塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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生放送

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都内某所、巨大テレビ局のスタジオビル。

LUCENTが出演する情報バラエティ番組の生放送本番まで、あと30分。
控室ではメンバー5人がスタイリストと談笑しながら準備を進め、私は黙々と進行表とタイムスケジュールを確認していた。

そして今日も、彼女はいた。

「黒宮さーん、マネージャーなら、もうちょいなんか喋った方がよくないですか? 存在感ゼロって、むしろ逆に目立ってますよ?」


今日も朝から絶好調だった。

「ふふ♡ ごめんなさぁい♡ 私、目立つの苦手なんですぅ♡」

「いや、苦手っていうか、むしろ空気っていうか……いや、悪口じゃないですからね?」

そうやって一応フォローのつもりでナイフを刺してくるのが佐伯の芸風らしい。

「でも~、ぶっちゃけ言うと、メンバーにあんまり信頼されてない感? ありますよね~」

うざ。

「確かにぃ♡佐伯さんみたいに積極的に話しかけてくださる方が、信頼されやすいですもんねぇ♡」

「ですよね~? あ、でも。信頼って、ちゃんと“寄り添う”ことから始まると思うんですよ。そういう努力、大事ですよね。」

あくまで柔らかい口調でマウントを取ってくる佐伯。さすがに毒の回転が速い。

そんなとき、進行スタッフが慌ただしく部屋に入ってきた。

「すみません!メイン台本、撮影チームのミスで一部抜けてたことが判明して……急ぎ再印刷してますけど、あと10分はかかりそうで……」

ざわつく控室。

「え、10分前に台本なし? え、現場崩壊じゃないですか?」と佐伯が即座に被害者ヅラで騒ぐ。

私はすっと立ち上がり、手元の自作進行ノートを開く。
そこには、テレビ局が配った台本とは別に、細かくタイムラインと演出意図、カンペ用セリフまで書かれたページが並んでいる。

「こちらで代用できますぅ♡ 放送禁止用語とスポンサー読みミスだけ、皆さん気をつけてくださぁい♡」

スタッフの目が一斉に私の手元に集まる。

「……これ、局の台本より詳しい……」

「こんなの作ってたんですか?」

「念のためでぇす♡ 佐伯さんが賑やかにされてたので♡ 私は黙ってカリカリしてただけですぅ♡」

「え、なんか刺された気がする」

佐伯が苦笑するが、空気は完全に私へと傾いていた。

その後、収録は無事終了。LUCENTは番組で好感度を爆上げし、視聴者からの反応も上々。

控室に戻ってきたメンバーはそれぞれスマホでSNSを確認していた。

「マネの進行表、神だったな……」と成瀬。

「てか、本番中一瞬も動揺してなかったの怖い」と霧島。

「マネージャーさん、ああ見えてラスボス説あるよね」と天城がぼそっと言ったのを、私は聞こえないふりをして荷物をまとめる。

その横で、佐伯が不満げに「……私だって、がんばってるのに……」と小さくつぶやいた。

私はにこりと笑って言う。

「 頑張ってる人って、だいたい自分で『がんばってる』って言わないんですぅ♡」

「……え、なにそれホラー」

今日も私の勝ちである。
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