塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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夏休み⑥

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バーベキューの熱がひと段落した頃。
望月が、手をパンと叩いた。

「はいっ! 食後といえば、夏といえば……スイカ割りーーっ!!」

「いや急だな!?」
成瀬が串を持ったまま驚きの声を上げる。

「買ってたの?」
天城が目を丸くすると、望月はニッと笑う。

「ちゃんと用意しておきましたー! どーん!」

大玉のスイカが、氷水の中からごろんと取り出される。
それを見た佐伯が、ちょっと身を乗り出した。

「スイカ割りって、マジでやったことないかも」

「私も~!」

「絶対一発で割ってみせるからね!!」

「……割れた試しないけどね」

みんながぞろぞろと浜辺へ移動していく中、
私はその場に残って、手元の炭火で焼かれたマシュマロをくるくると回していた。

「黒宮さんも来ないんですかー?」
成瀬が振り返って呼びかけてくる。

「……見てるだけで十分かと」

「え~、ダメですって。こういうの、全員参加がルールなんですから!」

「誰が決めたルールなんです、それ」

「今決めました!」

そんな強引な理屈に押されて、私は渋々立ち上がった。

浜辺には、タオルで即席の目隠しが用意され、
朝倉が「こっちこっちー!」と全力で適当な声を出して誘導している。

一番手は天城。
慎重に歩き、振り下ろした棒は――全然関係ない方向へ。

「おしい! いや、全然おしくない!」

「だれだよ、“もうちょい右!”って言ったの!」

「俺だよ!!」

「最低かよ!」


次は佐伯。
すっごい気合いを入れて挑んだが、棒がスイカの“横”をかすめて砂をえぐる。

「うっそ!? 私今、絶対当たったと思ったんだけど!?」

「いや、当たったの砂だよね……?」

「砂の破壊力は誰よりもあったよ」




望月は自ら「スイカ割りの申し子」と名乗ったが、
「えいっ!」と元気に振り下ろした棒は、真上の空間を斬った。

「……天を割ってどうするんですか」
宮原がぼそっと突っ込む。


「なんで誰も何も言わないんだよ!!!」




そして。

「ラスト! 黒宮さんです!」

「がんばれー!」

「意外と“方向音痴”とかじゃないの~?」

周囲が半分からかうように声をかける中、
私はゆっくりと目隠しをされ、棒を持たされた。

「では、回ります。……1、2、3、4、5……」

「ちょっと待って!? 黒宮さん、回るのめっちゃ綺麗じゃない!?」

「え、なにあの軸!?」

「フィギュアスケートの回転かと思った……」

私は無言のまま、回転後、正確に足を前に進める。
歩幅も、ブレがない。

そして、スイカの真正面で、ぴたりと止まった。

「え……あれ……ちょ、もしかして……」

ズバンッ!!!

綺麗な弧を描いた棒が、まっすぐにスイカを叩き割った。

「「「!?」」」

沈黙。
その後、全員が一斉に叫ぶ。

「なんでだよ!!」

「マジで割れた!!」

「ちょっと!? 今のヤバくなかった!?」

「なんで!?なんで指示してない中で目隠しして当てられるの!?」

私が目隠しを外して無表情で棒を置くと、霧島がぽつり。

「……黒宮さん、風の音でスイカの位置わかってましたよね」

「さすがにそれは言い過ぎです」

「否定しないんだ……」

割れたスイカから、真っ赤な果肉が覗いている。
とても美味しそうに、みずみずしく、完璧に真っ二つ。

「黒宮さん……あなた、いったい何者……?」

「スイカ割りが得意なだけです」

「怖いわ!!!」

盛り上がる声のなか、
私は割ったスイカの端をひと切れ、手に取った。


そしてまた、周囲が再び騒ぎ始める。

「黒宮さんの記録に挑戦だー!」

「望月、割れてないのに食うな!」

「誰か霧島さんにも棒持たせてみて!!」

日が傾き、潮風が心地よい浜辺で、
騒がしくも笑いの絶えない時間は、まだしばらく続いた――。
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