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会議
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控室のホワイトボードに、無意味に大きな文字でこう書かれていた。
「LUCENT個性活用・マネジメント強化会議(仮)」
命名者はもちろん、上層部。
内容はというと、「LUCENTのメンバー1人ずつを“深堀り”し、マネジメント方針の見直しを検討」という、なんとも抽象的かつ面倒な企画だった。
「え、てかこれ、必要あります?」
佐伯詩織が口を開く。開幕早々、空気がやや淀んだ。
「個性活かすって、普段からやってません? てか私けっこう見てるし、言わなくても伝わるんで~」
はい、出ました。「察してほしいサバサバ系」モードである。
私はスケジュール帳を片手に、淡々と進行表を読み上げた。
「今日は“導入編”ということで、全体確認とメンバーの印象整理だけです。“言わなくても伝わる”のは、だいたい伝わってません」
「……なんかチクリと言いました? 私、結構コミュ力あるほうなんで、言葉にしなくても空気とかで…」
「それ、霧島さんに通用しますか?」
「……無理ですね」
LUCENTの5人はというと、飲み物を手にまったりと座っている。こういう謎会議には慣れっこだ。というか、もう諦めている顔だ。
「じゃあ順番に、“この人にどんなマネジメントが向いてるか”の意見を聞いていきましょうか」
私がそう言うと、佐伯がすかさずメモ帳を取り出して――
「メモします! こういうの得意なんで!」
誰にも頼まれてない。しかも蛍光ペンで、すでに3色使ってる。早い。
「わたし、こういうとき“発言整理”とかできるんですよね~。まあ、みんな苦手かもですけど?」
あまりの謎アピールに、メンバーの望月がぽつり。
「え、佐伯さんって……そういうキャラだったんですか?」
「……ん? キャラとかじゃなくて、普通ですけど?」
素で言っている。
私が進行を戻す。
「ではまず、天城くん。最年少ですが、周囲への気遣いは随一。何か配慮している点は?」
天城蓮は静かに首をかしげて、
「え、配慮……ってほどでも。空気壊すの面倒なんで、波風立てないだけっす」
「ほら~!そういうの言えるの、大人~!」
と佐伯が反応。
天城はそのテンションに少し眉をひそめてから、
「……でも、たまに“波風立ててる人”がそれ言うと、説得力ないっすね」
空気が止まる。
佐伯は「え、誰のこと?」と笑っていたが、誰も答えなかった。
□
会議は進み、マネージャーに言いたいこと、のコーナー。
望月が少し考えて言った。
「マネさんって、表情あんまり変わらないですよね。紫音と話してるときとか、無表情同士で“読み合い”してるの、ちょっと面白いです」
朝倉が頷く。
「黒宮さん、たまに笑うときがある。それを目撃したらその日ラッキー」
「ポケモンの色違いみたいな言い方やめてもらっていいですか?」
私が淡々と返すと、メンバーが笑った。
その空気に、佐伯が少し焦ったように、
「いやいや、でも私もわかりますよ? 黒宮さんって“たまにだけ優しい”ですよね?」
「ん…?」
「なんかごまかしてるけど、素はたぶん冷たいというか……」
言ってから、あれ?という顔をする佐伯。
空気が妙な沈黙に包まれた。
成瀬が、わざとらしく声を張った。
「俺は黒宮さん、めっちゃ助けられてますけどね!」
さすがリーダー、空気の読解が早い。
しかし佐伯は納得いかない顔のまま、
「でも……“助けられてる”っていうより、“操られてる”って感じしません?」
霧島が噴き出した。
「それ、自分が一番操られてる自覚ない奴が言うセリフ」
□
会議が終わったあと、佐伯が控えめに呟いた。
「てか、私が出したアイデア、結局何も採用されてないんですけど?」
私は淡々と返す。
「“空気読める人”って、自分から“読める”って言わないですよねぇ?」
