異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

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番外編 神の存在とは?

神はこちらを向いた オークスside

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 オークスはグルファン王国の騎士団長になったものの、あまり地位には興味がなかった。否、騎士団長という地位は気に入っているがもっとお金が欲しかった。オークスは人を殺すことなんてものは平気で最初傭兵になろうかと思っていたくらいだ。たまたまグルファン王国の騎士団長に腕を買われ、すぐに入団、その後はトントン拍子で出世した。まぁ、前騎士団長は不慮な事故で死んで可哀想だったが。

 話は戻って、オークスはお金が好きだった。オークスの出身は公になっていないがルウファの北側にある治安があまりよくないところだった。ルウファは大きな都市で、有名な図書館や市場や屋台などがあり多くの人々が行き交う。だから通常は治安がいいのだ。その北側の場所を除いて。そこは荒れ果て、輩や孤児、どうどうと街を歩くと目につくような他国の傭兵が集まる場所だった。鼻つまみ者が集う場所。小さい頃からそこに住んでいたオークスは盗みや殺しなど日常茶飯事だった。じゃぁ、どうしてグルファン王国の騎士になれたのか?

 ある時、珍しくルウファの中心地の方から運悪く迷子になったのか治安の悪い場所へやって来た男がいた。その男を殺した時、少し自分に似ていることに気付いた。その男の身ぐるみを剥いで、着てみて驚いた。肌触りのいい生地、その服からはいい香りもした。

 その服を手に取った時、どうしてかその綺麗な服を纏って街へ行ってみようと思った。街へ出てすぐ声をかけられた。

「おい、お前、どこ行ってたんだよ。あれ?お前、酒飲んでたはずなのに顔色元に戻ってるじゃねぇか」

 街に出てすぐ知り合いに会うとは思っていなかったが、この男の話を聞くと、つい先ほど酒場で知り合い、意気投合して剣の腕試しをしようと話していたらしい。この男は用をすましてから追いかけると言って、死んだ男は先に広場へ向かっていたらしい。恐らく自分に似た男は広場へ行くつもりがあの治安の悪い場所へ入り込んでしまったようだ。

 自分に殺された男についてはただツイてない奴だと思った。

「それで?お前、名前なんだっけ?」
「……オークスだ」
「そうそう、そんな名前だったよな」

 オークスは咄嗟に服に入っていた刺繍の名前を男に告げた。その名前は間違っていなかったようで、この日からオークスという名を名乗ることにした。

「よーし、この騎士団長の俺様と一騎打ちだ。神に誓ってもいい。俺が勝つ!」

 ふと目の前の男が軽い口調で神の名を出した。オークスは、神などもっぱら信じていなかった。いや、神の存在自体は知っていたが興味がなかったと言ってもいい。自分には無縁だと。「おい、やるぞ」と目の前の男が言った。もちろん本物の剣はなく、落ちている木の棒での試合となったが、オークスが圧勝し、尻餅をついたその男は目を丸くして驚いていた。まぁ、その男が酔っぱらっていたことと、治安の悪いあの場所を牛耳るほどになっていたオークスの力は凄いものだったのだ。

 そして、騎士団長に気に入られたオークスはそのまま騎士団に入り、自分に魔力があることや魔術についても学んだ。オークスがこれで満足する人間ならそれで良かった。しかしながら、オークスが満足できたのは最初の数年だった。酔っぱらっていない時の騎士団長はそこそこ腕がたち、オークスは楽しかった。ただある時から、オークスが優位に立つことが多く、最後にはオークスの方が圧倒的に強くなり、どうしてこんな奴が騎士団長なのだ?とも思い始めた。もちろん勤めていたら金貨が貰える。でも、オークスは何故か満たされなかった。そして、騎士団長の座を奪った。騎士団長の座は気に入ってはいたが、どこかつまらなくも感じていた。金だ。金がもっと欲しい。

 そうして今の生活に飽き飽きしていた頃、北東に位置する国で紛争が起きていた。そして、グルファン王国の南側にある2つの国も血気盛んな国でいつ戦争を起こそうかと燃え盛っている。その事実がオークスをワクワクさせた。自分は正義のために働くのは向いていないのだと思った。金と争いが好きなのだと知ったのだ。

 ちょうどその頃、第二王子が毒に倒れた。ある意味野心家とも言えるオークスは、国王陛下に一目おかれ少し前から神殿の管轄を託されていた。国が危機に陥ると神官に神託が下りてくる。これが利用できるのではないだろうか?オークスは神殿に初めて来た時、面白いものだと思った。神を崇め奉り、祈る神官たち。これではまるで本当に神がいるようだ。ただ本当に神がいたとして信託など本当に下りるのだろうか?まぁ、それは時が経てば分かることだと思い、行動に移すことにした。

 オークスは神託が降りてきていないかこまめに神官たちに確認した。召喚者はその時、必要な能力を持って召喚される。毒を治す能力だとしたらどの国も欲しがるだろう。オークスは神託が下りるよりずっと前に、神官たちのことを調べ上げていた。テヒシタには息子がいること、ムヒアスは外に女がいること、ククルカとインカには怪しい疑惑があること。何かを守る物がある人間はもろいものだ。

 ムヒアスの女はタルラーク国で国内に逃げられると厄介だ。神託がおりる前に捕らえておくだけ捕らえておくことにした。もしムヒアスに神託が下りなければ何かしらの理由をつければいい。保護してやったとか、神官の役割をほったらかして何をしているとか。

 神はこちらを向いた。ムヒアスに神託が下りたのだ。女の髪飾りのリボンを見せるとムヒアスはもうこちらの手中に落ちたも同然だった。ムヒアスの神託は必要最低限に抑えて周りに言うことにした。怪我を貰う能力。どうやって利用しようか。それしかオークスの頭にはなかった。

 ただ残念なことに利用しようと思っていた召喚者はやせ細った小さな子供だった。

(こんなみすぼらしいガキだなんて……)

 オークスはやって来た召喚者を見て悪態をついた。この世界には何故か治癒師がいない。だから怪我を貰う能力はとても便利なものになるだろうと確信していたのだ。確かにその召喚者はトルデン王子の毒を貰い受けていた。だが、あの毒は猛毒で、この貧相な身体では死ぬだろう。せっかく使いものになると思ったのに残念だ。オークスは透明な液体を吐く子供を見下ろした。

 小汚いものを触りたくないため、部下に押し付け死んだらすぐに処分するように伝えた。今回の召喚者含む、神殿の管理をオークスは国王陛下から託されていた。最近、国王陛下は外交にいそしんでいる。一見、友好的に振る舞い平和を目指すように動いているが、あれは裏があるとオークスは睨んでいた。でも、そのおかげで神殿を任されたのだからいい。まぁ、自分がちょっと野心家で、それを国王陛下も気に入ってくれていたのも後押ししたのだろう。
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