塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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夏休み④

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水着のまま、水をかけ合って、笑い声が響いて、転んで、また笑って。

全員が息を切らしながら砂浜に倒れ込んだ。

「はー、たのしかったー……!」



「黒宮さん、動きがアスリートでしたけど……。」

望月のその一言に、私は軽く息を吐きながら砂に腰を下ろす。

「ただの運動です」

「いや、水鉄砲持って佐伯さんにダッシュで詰める“ただの人間”ってなんですか……」

「水かけられた本人は今でも納得いってないですからね!」

佐伯が顔面を濡らしたまま怒っていたが、私は無言で海水を再び佐伯にかけて、隣に落ちていたタオルを顔にかけた。


「えっくろみやさ、」

と佐伯が何か言うが、気にしない。



太陽がちょうど真上。
海と空の境界が白くかすんで、あたり一面が夏だった。

――これで、ようやく静かになる。

そう思ったときだった。

「……黒宮さんって、どんな人がタイプなんですか?」

宮原である。

「このタイミングで聞くの、マジで正気?」

「いや、でも! さっきの黒宮さん見て思ったんですよ、なんか……“冷静で高嶺の花”って思ってたけど、こういう一面あるんだなって!」

「……それと“理想のタイプ”に何の関係が?」

「だって、黒宮さんって、誰かに甘えたり頼ったりしなさそうじゃないですか。だから、どんな人を“いいな”って思うのかなーって」

一瞬、場が静まった。

みんなが興味津々でこっちを見ているのが分かる。
私は、濡れた髪をかき上げて、ゆっくりと目を閉じた。

「いませんよ、そんなの」

「えー、嘘だー」

「本当です。“タイプ”とか言ってる時点で、たぶんそれって恋愛に幻想を抱いてるだけですから」

「うわ、現実ぅ……」

「だいたい、“理想通り”の人なんて、現実には存在しません。人間ってそんな単純じゃないので」

「いやそれは……まぁ……」

「それに。私は誰かに“癒されたい”とか“支えられたい”とか、そんなに思わないです。ちゃんとやってれば、自分で解決できますから」

「…………」

「……ただ」

私がぽつりと口にした言葉に、空気がまた少し変わる。

「まず、顔が良い人。お金を持っている人。私より背が高い人。一緒にいて、無理に気を遣わなくていい人。仕事も、会話も、空気も、“勝手にうまく回ってるな”って思える人がいたら……」

「……?」

「そういう人とは、ずっと一緒にいても苦じゃないかもしれませんね」

「……なるほど……」

なんとなく、周囲がちらっと霧島のほうを見たのは気づいた。



青すぎる空と、眩しすぎる太陽。
いつも通りの霧島が、近くのパラソルの影で静かにペットボトルの水を飲んでいた。

いつもと変わらない無表情。
でも、不思議とその背中が、どこか心地よく映った。



タイプなんて、別にいない。
いるとしたら、“なんとなく心地いい人”。

それだけで、いい。

そして私は、サングラスをかけ直す。

「さ、次は何するんですか? まさか全員でスイカ割りとか言い出さないでしょうね?」

「うわ、黒宮さんがまだ参加する気満々だ……!」

「今日の黒宮さん、なんか怖いくらいノリがいい!」

「そろそろ誰か怒らせてはいけないラインを……」

再び始まる騒がしい午後。
でも――私は、嫌いじゃない。

これもきっと、夏だから。

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