塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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 夏休み⑰

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夕暮れが完全に終わり、空は深く藍色に染まっていた。
 昼間あれほど賑やかだった砂浜も、夜になると別の顔を見せる。波打ち際は、月明かりを受けて銀色に輝き、その先には漆黒の水平線が広がっている。風は昼間よりも涼しく、頬を優しく撫でていった。

 タープの下に並べられたテーブルの上には、花火の準備に使う紙袋やバケツ、ライターが並び、その横に小さなプレートがいくつも置かれている。
 そこには、カットした桃やスイカ、巨峰がガラス皿にこんもりと盛られ、淡いランタンの光に透けて宝石のように見えた。
 マシュマロは小さな袋から出され、竹串に刺せるように木のトレイに整列している。


 手に取ったのは、半分に切ったキウイをスプーン付きで冷やしたもの。
 一口すくうと、冷たさと甘酸っぱさが舌に広がり、体の奥にまで涼しさがしみていく。
 

 海から吹く夜風は少し湿っているが、それがかえって心地よい。耳には、絶え間なく寄せては返す波の音と、ときおり聞こえる小さな笑い声だけ。
 昼間の喧噪や熱気は跡形もなく、まるで全員が別世界に来たようだ。

 私はランタンの灯りの近くに置かれた竹串を取り、マシュマロをひとつ刺してみる。ふわりとした感触が指に伝わる。
 すぐに焼くわけではないが、こうして持っているだけでも不思議とわくわくした。

 「黒宮さん、冷凍ぶどうもいけますよ」
 霧島が差し出すのは、霜をまとった小さな紫の粒。ひとつ口に放ると、シャリっとした食感のあとに、濃厚な甘みと香りが広がる。
 「……これ、いくらでも食べられそうです」
 「危険ですね」
 そんな軽い会話を交わしながら、私はまたぶどうに手を伸ばす。

 遠くでは、他のメンバーが海辺の岩場近くで何かを運んでいる。おそらく花火を設置する場所を整えているのだろう。
 その光景を眺めながら、私は目の前のテーブルからパイナップルをひとつ取る。フォークで刺して口に運べば、果汁が弾けて舌の上を滑り、ほんのりと潮風の香りと混ざった。

 夜の海は、昼間よりもずっと神秘的だ。
 水平線の先には、漁船らしき小さな灯りが点々と浮かび、それが波間に揺れる。頭上には星々が瞬き、月は水面に長く光の道を描いている。
 砂浜は足元でさらさらと動き、座っているだけでゆっくりと体が沈んでいくようだ。

 霧島がランタンの明かりを少し弱めた。
 途端に、空と海の境界がより鮮明になり、遠くの光と星の輝きが際立つ。
 「こうしてると、花火いらないんじゃないかって思いますね」
 私がそう言うと、霧島は「でも、打ち上げたらもっと綺麗ですよ」と笑う。
 それはそうだろう、けれど――今のこの静かな時間は、もう少し味わっていたかった。

 マシュマロを揺らしながら、私はふと思い立ち、近くの炭火に軽くかざしてみる。じんわりと表面が色づき始め、香ばしい匂いが漂う。
 口に入れると、外はさっくり、中はとろけるような甘さ。小さな焚き火ひとつでも、海辺の夜は一層甘いものを特別にする。

私はまた果物の皿に手を伸ばす。マンゴーをひと口。濃厚でねっとりとした甘さが、夜の涼しさとよく合った。

 潮風に髪を揺らし、ランタンの光を背にして座っていると、時間の流れがゆっくりになったように感じる。
 食べ物の甘さ、海の音、星の瞬き――全てが、穏やかに溶け合っていた。

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