異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

文字の大きさ
33 / 80
第一章 手に入れた能力

落ち込む トルデンside

しおりを挟む
 トモヤは全快したようだった。でも、本格的に訓練を始める前にちょっとくらい、トモヤと一緒に観光してもいいですよね?本当ならすぐにでも雷の魔術の訓練をすべきかもしれない。でも、まだルウファでの作業をしていなかったので、そちらを優先する方がいいと自分に言い聞かせて、トモヤを連れてルウファへと向かった。

 トモヤにルウファ名産を食べさせてあげたいな。トモヤは何でも好き嫌いせず勢いよく食べる。いつもそれを見る度に食べ物は逃げないのにどうしてそんなに急いで食べるんだろうと不思議に思いながらも微笑ましかった。案の定、トモヤはピニャンを小さい口に頬張り、パリンチョスをパリパリ言わせながら食べている。

 トモヤはルウファの広場で男同士の恋人を見て驚いていた。どうもトモヤの世界では普通ではなかったのだろうか?トモヤはよく分からないと言ったけど、もしトモヤが女性としか付き合わないと言うのなら、それはそれでちょっと嫌だなって思ってしまった。でも、それがどうしてか分からない。自分もそう言うのにはめっきり疎いのだ。

 ユーシア、ホルアン、ジアルに合流し、少しの時間を過ごした。ユーシアに今回の神託について尋ねるもやはり詳しくは知らないようだった。トモヤを私の管理下に置いたけど、どうしても不安を拭うことができなかった。帰りの馬車の中でトモヤに、ムヒアス神官が見つかったら元の世界に戻った方がいい、そう言った。その方がいいと分かっているのに、その言葉を伝える自分がひどく嫌だった。何も答えないトモヤと一緒に外の景色を眺めた。

 本格的に訓練が始まった。トモヤには私が訓練に行くことを知って欲しくなくて朝早くから支度した。トモヤに母から貰い受けた金色の小さな宝石・トロンシロンを渡した。母が昔、私に託してくれたものだった。母の故郷・ルゥ国には精霊の加護があると言われていて、手に持って助けを求めた時、トロンシロンを渡した人間の元へ帰ることができる、と言われている。トモヤにそのことを伝えると半信半疑な表情をしたものの、確かめるように私の顔をじっくり見るので恥ずかしくなった。


ーーバリバリッ


 周りで見学していた騎士たちがどよめき、届かない範囲にいると分かっていても騎士たちは数歩下がっていた。雷の魔術を施した際に、勢い余って地面を削ってしまったのだ。

「素晴らしいですね……。もう少し具体的にイメージして行われるといいかもしれません」

 珍しくオークスが褒めたたえた後、アドバイスを言ってくる。確かにオークスは騎士団長に上り詰めるくらいなので、それなりの知識などがあるのだろう。トモヤといる時間がとても楽しくて愛おしくて、訓練せずにずっと傍にいたいなんて思ってた。でも、トモヤを守るためなら訓練も苦ではないなと思った。


ーーバリンッ


「トルデン様、できれば私に攻撃して欲しいのですが?」

 やはり人に使うのは苦手でオークスが仕掛ける攻撃を雷で打ち消していたら、オークスはめざとく注意する。

「トルデン様が魔術を使うようになったのはいい兆しです。ですが、このままではいけませんね。なので今日は違う訓練をしましょう」

 訓練が始まって数日が経った頃だった。オークスが嫌な笑みを浮かべてそう言った。その日は新人の騎士たちを交えてチームを組んでの訓練だった。逃げ回りながら新人の騎士に攻撃を任せ、こちらへ向かう攻撃を打ち消していた時だった。何試合かはそれでうまくいっていた。

「トルデン様、こちらの騎士見習いも交えてあげてください。あぁ、この子、今、トルデン様の保護下にいる召喚者様に似ていらっしゃいますよね」

 その一言が私をイラつかせた。他の騎士に比べて身長は低いものの、その子はトモヤには似ても似つかなかった。

「騎士見習いの子を訓練に交えるんですか?危険です」
「いえ、僕頑張ります!」

 オークスが相手チームの騎士の1人に何か伝えている。試合が始まるや否や、先ほどオークスに言われていた騎士は執拗に騎士見習いの子ばかり狙った。いくら攻撃を打ち消しても、何度もその子が狙われた。最後、その子に向かって炎の雫を放とうとした。炎のしずくは放たれると回避ができず、自信に引火すれば死に至る可能性もある。

(ダメだっ……!)

 心の中で叫ぶ声よりも先に、無意識に魔術を施し、雷の竜巻を起こしていた。晴天だったはずの空はどんよりした雲が渦巻き、集まった雲と雷は次第に大きくなり、その騎士を襲おうとした。

(コントロールできないっ!このままでは……)

 精神を落ち着かせようとしても興奮と焦りが入り混じり、無理だった。相手の騎士を傷つけたくなくて、どうすればいいか考える。まともに食らえばあの騎士は死に、恐らく周りも怪我をする。その時、トモヤのことを思い出して、騎士に直撃する寸前に消すことが出来た。消す時の衝撃でその騎士は結局怪我をしてしまった。かすり傷程度だと分かっていても、酷く落ち込んだ。怪我をさせただけでなく、雷の魔術を使うと興奮してしまう自分にも嫌気がさす。そんな自分をトモヤに見せたくなくて、この日から母の部屋で過ごすことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?

甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。 だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。 魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。 みたいな話し。 孤独な魔王×孤独な人間 サブCPに人間の王×吸血鬼の従者 11/18.完結しました。 今後、番外編等考えてみようと思います。 こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...