塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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夏休み⑱

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夜の海に、色とりどりの小さな灯りが咲き始めた。
 火をつけられた線香花火の粒は、星屑のように細かく瞬き、やがて重さに耐えきれず、ぽとりと落ちて消える。

 私は砂浜に敷いたラグの上に腰を下ろしていた。
 今日は昼間のラフな格好とは違い、薄手のリネンシャツに白いズボン、足元はビーチサンダル。肩には海風に揺れる淡いストールをかけている。
 潮の香りを含んだ夜風が、首筋を通って背中へ抜けていくたび、布がふわりと舞った。

 目の前では、朝倉が手持ち花火に火を移している。
 シュウ、と音を立てて火花が散り、その光が彼の横顔を一瞬照らした。
 私は差し出された花火を受け取り、慎重に先端を傾けてみる。
 細い光の糸が次々とこぼれ落ちては、砂に溶けていった。

 「……綺麗」
 自然と出た言葉は、花火に向けたものか、それともこの夜そのものに向けたものか、自分でもわからなかった。

 遠くの波打ち際では、霧島が花火のセットを確認している。
 時折、低い声で「もう少し奥に」と指示する声が風に乗って届いた。

 私は花火を見つめながら、足元の砂に小さな模様を描いた。線香花火の光は指先よりも小さいのに、その輝きは不思議と目を離せなくなる。まるで、落ちてしまえば二度と同じ形では見られない儚さが、魅力のすべてであるかのようだ。

 「黒宮さん、次はこれどうです?」
 天城が差し出したのは、色とりどりのスパークラー。火をつけると、激しい音を立てて白や青の光が四方に散った。
 私は思わず目を細めながら、それでも口元には笑みが浮かぶ。
 「派手ですね……でも、悪くないです」
 パチパチと弾ける火花が夜空に吸い込まれていく。

 やがて、霧島の「上がるぞー」という声が響いた。
 海の方へ視線を向けた瞬間、夜空の一点が光を帯び、花が咲くように広がった。赤、青、金――その色は水面にも映り、波間で揺らめく。
 打ち上げの音が胸の奥に響き、余韻が潮風と混じる。

 私は立ち上がり、波打ち際へ歩いた。
 足首に冷たい空気が触れる。
 その瞬間、二発目の花火が空を染めた。
 金の尾を引きながら広がる光の粒。その下で、海は鏡のようにその輝きを映し、私の足元まで連れてきた。

 「……本当に、儚い」
 呟いた声は波にさらわれた。
 けれど胸の奥には、消えゆく光と同じくらい確かな、あたたかさが残っていた。
 線香花火の終わりも、打ち上げ花火の消える瞬間も、すべてがこの夜だけのものだ。

 背後で成瀬たちが笑い合いながら次の花火を準備している。
 私は再びラグの上に戻り、手元の線香花火に火をつけた。
 小さな光を見つめながら、潮の匂いと遠くの花火の音を、できるだけ長く胸にしまい込もうとした。

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