塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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メンバー③ 空気

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「てか、霧島くんって、なんでそんなに喋らないの? 喋らないキャラってさ、逆に裏ありそうって思われない? 私、そういうタイプ一番ムリなんだよね~」

朝の衣装フィッティング中、佐伯詩織の声が控室に響いた。

霧島は、鏡の前で黙って前髪を整えている。返事をする様子はない。

私は備品チェックの手を止めずに、黙ってそのやりとりを聞いていた。

「喋らないって、損じゃない? ていうか誤解されるでしょ。裏があるとか、怖いとか。私、そういうのモヤッとするんだよね~。だったら喋ってくれた方がマシっていうか」

明らかに“悪気はない”風を装っていたが、その実、言葉の切れ味はわりと鋭い。

霧島はようやく振り向き、ぼそっと呟いた。

「うるさい人が正直とは限らない」

控室に、しんと静けさが戻る。
佐伯が一瞬、固まった。

「……え、今の私に言った?」

霧島は何も答えない。
だが、視線はしっかりと佐伯に向けられていた。

「うわ、逆に怖……。無口な人がいきなり斬ってくるの、一番ダメージでかいじゃん……」

「“言わない人”って、言わないぶん“言う時”の破壊力があるんですよぉ♡」

私は微笑を浮かべたまま、棚に備品を並べていた。

「あと、無口=裏があるって思うの、たいてい“喋りすぎて誤解されてる人”の被害妄想ですぅ♡」

佐伯が若干むくれて、メイク用のパフをむぎゅっと握りしめる。

「いやさ、でも言いたいこと言って何が悪いの? 私、嘘つくくらいならストレートに言う主義だし」


霧島がふっと笑った。

「そもそも、全員が“言いたいことを言える空気”が、正義ってわけじゃないだろ」

「……は?」

「口数で支配しようとするの、うるさいし雑。黙ってるのは、口出す必要がないから」

またもや沈黙。

そこに、成瀬が入ってくる。

「ん? 何かあった?」



その日の収録後。

私と霧島は、スタジオの外で一緒に機材を整理していた。佐伯は先に控室に戻っている。

奏はふと空を見上げて言った。

「黒宮さんも、感情読まれにくいタイプだよな」

「よく言われます。たまに“怖い”とも。」

「……わかる」

そのまま二人して無言になる。が、不思議と気まずくはない。

「霧島さんって、“沈黙してても成立する人”ですから。距離の置き方が上手い」

「他人に期待してないだけだよ」

「分かります」

奏は何も言わず、荷物をひとつ持ち上げた。

私と霧島。感情を多く語らない者同士、言葉数が少ないぶん、会話の精度だけは無駄に高い。



――黙っていても刺さる人と、しゃべっても伝わらない人。

その違いに気づけるかどうかが、大人の境界線なのかもしれない。

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