今後の体制”も見据えて、意見どんどん言ってくださいって言われてるんで」



翌朝。
社内掲示板に、外部評価ヒアリングのサマリーが張り出された。

「黒宮氏:全体調整に強く、社内外のリスクコントロールが安定している」
「佐伯氏:現場対応に意欲的、迅速な行動が評価される一方、調整プロセスに注意が必要」

佐伯は掲示板を見て、しばらく無言だった。

それから、笑顔で近づいてきた。

「でも私、現場で動けるから! 調整って、現場がしっかりしてないと意味ないし?」

「そうですねぇ♡ “現場を混乱させない”のが、ほんとの“現場感”ですよねぇ♡」

「は?」





部長から呼び出しを受けた私は、次の案件の方向性について説明を受けた。

「今後、現場対応と管理、両面を評価していく。佐伯にも任せられる範囲は増やすが、最終責任は黒宮、お前だ」

「了解しました」

私は席を立ち、部屋を出る。

すると廊下の先で、佐伯が小声でつぶやいたのが聞こえた。

「……でも、私も必要って思われてるってことだよね」

私は小さく笑った。

――それ、誰が言ったの?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...