塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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夏休み⑩

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少し疲れたところで、メンバーたちは海から戻り、ホテルのラウンジの一角に集まっていた。

海水で濡れた髪を乾かし、アイスティーやジュースを片手にひと息つく空間。
そこには、小さなテーブルと、妙に主張の強い木製ブロックの山。

「ジェンガ……?」

朝倉が訝しげに首を傾げると、成瀬が胸を張った。

「俺が持ってきた!旅にはゲームが必要だからな!」

「……お前、なんでこんなかさばるものを」

「重かった。けど使命感が勝った」

「謎の使命感……」

みんなが呆れつつも笑うなか、いつの間にかテーブルに椅子が並び、自然とジェンガ大会の空気に。

「誰からいくー?」

「最初はじゃんけんじゃない?」

「勝った人からか、負けた人からかでも揉めそうだよね。公平に、あみだくじで決めよっか!」

「えっ、そこまで平等にするの!?」

「ルーセントの名にかけて!」

さすがアイドルグループ、変なところに真剣である。

あれやこれやと騒ぎながら、最終的には――

「よし、黒宮さんが最初ね」

「……えっ」

なぜかこういうとき、流れ弾を受けるのは私だった。

「がんばれ~!」

「トップバッターとか一番むずいでしょ!しかもこのジェンガ、地味にグラグラしてるし!」

「すでに一回落としかけてるからねこれ、俺がさっきテーブル揺らしちゃって」

「お前かよ」

そんなやりとりを背中に受けながら、ゆっくりと手を伸ばす。
サングラスを外した視線は真剣そのもの。
スッ──とブロックのすき間に指を差し込み、数ミリずつ、確実に引き出していく。

「……はっ、うま!」

「動かし方がプロっぽい!」

「なんでそんなスッていけるの……」

カチ、と静かな音を立てて、ブロックを成功させた。

「さすがだ……!」

「さすが黒宮チート……!」

「チート言うな」

しかしその後、思わぬ伏兵が登場する。

「えいっ、私これ~」

佐伯が適当に選んだブロックが、なぜかまったく引っかからず、スルッと抜けた。

「えっ、なんで!?」

「物理法則を無視してるぞ今の!」

「天性の感覚派……」

そのあともゲームは続く。

天城は妙に慎重に構えすぎて10分かけて1ブロックを抜き、朝倉はブロックより先にグラスを倒し、望月は「緊張すると手が震えるぅ……」と言いつつ意外と冷静に成功させた。

「成瀬くん、そろそろやばいよねこれ」

「やばいな……え、これどうやって抜くの!?」

「ここ引いたらもう倒れるでしょ!?物理的に!」

「でももうそこしか残ってないって!」

「俺のターン終わったらどうなるか分かんないけど、行くしかねえ!」

成瀬がブロックに手をかける。

「うおおおおおおお!」

ガタッ。

「倒したぁああああ!」

「あーあ、やったなー」

「全員注目のなかで爆散」

「逆に気持ちいいわ!!」

笑いと歓声のなか、ジェンガ第一回戦は幕を閉じた。

──が、すでに誰かが第二戦の準備を始めている。

「次は、手を片方だけ使うルールでやらない?」

「左手限定とか?」

「超難易度高くない!?」

「やるやる!」

「私、ストローで引いてみたいな。口だけで!」

「それはさすがに反則!」

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