塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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夏休み⑨

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「――じゃあ、ビーチバレーやるか」

 宮原の一言で、午前中の海遊びは新たなステージに突入した。

 簡易ネットを張り、適当な木の棒でラインを描く。誰が持ってきたのか、やたら本格的なビーチバレー用のボールまであって、思わず誰かの実家が体育館なのかと疑いたくなるレベル。

「こっちはAチーム、朝倉、成瀬、宮原、黒宮で!」

「じゃあ、こっちはBチーム、天城、佐伯、木村、望月だな!」

「え、ちょっと待って、うち明らかにバランスおかしくない!? 黒宮さん運動できるし、朝倉めっちゃ脚速いし!」

「うるせぇ、バランスとか言い出したらじゃんけんになんないだろ!」

 さっきまで海でわちゃわちゃしていたメンバーたちは、今や戦闘態勢で砂浜に立っていた。

「ルールはシンプルに、サーブは交互、11点先取な!」

「おっけー、負けたチームは夕食の片付け担当で~」

「えぇー!? それ地味に一番つらいやつじゃん!」

 空は快晴。照りつける日差しに負けじと、熱気が高まっていく。

「いっくよー!」

 最初のサーブは朝倉。ぴょんと軽く跳ねて、鋭くボールを叩いた。

 ――ぱしっ!

「ナイスサーブ!」

「いけ成瀬、アタックだ!」

「っしゃあ!」

 成瀬のスパイクが決まり、先制点。私がさりげなく後ろでフォローしていたのを、望月だけが見ていた。

「……黒宮さん、なんでそんなとこにいるの?」

「経験です」

「怖っ!?」

 そこからは、意外にも接戦。

 天城の冷静なパス、佐伯の意外なボール捌き、望月の天然ボケかと思いきやのジャンプ力――そして木村の「思い切りがいいけど方向がズレる」スパイクが乱戦に拍車をかける。

「うおおおおお!」

「ナイス! っていうか天城、そのボール取るの反則ギリじゃない!?」

「心の距離はセーフだ」

「審判どこだよ!!」

 一方、こちらはというと、成瀬と朝倉が妙に連携のいいプレイを連発し、宮原が拾いに徹し、私は……

「黒宮さんって……一人だけなんか、動きの『キレ』が違う……」

「これ絶対、体育教師の隠し子だよ」

「いやバレー部出身とかじゃね?」

「そもそもなんでこの人、泳げて、走れて、球技もできるの?怖くない?」

 そんな囁きが、天城チーム側からじわじわ広がっていく。

「マッチポイント! 次入ったらAチームの勝ち!」

 佐伯が吠えた。

「くっ、こうなったら最終奥義だわ……!」

 彼女は決意の表情で、スッと前へ出る。

「奥義、佐伯アンダー! うりゃ!」

 ボールが絶妙なカーブを描いて、私の前へ落ちる。

「――いただきます」

ギリギリでダイブ。ボールはふわっと成瀬の前に上がった。

「ナイストス!」

 成瀬、スマッシュ。

 ――試合、終了。

「はぁぁああああ!! なんでえええ!」

 佐伯が砂に膝をつく。木村もその横でぺたんと座り込む。

「うぅ……夕飯の片付け……いやだ……」

「うーわ、汗ヤバ、砂まみれ、やばい、でも楽しい」

「はい! それではただいまより、負けたチームが勝者にドリンクをおごるタイムに入りま~す!」

「勝手に決めんな天城~~~!」

 笑いが絶えない中、私は静かにタオルで顔を拭っていた。



「ふっ、何おごってもらおうかな」



「嘘、黒宮さんも乗ってる!?」




「俺コーラ!」


「じゃあいちごミルク」



「可愛いの出すなよ!」



夏はまだ終わらない。
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