「……なんか今日、ずっと言われてる気がする」
「気のせいじゃないですかぁ♡」
「LUCENT個性活用・マネジメント強化会議(仮)」
命名者はもちろん、上層部。
内容はというと、「LUCENTのメンバー1人ずつを“深堀り”し、マネジメント方針の見直しを検討」という、なんとも抽象的かつ面倒な企画だった。
「え、てかこれ、必要あります?」
佐伯詩織が口を開く。開幕早々、空気がやや淀んだ。
「個性活かすって、普段からやってません? てか私けっこう見てるし、言わなくても伝わるんで~」
はい、出ました。「察してほしいサバサバ系」モードである。
私はスケジュール帳を片手に、淡々と進行表を読み上げた。
「今日は“導入編”ということで、全体確認とメンバーの印象整理だけです。“言わなくても伝わる”のは、だいたい伝わってません」
「……なんかチクリと言いました? 私、結構コミュ力あるほうなんで、言葉にしなくても空気とかで…」
「それ、霧島さんに通用しますか?」
「……無理ですね」
LUCENTの5人はというと、飲み物を手にまったりと座っている。こういう謎会議には慣れっこだ。というか、もう諦めている顔だ。
「じゃあ順番に、“この人にどんなマネジメントが向いてるか”の意見を聞いていきましょうか」
私がそう言うと、佐伯がすかさずメモ帳を取り出して――
「メモします! こういうの得意なんで!」
誰にも頼まれてない。しかも蛍光ペンで、すでに3色使ってる。早い。
「わたし、こういうとき“発言整理”とかできるんですよね~。まあ、みんな苦手かもですけど?」
あまりの謎アピールに、メンバーの望月がぽつり。
「え、佐伯さんって……そういうキャラだったんですか?」
「……ん? キャラとかじゃなくて、普通ですけど?」
素で言っている。
私が進行を戻す。
「ではまず、天城くん。最年少ですが、周囲への気遣いは随一。何か配慮している点は?」
天城蓮は静かに首をかしげて、
「え、配慮……ってほどでも。空気壊すの面倒なんで、波風立てないだけっす」
「ほら~!そういうの言えるの、大人~!」
と佐伯が反応。
天城はそのテンションに少し眉をひそめてから、
「……でも、たまに“波風立ててる人”がそれ言うと、説得力ないっすね」
空気が止まる。
佐伯は「え、誰のこと?」と笑っていたが、誰も答えなかった。
□
会議は進み、マネージャーに言いたいこと、のコーナー。
望月が少し考えて言った。
「マネさんって、表情あんまり変わらないですよね。紫音と話してるときとか、無表情同士で“読み合い”してるの、ちょっと面白いです」
朝倉が頷く。
「黒宮さん、たまに笑うときがある。それを目撃したらその日ラッキー」
「ポケモンの色違いみたいな言い方やめてもらっていいですか?」
私が淡々と返すと、メンバーが笑った。
その空気に、佐伯が少し焦ったように、
「いやいや、でも私もわかりますよ? 黒宮さんって“たまにだけ優しい”ですよね?」
「ん…?」
「なんかごまかしてるけど、素はたぶん冷たいというか……」
言ってから、あれ?という顔をする佐伯。
空気が妙な沈黙に包まれた。
成瀬が、わざとらしく声を張った。
「俺は黒宮さん、めっちゃ助けられてますけどね!」
さすがリーダー、空気の読解が早い。
しかし佐伯は納得いかない顔のまま、
「でも……“助けられてる”っていうより、“操られてる”って感じしません?」
霧島が噴き出した。
「それ、自分が一番操られてる自覚ない奴が言うセリフ」
□
会議が終わったあと、佐伯が控えめに呟いた。
「てか、私が出したアイデア、結局何も採用されてないんですけど?」
私は淡々と返す。
「“空気読める人”って、自分から“読める”って言わないですよねぇ?」
「……なんか今日、ずっと言われてる気がする」
「気のせいじゃないですかぁ♡」
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