69 / 76
第70話 ライブ決定③
しおりを挟む
数日後。
場所は事務所の会議室。机の上には衣装デザイン案が並び、色とりどりのスケッチや布見本が所狭しと並んでいる。
今日のテーマは「アリーナ公演用の新衣装」。
テーマカラーやデザインコンセプトを固め、次の打ち合わせで具体的な発注に進めなければならない。
進行役は、またしても私。
資料を片手に立ち上がり、笑顔をつくった。
「それでは──本日は衣装についての打ち合わせを始めます。 まずはデザイナーさんから、提案をお願いします」
衣装デザイナーが、ホワイトボードにスケッチを貼り出す。
「今回のテーマは“未来感と華やかさ”。シルバーやホワイトを基調に、メンバーカラーを差し色で入れる方向で考えています」
おおむね好意的な空気。
メンバーも「可愛い!」「動きやすそう!」と声を上げる。
──が、当然ここで。
「はーい! はーい!」
やっぱり。
佐伯が勢いよく手を挙げた。
「なんかさぁ、それじゃ普通じゃない? アリーナ単独だよ? もっとド派手にさ! 例えば──メンバー全員“全身発光”とかどう?」
会議室が一瞬にして静寂に包まれる。
「……え?」
「発光って……」
スタッフが困惑して顔を見合わせる。
「いや、想像してみてください! ライトが当たったらギラッギラに反射! 客席まで眩しくって最高じゃん!」
佐伯は腕を組んで得意げ。
──やっぱり来ましたね。そういう路線。
「佐伯さん♡ すっごいキラキラで楽しそうですねぇ♡」
私は笑顔を崩さず受け止める。
「でもぉ♡ 全身反射素材にすると♡ 照明が逆に乱反射して、客席から顔が見えなくなっちゃうんですよぉ♡それに、ファンの皆さんも目が痛くなりますよぉ♡」
「え、そうなの?」
「はい♡ せっかくのパフォーマンスが見えづらくなるのはもったいないですからぁ♡ “部分的にミラー加工”を入れる方が、効果的にキラキラさせられますよぉ♡」
「……部分的?」
「たとえば♡ 袖口やスカートの裾にだけ反射素材を仕込むと♡ ダンスの動きに合わせて光が走って、すっごく映えるんですぅ♡」
「……へぇ」
佐伯は少し押し黙った。
その横で、衣装デザイナーが「それいいですね」と頷いてくれる。
□
「では、次の案を」
デザイナーがもう一枚のスケッチを広げる。
「ダンス用に軽量化を意識し、伸縮性のある生地を……」
説明が続く中。
「えー!」
またも佐伯が割り込んだ。
「軽いのもいいけどさ! せっかくアリーナなんだから“重厚感”出したくない? だから──メンバー全員、鎧! 全身フルプレートアーマーで出てくるの!」
「えっ」
「……」
スタッフが絶句する。
横でメンバーたちが「えぇ……」と引きつった笑みを浮かべている。
私もさすがに引いた。
「絶対インパクトあるって! ゴツゴツして! ドンッて出てきた瞬間、会場大歓声!」
──この人は一体、何と戦わせる気なのだろうか。
私はにっこりと笑みを浮かべ、即座に切り返す。
「佐伯さん♡ すっごく勇ましいですねぇ♡ でもぉ♡ 鎧って重さが数十キロあるんですよぉ♡」
「え、マジで?」
「はい♡ ダンスどころか歩くのも大変ですぅ♡ その上、汗がこもって熱中症まっしぐらなんですぅ♡」
「……」
「だからぁ♡、軽くて伸縮性のあるほうが動きやすいんですよぉ♡」
「……そ、そういうもん?」
「はい♡」
またも即座に現実的な提案に修正。
スタッフからは安堵のため息が漏れた。
□
議題が進む。
「差し色はどうしましょう?」
「動きやすさを考えると、ズボン丈は……」
デザイナーとスタッフが現実的に話を進めていると。
「あのー!」
三度目の佐伯。
「差し色とかじゃなくてさ! いっそ全身ネオンカラー! しかも、電飾仕込んで“ピカピカ光る衣装”にすればいいんじゃない!?」
会議室が再び凍る。
「……電飾?」
