塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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夏休み⑫

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「……あんたたちさ」
怪談大会の後、佐伯がじとっとした目で私と霧島を見る。
「人がせっかく怖がってるのに、なんで笑うの? 空気ぶち壊しじゃん」


「だって怖くなかったんだもん」

私が正直に言うと、霧島も真顔で言う。

「まあ、全部作り話っぽかったし」



「……じゃあ、本物の映像見せてやる」
佐伯がニヤリと笑って、ポータブルプロジェクターを取り出した。

「この間ダウンロードした海外のホラー映画。幽霊、ガチで出てくるやつだから」




「お、いいね」
望月や成瀬も興味を示し、ラウンジの照明が落とされる。

ソファや床に座布団を並べ、スクリーンに映し出されるのは、夜の古い屋敷。

ピアノの不気味な音が流れ始めると、空気がじわっと重くなる。


最初はただの廃墟探索。

埃をかぶった家具、剥がれた壁紙、軋む床板。

私は普通に観察しながら「美術セット凝ってるなぁ」と思っていた。

霧島はポテチをつまみながら「このカメラワーク、酔うな」と冷静。


しかし、場面が進むにつれ、登場人物が何者かに追われている気配が出てきた。

廊下の奥に、人影のようなものがちらっと映る。

望月が「うわっ……!」と声を上げ、佐伯が得意げにこっちを見る。

そして問題のシーン。
主人公が暗いキッチンに入った瞬間──
棚の陰から、顔だけの女がぬっと現れた。

「……っ!?」
私も霧島も、思わず体がびくっと反応してしまう。

横で佐伯が「ほら!」と嬉しそうに叫ぶが──

「……いや、顔だけって……どうやって移動してんの? コロコロ転がってんのかな」
霧島が真顔で言った瞬間、私のツボに入った。

「やめて……! 転がる顔とか想像したら……!」

でも想像しちゃったらもう最後。

二人で声を押し殺して笑い始める。

さらに追い打ち。
次のカットでは、その顔だけの女が急接近してくるのだが、
映像の編集が微妙なのか、微妙にスローモーション気味で迫ってくる。

「……これ、幽霊というより、ランニングマシーンしながら大繩してる感じじゃない?」

私のぼそっとした一言で、霧島はソファに崩れ落ちる勢いで爆笑。

涙まで出てきて、全然画面が見られない。

「ちょっと! 真剣に見なさいよ!」
佐伯が画面越しに私たちを指差してくる。

でも霧島はポテチを食べながら平然と、
「真剣に見た結果、笑ってるだけだ」と返す。

その後も、霧島の妙なコメントが私の笑いのスイッチを押しっぱなしにする。

最終的に、エンディングロールが流れる頃には、怖がっていたのは望月と成瀬だけ。
佐伯は「もう二度とあんたたちとホラーは見ない!」とふくれっ面だ。

霧島はあくびをして立ち上がり、
「まあ、笑えるホラーも悪くないな」
とあっさりした口調。

私は笑い疲れて肩を伸ばしながら、外の波の音に耳を傾けた。
今夜も、怖がるより笑ってしまった──そんな夜だった。

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