塩マネージャー vs サバサバ系女子、私が選んだ対抗策は ‘ぶりっ子’ でした

雨宮 叶月

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大型企画の代表責任者は?①

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「次の大型プロジェクト、LUCENT関連で一本いくみたいですよ」



社内の会議室。週末の打ち合わせを終えた帰り、制作部の奥田さんがぽつりと呟いた。



「うちの部署からも、誰か一人“代表責任者”って形で関わるんですって」



「代表責任者って、すごいですね。」



「黒宮さんなら余裕ですよ。まあ、上の人がどう判断するかだけど」



そういう社内の“軽口”に一喜一憂するほど、私は子どもじゃない。



しかし。

そういう話って――なぜか、ちゃんと耳に入る人には入る。たとえば――



「やっぱ、来たよね~そういう話!」



白いノースリーブにジャケットを肩掛けした佐伯が、ドアを開けて入ってきた。



「だって、私そういう“大きい舞台”向いてると思ってたし? 現場でも動けるし、頭も回るし、こう……適材適所っていうの?」



「お疲れさまですぅ♡」



「てか、黒宮さん、次の案件狙ってるんですか? え、違うなら私いくけど?」



「ん~、 仕事なんでぇ♡ 割り当てられたら、頑張るだけですよぉ♡」



佐伯はにんまり笑って、髪をかきあげた。



「そうなんですか~。ま、現場で評価されてる人がやるべきだしね? 黒宮さんって、最近ちょっと“まとめ役”みたいなポジションになりすぎてるし」



「うふふ♡ 佐伯さんも“まとめられてる側”として、頑張ってくださぁい♡」



その日から、妙に空気が張り詰めた。



社内資料の共有でわざとミスを指摘してくる佐伯。

「黒宮さん、最近ちょっと雑じゃないですか?」と、周囲に聞こえるように言う。

資料の提出順やメールの宛先で、まるで“自分が回してる”ように仕向けてくる。



私は黙々と修正対応しながらも、口元だけは笑っていた。



「すみません♡ 佐伯さんが完璧すぎてぇ♡ ミス、全部拾ってもらえて助かってまぁす♡」



そして迎えた月曜朝。部長から指示が出る。



「例の大型プログラム、企画推進担当として、“現場マネジメント役”を1名選出する。お前らのどっちかになると思うが、まずは現場レポート作って提出しろ」



「了解しました!」



先に声を出したのは佐伯だった。食い気味に、手帳を構える。



「私、LUCENTメンバー全員の直近スケジュールチェックしてあるので、そっちの分析とリンクさせて出します。あと現場スタッフからもヒアリング済みです」



「お~ぅ、動き早いな」



部長が苦笑し、佐伯はちらっと私を見る。



「黒宮さん、レポート得意そうだから、あとから“仕上げ”だけやってもらえば?」



「やだぁ♡ 佐伯さんの“下請け”みたいでぇ♡ でも頑張りまぁす♡」



「……は?」



私たちのやりとりに、向かいのデスクで書類をめくっていた霧島が小声でぼやく。



「佐伯、普通に攻めてきてるな……」



「ただの資料戦じゃん。黒宮さんに勝てるわけないっしょ」



隣の天城がぼそっと返す。声が聞こえていたのか、佐伯が振り返った。



「え? 何? 私、ちゃんと“現場寄り”の意見出してますけど? 黒宮さんより感覚あるし?」




私は立ち上がると、何も言わずスッと自席を離れた。



佐伯が小さく舌打ちしたのが聞こえた気がした。
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