「……バッテリーどうするんだ」
スタッフがざわめく。
「だってさぁ! 暗転したらパーッて光るんだよ!? めっちゃテンション上がんない?」
──はいはい、また来ましたね。
「佐伯さん♡ それもすっごく夢がありますねぇ♡」
私は満面の笑顔で切り返す。
「でもぉ♡ 衣装に電飾を仕込むと♡ バッテリーでかなり重くなっちゃうんですよぉ♡ ダンス中に断線して“煙”とか出たら大事故ですしぃ♡」
「うっ……」
「でも♡ “蛍光素材”や“UVライト対応の塗料”なら♡ 照明を当てた瞬間に光って見えるんですよぉ♡」
「……マジで?」
「はい♡ 軽いし安全ですし♡ コストも抑えられますぅ♡」
「……なるほど」
ようやく佐伯も口をつぐむ。
スタッフが「それならいける」と頷き、会議は再び正常に進行し始めた。
□
最終的に決まったのは──
・ベースはシルバーとホワイト
・袖や裾に部分的に反射素材を使用
・差し色はメンバーカラーごとに配置
・軽量かつ動きやすい伸縮生地
・蛍光素材をポイントに入れ、照明で光る演出
バランスの取れた、かつ実現可能なライン。
デザイナーも「これなら最高のステージ衣装になる」と満足げだ。
「では、本日の会議はここまでにします。各自、次の工程をお願いします」
私は締めの言葉を述べ、会議を終わらせた。
□
人が引けたあと。
佐伯はまだ不満そうにスケッチをめくりながら、ぼそっと言った。
「……なんかさ、黒宮さん私のアイデアばっか反論してない?おかしいと思うんだけど」
現実を考えず思い付きで発言するからでしょう……と思う。
私は振り返り、満面のぶりっ子スマイルで答える。
「そんなことないですよぉ♡ 佐伯さんの発想が♡ 会議のアクセントになってるんですぅ♡」
「……アクセント?」
「はい♡ でも♡ 実際に形になるのは♡ “現実的で安全なプラン”だけなんですぅ♡」
「……」
私は会議室を後にした。
場所は事務所の会議室。机の上には衣装デザイン案が並び、色とりどりのスケッチや布見本が所狭しと並んでいる。
今日のテーマは「アリーナ公演用の新衣装」。
テーマカラーやデザインコンセプトを固め、次の打ち合わせで具体的な発注に進めなければならない。
進行役は、またしても私。
資料を片手に立ち上がり、笑顔をつくった。
「それでは──本日は衣装についての打ち合わせを始めます。 まずはデザイナーさんから、提案をお願いします」
衣装デザイナーが、ホワイトボードにスケッチを貼り出す。
「今回のテーマは“未来感と華やかさ”。シルバーやホワイトを基調に、メンバーカラーを差し色で入れる方向で考えています」
おおむね好意的な空気。
メンバーも「可愛い!」「動きやすそう!」と声を上げる。
──が、当然ここで。
「はーい! はーい!」
やっぱり。
佐伯が勢いよく手を挙げた。
「なんかさぁ、それじゃ普通じゃない? アリーナ単独だよ? もっとド派手にさ! 例えば──メンバー全員“全身発光”とかどう?」
会議室が一瞬にして静寂に包まれる。
「……え?」
「発光って……」
スタッフが困惑して顔を見合わせる。
「いや、想像してみてください! ライトが当たったらギラッギラに反射! 客席まで眩しくって最高じゃん!」
佐伯は腕を組んで得意げ。
──やっぱり来ましたね。そういう路線。
「佐伯さん♡ すっごいキラキラで楽しそうですねぇ♡」
私は笑顔を崩さず受け止める。
「でもぉ♡ 全身反射素材にすると♡ 照明が逆に乱反射して、客席から顔が見えなくなっちゃうんですよぉ♡それに、ファンの皆さんも目が痛くなりますよぉ♡」
「え、そうなの?」
「はい♡ せっかくのパフォーマンスが見えづらくなるのはもったいないですからぁ♡ “部分的にミラー加工”を入れる方が、効果的にキラキラさせられますよぉ♡」
「……部分的?」
