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乾杯は戦いの始まり③
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「てかさ~、あたし、ぜんっぜん酔ってないから。」
誰も聞いてないのに、佐伯詩織がそう叫んだのは、乾杯からちょうど45分が経った頃だった。
すでにビールを2杯、レモンサワーを1杯開けた佐伯は、頬がほんのり赤い。しかしテンションは急上昇しており、口調はすでに「友達の友達の合コンで浮いてる人」状態だった。
「ほら、マネージャーさんとかって、飲みの場だと“空気”読まなきゃ~みたいなのあるじゃないですか? でもあたし、そーゆーの苦手っていうか~、媚びないんで!」
「……空気は“読む”もので、“破る”とは言ってませんけど」
朝倉が、静かにグラスを傾けながらつぶやく。
その横で私は、笑顔を崩さずに佐伯を見ていた。
「え~♡ 佐伯さん、酔ってないのにあんなに素が出るなんて、すごいですねぇ♡」
「いや~、あたし、裏表ないタイプなんで! ね! 黒宮さんも、そろそろ“裏”見せてもよくないですか~?」
佐伯は体を乗り出して、黒宮の肩に手を置こうとするが――その瞬間、さっとナプキンを持ち上げ、すっと“偶然”のようにガードする。
「わぁ~♡ こぼしちゃいそうでしたぁ♡」
「……っ。なにその防御」
私はにっこりと微笑んだまま、すぐに姿勢を戻した。
そのとき、天城が隣で小さくつぶやいた。
「……ボディタッチ避けるのが、暗殺者みたいにスムーズなんだけど……」
霧島が即座に返す。
「逆に怖ぇんだよ、あの無駄のなさが」
□
「てか、ぶっちゃけていいですか~?」
佐伯は勢いよくしゃべり続ける。誰も止められない。いや、もはや止めようという気力が失せている。
「黒宮さんって、なんかこう……“できる風”って感じしますけど、意外とそうでもないんじゃないかな~って♡」
その瞬間、空気が凍った。
佐伯はまったく気づかない。
「だって、今日の飲み会だって、なんか黒宮さんだけ“仕事感”抜けてないっていうか~。“私は仕切ってます”みたいな雰囲気、ちょっと…ウケるよね。」
そのときだった。
私が、音もなく立ち上がり、氷水をついでから、戻る動作の中でごく自然に言った。
「……佐伯さん♡」
「は、はい?」
「“できる風”っておっしゃいましたけど、“風”ってことは、風速がありますよね♡
私、佐伯さんの“仕事風速”にはまだ一度も巻き込まれたことがないんですけど♡」
一瞬、時が止まった。
天城が口にしていた枝豆を落としかけ、霧島が炭酸水を吹きかけたようにむせた。
霧島は「ちょ……今のナチュラルすぎて怖い」
成瀬は「風速って言葉、あんなにえぐく使われたの初めて見た」
佐伯はぽかんと口を開けたまま、「え、え? 今の、どーいう意味……?」とだけ言った。
「え~♡ あまりお気になさらずぅ♡ “理解できない皮肉”は、傷つきにくくて安心ですからぁ♡」
「なにその言い回しぃぃぃ!」
佐伯が酔いに任せて、言葉にならない悲鳴を上げる横で、朝倉がさらっと一言。
「これはもう……防御力ゼロの人が、フル装備のスナイパーに突撃したみたいなもんだね」
メンバーたちが静かにグラスを合わせたのは、その直後だった。
誰も聞いてないのに、佐伯詩織がそう叫んだのは、乾杯からちょうど45分が経った頃だった。
すでにビールを2杯、レモンサワーを1杯開けた佐伯は、頬がほんのり赤い。しかしテンションは急上昇しており、口調はすでに「友達の友達の合コンで浮いてる人」状態だった。
「ほら、マネージャーさんとかって、飲みの場だと“空気”読まなきゃ~みたいなのあるじゃないですか? でもあたし、そーゆーの苦手っていうか~、媚びないんで!」
「……空気は“読む”もので、“破る”とは言ってませんけど」
朝倉が、静かにグラスを傾けながらつぶやく。
その横で私は、笑顔を崩さずに佐伯を見ていた。
「え~♡ 佐伯さん、酔ってないのにあんなに素が出るなんて、すごいですねぇ♡」
「いや~、あたし、裏表ないタイプなんで! ね! 黒宮さんも、そろそろ“裏”見せてもよくないですか~?」
佐伯は体を乗り出して、黒宮の肩に手を置こうとするが――その瞬間、さっとナプキンを持ち上げ、すっと“偶然”のようにガードする。
「わぁ~♡ こぼしちゃいそうでしたぁ♡」
「……っ。なにその防御」
私はにっこりと微笑んだまま、すぐに姿勢を戻した。
そのとき、天城が隣で小さくつぶやいた。
「……ボディタッチ避けるのが、暗殺者みたいにスムーズなんだけど……」
霧島が即座に返す。
「逆に怖ぇんだよ、あの無駄のなさが」
□
「てか、ぶっちゃけていいですか~?」
佐伯は勢いよくしゃべり続ける。誰も止められない。いや、もはや止めようという気力が失せている。
「黒宮さんって、なんかこう……“できる風”って感じしますけど、意外とそうでもないんじゃないかな~って♡」
その瞬間、空気が凍った。
佐伯はまったく気づかない。
「だって、今日の飲み会だって、なんか黒宮さんだけ“仕事感”抜けてないっていうか~。“私は仕切ってます”みたいな雰囲気、ちょっと…ウケるよね。」
そのときだった。
私が、音もなく立ち上がり、氷水をついでから、戻る動作の中でごく自然に言った。
「……佐伯さん♡」
「は、はい?」
「“できる風”っておっしゃいましたけど、“風”ってことは、風速がありますよね♡
私、佐伯さんの“仕事風速”にはまだ一度も巻き込まれたことがないんですけど♡」
一瞬、時が止まった。
天城が口にしていた枝豆を落としかけ、霧島が炭酸水を吹きかけたようにむせた。
霧島は「ちょ……今のナチュラルすぎて怖い」
成瀬は「風速って言葉、あんなにえぐく使われたの初めて見た」
佐伯はぽかんと口を開けたまま、「え、え? 今の、どーいう意味……?」とだけ言った。
「え~♡ あまりお気になさらずぅ♡ “理解できない皮肉”は、傷つきにくくて安心ですからぁ♡」
「なにその言い回しぃぃぃ!」
佐伯が酔いに任せて、言葉にならない悲鳴を上げる横で、朝倉がさらっと一言。
「これはもう……防御力ゼロの人が、フル装備のスナイパーに突撃したみたいなもんだね」
メンバーたちが静かにグラスを合わせたのは、その直後だった。
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