塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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本当は怖くない

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控室の椅子に座って、霧島奏はスマホをいじっていた。

その指は止まることなく滑らかで、たまに画面を覗き込む朝倉と話している。



「今日は霧島さん担当ってことで~! こう見えて、クール系男子の扱いも私、けっこう慣れてるんで!」



「無口な人の本心とか、“察する”の得意なんですよね~。だから今日はいろいろ聞き出しちゃいます!」




霧島本人は、その会話をスルーしてスマホを閉じた。無言の“始めよう”の合図。



「じゃ、さっそくいきましょうか」



私はファイルを開いて、霧島の活動履歴と過去のコメントを確認しながら、淡々と進行を始めた。





「霧島さんは、活動中に“マネージャーから受けてよかったフォロー”ってありますか?」



私が聞くと、霧島はほんの少しだけ目線を上げた。



「遠征先でホテルの部屋、静かな側にしてくれたとき。気づいてくれてたんだなって思った」



「はい。“音に敏感”とカルテに書いてありましたから」



「地味に一番嬉しかったです」



「ほら~! 私もそれ、気づいてたんですよね~。前の地方ロケでも、“霧島さんって周りの物音に敏感かも”って!」



「……でも佐伯さん、あのとき深夜まで電話してて、霧島さんの部屋の真上だったじゃん」



成瀬が冷静に刺す。



「あれ? そうだったっけ?」



「霧島、翌朝めっちゃ静かだったもんな。余計に」



朝倉が笑いをかみ殺しながら言う。



佐伯はめげない。というか、むしろ燃えている。



「でも霧島さんって、“気難しそうに見えて本当は優しい”タイプですよね? たまに、グループの誰よりも先に片付けしてるの、私見たことあるし!」



「え、それ“誰かが片付けしないから先にやってる”ってだけでは……?」



望月の冷静な指摘。



「ちょ、冷たいなぁ~!」



私が補足する。



「霧島さんは“意味を語られたくない”タイプです。“行動”で示してるから、変に褒められるとむしろ不快になる」



「……なるほど、深っ!」



霧島は無言だったが、目だけで私に感謝を送ってきた。

たぶん。

気のせいじゃなければ。





会議終了後。

控室で佐伯がメンバーに小声で言っていたのが聞こえた。



「霧島さんってさ、ほんとにクールなのかなぁ? 黒宮さんが作ってるイメージじゃない?」



「いや……“作ってる”のはそっちじゃない?」



成瀬が笑いながら言った。



佐伯は「え、どういう意味!?」と首をかしげていたが、誰も答えなかった。



霧島が私の近くに来て、ひとことだけ呟いた。



「黒宮さん、“無言の圧”ってマネージャーも使えるんすね」



「えぇ~♡ 佐伯さんに鍛えられてますからぁ♡」
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