塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

文字の大きさ
14 / 76

乾杯は戦いの始まり⑤

しおりを挟む
「っていうかさ、私って、正直で素直なタイプなんだよね」

また始まった。

佐伯詩織の唐突な“自己評価タイム”に、テーブルの空気が凍る。
飲み会終盤。場がほどよくゆるみ、そろそろ締めに向かう――はずの時間だった。

「媚びるのとか無理だし、嘘つけないんだよね。そういうのって損するタイプなんだけど、でも自分には正直でいたいっていうか」

霧島がそっとつぶやいた。

「……誰か止めろよ、もうそれ地獄の入口だろ」

「黙ってるのが正解なんだよ、こういうのは」

朝倉紫音は枝豆のサヤを並べながら、無表情で返す。

佐伯は止まらない。

「でも職場って、結局そういう本音言える人が損する場所じゃん? だからなんか、黙ってる人のほうが得してる感じってモヤる」

私は氷をカラリと鳴らしながら、やわらかく微笑んだ。

「詩織さん♡ それ、“本音を言う勇気”っていうより、“配慮できない無遠慮”に聞こえちゃいますよぉ♡」

「は? 違うし。私は空気読めないんじゃなくて、あえて読まない主義だから」

「主義、多すぎませんかぁ?♡ ちなみに今ので3つ目くらいですよぉ♡ “推し作らない主義”と“媚びない主義”と~……」

「自分を持ってるってこと!」

「“持ってる”んじゃなくて、“手放せてない”だけですよぉ♡」

天城がボソッと漏らす。

「黒宮さん、あんな柔らかい声で人のメンタル切ってくのすごいよね……」

望月颯真は静かにうなずく。

「ていうか、佐伯さんって“誰も聞いてないのに自己紹介始める人”に似てるよね」

朝倉がうんざりしたように言う。

「『私は○○な人なんで~』って言う人ほど、他人に“そうは思われてない”の法則だね」

佐伯は少し赤くなりながら、グラスを置いた。

「……なんかさ、今日一日見てて思ったけど、やっぱりこのチーム、雰囲気堅くない?」

沈黙。

「もっと言いたいこと言い合える関係って、良くない? そっちのほうが風通しもいいと思うんだけど」


「えー、それって“私の言いたいことは言わせろ、でも他人の反応は気にしたくない”ってことですかぁ?♡」

「……」

「それって、対話じゃなくて、“一人演説”ですよぉ♡」

天城、肩を震わせて笑いをこらえる。

「言い方やば……」

「でも図星……」

成瀬が手元の水を一口飲んで、静かに言った。

「一番風通し悪くしてるの、自分ってパターンよね。だいたい“風通し”って言い出す人、現場で煙たいんだよな」

佐伯、黙る。

黒宮はテーブルの伝票を手に取りながら、やさしい声で締めに入った。

「今日は楽しかったですぅ♡ 特に詩織さんの“個人主張ショー”、耳が鍛えられましたぁ♡」


「では、明日も早いので、そろそろ解散しましょう。」

一同、無言でうなずいた。

佐伯だけが少し残されたような顔をして、ストローを噛んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...