「たとえば♡ 袖口やスカートの裾にだけ反射素材を仕込むと♡ ダンスの動きに合わせて光が走って、すっごく映えるんですぅ♡」
「……へぇ」
佐伯は少し押し黙った。
その横で、衣装デザイナーが「それいいですね」と頷いてくれる。
□
「では、次の案を」
デザイナーがもう一枚のスケッチを広げる。
「ダンス用に軽量化を意識し、伸縮性のある生地を……」
説明が続く中。
「えー!」
またも佐伯が割り込んだ。
「軽いのもいいけどさ! せっかくアリーナなんだから“重厚感”出したくない? だから──メンバー全員、鎧! 全身フルプレートアーマーで出てくるの!」
「えっ」
「……」
スタッフが絶句する。
横でメンバーたちが「えぇ……」と引きつった笑みを浮かべている。
私もさすがに引いた。
「絶対インパクトあるって! ゴツゴツして! ドンッて出てきた瞬間、会場大歓声!」
──この人は一体、何と戦わせる気なのだろうか。
私はにっこりと笑みを浮かべ、即座に切り返す。
「佐伯さん♡ すっごく勇ましいですねぇ♡ でもぉ♡ 鎧って重さが数十キロあるんですよぉ♡」
「え、マジで?」
「はい♡ ダンスどころか歩くのも大変ですぅ♡ その上、汗がこもって熱中症まっしぐらなんですぅ♡」
「……」
「だからぁ♡、軽くて伸縮性のあるほうが動きやすいんですよぉ♡」
「……そ、そういうもん?」
「はい♡」
またも即座に現実的な提案に修正。
スタッフからは安堵のため息が漏れた。
□
議題が進む。
「差し色はどうしましょう?」
「動きやすさを考えると、ズボン丈は……」
デザイナーとスタッフが現実的に話を進めていると。
「あのー!」
三度目の佐伯。
「差し色とかじゃなくてさ! いっそ全身ネオンカラー! しかも、電飾仕込んで“ピカピカ光る衣装”にすればいいんじゃない!?」
会議室が再び凍る。
「……電飾?」
「……バッテリーどうするんだ」
スタッフがざわめく。
「だってさぁ! 暗転したらパーッて光るんだよ!? めっちゃテンション上がんない?」
──はいはい、また来ましたね。
「佐伯さん♡ それもすっごく夢がありますねぇ♡」
私は満面の笑顔で切り返す。
「でもぉ♡ 衣装に電飾を仕込むと♡ バッテリーでかなり重くなっちゃうんですよぉ♡ ダンス中に断線して“煙”とか出たら大事故ですしぃ♡」
「うっ……」
「でも♡ “蛍光素材”や“UVライト対応の塗料”なら♡ 照明を当てた瞬間に光って見えるんですよぉ♡」
「……マジで?」
「はい♡ 軽いし安全ですし♡ コストも抑えられますぅ♡」
「……なるほど」
ようやく佐伯も口をつぐむ。
スタッフが「それならいける」と頷き、会議は再び正常に進行し始めた。
□
最終的に決まったのは──
・ベースはシルバーとホワイト
・袖や裾に部分的に反射素材を使用
・差し色はメンバーカラーごとに配置
・軽量かつ動きやすい伸縮生地
・蛍光素材をポイントに入れ、照明で光る演出
バランスの取れた、かつ実現可能なライン。
デザイナーも「これなら最高のステージ衣装になる」と満足げだ。
「では、本日の会議はここまでにします。各自、次の工程をお願いします」
私は締めの言葉を述べ、会議を終わらせた。
□
人が引けたあと。
佐伯はまだ不満そうにスケッチをめくりながら、ぼそっと言った。
「……なんかさ、黒宮さん私のアイデアばっか反論してない?おかしいと思うんだけど」
現実を考えず思い付きで発言するからでしょう……と思う。
私は振り返り、満面のぶりっ子スマイルで答える。
「そんなことないですよぉ♡ 佐伯さんの発想が♡ 会議のアクセントになってるんですぅ♡」
「……アクセント?」
「はい♡ でも♡ 実際に形になるのは♡ “現実的で安全なプラン”だけなんですぅ♡」
「……」
私は会議室を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる