塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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第70話 ライブ決定③

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 数日後。
 場所は事務所の会議室。机の上には衣装デザイン案が並び、色とりどりのスケッチや布見本が所狭しと並んでいる。

 今日のテーマは「アリーナ公演用の新衣装」。
 テーマカラーやデザインコンセプトを固め、次の打ち合わせで具体的な発注に進めなければならない。

 進行役は、またしても私。
 資料を片手に立ち上がり、笑顔をつくった。

「それでは──本日は衣装についての打ち合わせを始めます。 まずはデザイナーさんから、提案をお願いします」

 衣装デザイナーが、ホワイトボードにスケッチを貼り出す。

「今回のテーマは“未来感と華やかさ”。シルバーやホワイトを基調に、メンバーカラーを差し色で入れる方向で考えています」

 おおむね好意的な空気。
 メンバーも「可愛い!」「動きやすそう!」と声を上げる。

 ──が、当然ここで。

「はーい! はーい!」

 やっぱり。
 佐伯が勢いよく手を挙げた。

「なんかさぁ、それじゃ普通じゃない? アリーナ単独だよ? もっとド派手にさ! 例えば──メンバー全員“全身発光”とかどう?」

 会議室が一瞬にして静寂に包まれる。

「……え?」

「発光って……」

 スタッフが困惑して顔を見合わせる。

「いや、想像してみてください! ライトが当たったらギラッギラに反射! 客席まで眩しくって最高じゃん!」

 佐伯は腕を組んで得意げ。

 ──やっぱり来ましたね。そういう路線。

「佐伯さん♡ すっごいキラキラで楽しそうですねぇ♡」

 私は笑顔を崩さず受け止める。

「でもぉ♡ 全身反射素材にすると♡ 照明が逆に乱反射して、客席から顔が見えなくなっちゃうんですよぉ♡それに、ファンの皆さんも目が痛くなりますよぉ♡」

「え、そうなの?」

「はい♡ せっかくのパフォーマンスが見えづらくなるのはもったいないですからぁ♡ “部分的にミラー加工”を入れる方が、効果的にキラキラさせられますよぉ♡」

「……部分的?」

「たとえば♡ 袖口やスカートの裾にだけ反射素材を仕込むと♡ ダンスの動きに合わせて光が走って、すっごく映えるんですぅ♡」

「……へぇ」

 佐伯は少し押し黙った。
 その横で、衣装デザイナーが「それいいですね」と頷いてくれる。



「では、次の案を」

 デザイナーがもう一枚のスケッチを広げる。

「ダンス用に軽量化を意識し、伸縮性のある生地を……」

 説明が続く中。

「えー!」

 またも佐伯が割り込んだ。

「軽いのもいいけどさ! せっかくアリーナなんだから“重厚感”出したくない? だから──メンバー全員、鎧! 全身フルプレートアーマーで出てくるの!」

「えっ」

「……」

 スタッフが絶句する。
 横でメンバーたちが「えぇ……」と引きつった笑みを浮かべている。


 私もさすがに引いた。

「絶対インパクトあるって! ゴツゴツして! ドンッて出てきた瞬間、会場大歓声!」

 ──この人は一体、何と戦わせる気なのだろうか。

 私はにっこりと笑みを浮かべ、即座に切り返す。

「佐伯さん♡ すっごく勇ましいですねぇ♡ でもぉ♡ 鎧って重さが数十キロあるんですよぉ♡」

「え、マジで?」

「はい♡ ダンスどころか歩くのも大変ですぅ♡ その上、汗がこもって熱中症まっしぐらなんですぅ♡」

「……」

「だからぁ♡、軽くて伸縮性のあるほうが動きやすいんですよぉ♡」

「……そ、そういうもん?」

「はい♡」

 またも即座に現実的な提案に修正。
 スタッフからは安堵のため息が漏れた。



 議題が進む。

「差し色はどうしましょう?」

「動きやすさを考えると、ズボン丈は……」

 デザイナーとスタッフが現実的に話を進めていると。

「あのー!」

 三度目の佐伯。

「差し色とかじゃなくてさ! いっそ全身ネオンカラー! しかも、電飾仕込んで“ピカピカ光る衣装”にすればいいんじゃない!?」

 会議室が再び凍る。

「……電飾?」

「……バッテリーどうするんだ」

 スタッフがざわめく。

「だってさぁ! 暗転したらパーッて光るんだよ!? めっちゃテンション上がんない?」

 ──はいはい、また来ましたね。

「佐伯さん♡ それもすっごく夢がありますねぇ♡」

 私は満面の笑顔で切り返す。

「でもぉ♡ 衣装に電飾を仕込むと♡ バッテリーでかなり重くなっちゃうんですよぉ♡ ダンス中に断線して“煙”とか出たら大事故ですしぃ♡」

「うっ……」

「でも♡ “蛍光素材”や“UVライト対応の塗料”なら♡ 照明を当てた瞬間に光って見えるんですよぉ♡」

「……マジで?」

「はい♡ 軽いし安全ですし♡ コストも抑えられますぅ♡」

「……なるほど」

 ようやく佐伯も口をつぐむ。
 スタッフが「それならいける」と頷き、会議は再び正常に進行し始めた。



 最終的に決まったのは──

・ベースはシルバーとホワイト
・袖や裾に部分的に反射素材を使用
・差し色はメンバーカラーごとに配置
・軽量かつ動きやすい伸縮生地
・蛍光素材をポイントに入れ、照明で光る演出

 バランスの取れた、かつ実現可能なライン。
 デザイナーも「これなら最高のステージ衣装になる」と満足げだ。

「では、本日の会議はここまでにします。各自、次の工程をお願いします」

 私は締めの言葉を述べ、会議を終わらせた。



 人が引けたあと。
 佐伯はまだ不満そうにスケッチをめくりながら、ぼそっと言った。

「……なんかさ、黒宮さん私のアイデアばっか反論してない?おかしいと思うんだけど」


 現実を考えず思い付きで発言するからでしょう……と思う。

 私は振り返り、満面のぶりっ子スマイルで答える。

「そんなことないですよぉ♡ 佐伯さんの発想が♡ 会議のアクセントになってるんですぅ♡」

「……アクセント?」

「はい♡ でも♡ 実際に形になるのは♡ “現実的で安全なプラン”だけなんですぅ♡」

「……」

私は会議室を後にした。
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