塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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夏休み⑤

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浜辺から数時間後。
日も傾き始め、涼しい風が吹いてきた。

全員が軽くシャワーを浴び、着替えて戻ってくる。
水着から一転、各自お気に入りのリゾート風ファッションに身を包み、雰囲気はすっかり“大人の夕暮れモード”。

私は、白シャツにナチュラルなベージュのズボン、グレーのカーディガン。そして足元には編み込みサンダル。髪も結い上げて、ふわっと仕上げる。
シンプルながら、どこかカフェにいそうな雰囲気で、あいかわらず隙がない。

「……なにその服。どこで着るつもりだったの?」
佐伯が鼻を鳴らす。

「バーベキューですよ? これくらいは常識の範囲内です」
テーブルの横にさらっと腰かけながら返す。

「いやいやいや、BBQって言ったらさ、もっとこう、Tシャツとかジーンズとか、ラフな感じで来ない?」

「これもラフな感じですよ?それに、それ、“気を抜いた”って言うんです」

「……は?」

「“気取らない”と“気を抜く”は別物ですよ」

佐伯はと言葉に詰まる。が、黙らない。

「ていうかさ、そんなに完璧装備してさ……煙、服についたらどうするの?」


「そのためにカーディガンがありますし、洗えば落ちます」

「……うわ、ほんと隙ない……」

それでも佐伯は負けじと焼き網の前へ行き、ウインナーをトングで突きまわしていた。

一方、私は、朝倉が焼いていたカルビの皿を手に取ると、何も言わずに口に運ぶ。
噛んだ瞬間、表情が少し緩んだ。

「……おいしい」

その言葉に、隣の望月が驚いたように振り向いた。

「えっ、黒宮さん、“おいしい”って言いました?」
「……何か文句でも?」

「うわあ、なんか……意外! めちゃくちゃちゃんと食べるんですね!」
「栄養バランスを考えた上で、たまには“好きなものを楽しむ”時間も必要です」

そう言って、次々と皿に取ったものを無言で食べ進める。カルビ、トウモロコシ、焼きおにぎり、串、そして串。
一見すると、完璧主義者とは思えないほど自然に、でも丁寧に食べていた。

「こんなにちゃんと食べてて、どうしてあのスタイル維持できるんですか……?」
佐伯がじっと私のウエストラインを見ながら言う。

「努力と計算です」

「……あーーーやっぱそういう答えか……もうちょっと夢のある返しないの?」

「“なんとなく”とか“体質”とか言い出す方が夢ないです」

「それもそうかも……」
天城がトングを振りながら微妙に納得している。

その横で、望月が焦げたピーマンをうっかり落とし、朝倉が慌てて拾おうとして転び、霧島が笑い転げる。

成瀬は成瀬で「焼けたよー! 焼けた焼けたーー!!」とテンション高く肉を配っている。

にぎやかな笑い声。
焼き立ての香ばしい匂い。
潮風と、やわらかい焚き火の煙。

私はそのすべてを、あくまで落ち着いたまま受け入れ、
静かに、でも確かにその場を愉しんでいた。

――これはこれで、悪くない。


肉、おいしい。
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