塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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ロケでのトラブル

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地方ロケにて。
アイドルグループLUCENTの5人は、某県の山奥で朝から撮影中だった。
テーマは「アイドル、田舎でサバイバル生活!」
炎天下、虫、泥――すべてが敵の環境である。

私はいつも通りマネージャー業務に徹し、影のサポートに集中していた。
が、そこに割り込んでくる存在が一名。


「は~~!虫無理!田舎とかマジ無理なんだけど~!都会っ子の気持ち考えて!って感じ~!」楽屋テントの外で叫ぶ声。うるさい。私だって無理だ。山の神に謝れ。


「黒宮さーん、虫除けスプレーないんですか?準備甘くないですか?」


「え~♡ 佐伯さんって虫に好かれる体質なんですかぁ?♡ 私、自分のもの他人に貸さないタイプなのでぇ♡」

「そういう返し、今どき流行らないっすよ?」


佐伯詩織(新人マネージャー候補/自称サバサバ)。
立ってるだけで疲れるタイプ。

しかもスタッフの前で、

「ぶっちゃけ黒宮さんって、何のために来てるんですか?現場で動いてるの、私じゃないです?」

と言いやがった。

「え~♡ 佐伯さんが走ってくださって助かってまぁす♡ 私、現場で目立つのが苦手なんですぅ♡」

「 そういうのって“やってますアピール”に見えるから損ですよ?」

理不尽。しかも絶妙にムカつく。

そのときだった。

撮影中のメンバーに提供される“差し入れ弁当”が、スタッフの手違いでまさかの一食分足りない事態に。
しかも最年少・天城蓮の分。
空気がピリつく。

「……あれ?オレの……ない?」

メンバーが気まずそうに沈黙する中、なぜか佐伯がドヤ顔で前に出る。

「ちょっと、それってマネージャーの仕事じゃないんですか?なんで気づかないんですか?」
例によって佐伯の“責任なすりつけ発言”が飛ぶ。

周囲の視線が一気にこっちに集まる。
ここでヘタな言い訳をすれば、雰囲気は一気に崩壊だ。

私は、静かにスッと紙袋を差し出した。

「あぁ、 それ、気づいてぇ♡ 予備でひとつ余分に買っておいたんですぅ♡
朝から佐伯さんがバタバタしてらしたのでぇ♡ 念のため~って♡」

「えっ……」

「天城さん、どうぞ♡ ご飯冷めないうちに食べてくださぁい♡」

「え、あ……あざす」


蓮はやや困惑しながらも照れたように受け取り、他のメンバーも少しざわめいた。

「……いやマネ、神か」
「ってか、なんでそんな読めんの」
「黒宮さん、ガチできる人だった……」

ボソボソと聞こえる評価の変化。
佐伯はというと、手に持っていた麦茶のペットボトルをプシュと開けて、

「え~? でも私なら、その場でコンビニ行きますけどね~?」
と、なぜか得意げ。

「きゃ~♡ さすがですぅ♡ でも片道40分なのでぇ♡ 戻って来るの夜になっちゃいまぁす♡ロケ終わってますよぉ?天城さんが倒れちゃったら困りますぅ♡」


「てか、黒宮さんってムダに有能アピールしてません? そういうの周りの士気下げますよ?」

「 佐伯さんって謙虚で素敵ぃ♡ 私なんて~♡、有能じゃないのにやるしかなくてぇ♡ ほんと辛いですぅ♡」

黙る佐伯。私の勝ちである。

撮影の合間、成瀬がボソリ。

「黒宮さんってあれだよな……セリフ全部ふわふわしてんのに、内容は全部実弾だよな」

霧島奏が真顔で頷く。

「ただの暗殺者だよ、あれ。語尾に♡つけてるだけ」

後ろで聞いていた朝倉が吹き出した。

佐伯はまだ何か言おうとしていたが、スタッフに「こっち手伝って」と呼ばれ、渋々去っていった。

私はというと、黙々とスケジュールを再確認していた。

……仕事だから。
ただ、それだけ。

でもその日から、メンバーたちがちょっとだけ、私に話しかける頻度が増えた気がした。

私はそのたびに、いつも通りの声で返す。

「何ですか?今忙しいので急用ではないのなら後にしてください。あ、間違えましたぁ♡私でよければ伺いますゥ♡」


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