異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

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第三章 愛の逃避行

危険な自然界

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「友也、起きて。ご飯ですよ」

 翌朝、トルデンの声で目が覚めた。優しく起こすその声はまるで子供に言うかのようで、少し笑った。まともな親ならこんな風なやりとりも日常的にあったのかもしれない。

 昨日の料理に使われていたサボテン・ラッスの素焼きに、白い粉で練られたパン、ブンオバのヨーグルトで、今日もどれも美味しそうだ。

「いてっ」

 昨日は素手で食べられるものが多かったが、今日出たラッスの素焼きをフォークで刺そうとした時、トルデンの傷を貰い受けた手が引きつった。声を上げるつもりはなかったが、自然と出てしまっていた。案の定、トルデンは心配そうな顔でこちらを見ている。

「今のは思わず出ただけで、ほとんど治ってるんだ。ライリスの水を浴びて飲んだおかげか本当に痛みはないんだ」

 トルデンは何か言おうとして口を閉ざして、ご飯を食べ始めた。2人で黙々と食べているとトルデンが「友也」と呼びかけた。

「どうした?」
「訓練してみませんか?」
「訓練?」
「はい。今、友也は手を掲げなくても怪我を貰い受けてしまいます。それを訓練して手を掲げるだけで怪我を貰えるようにするんです」
「そんなことできるのか?」
「……分かりません。でも、やってみないと分からないでしょ?」

 トルデンにしては適当な返事だったが、まぁ自分の意志で吸収できるようになれば不意にもらうこともなくなる。「そうだな」と返事をするとトルデンは嬉しそうに微笑んだ。

「でも、練習するにしても友也には苦痛が伴ってしまいます。どうやって訓練するかを考えておくので、今日は供え物を集めに行きましょう。ラハナ国ではラッスの棘とラーハンの鱗、ガムソルの実、あとウイエグルの糸です。まずは地上に戻りましょう。友也、いいですか?」

 トルデンが優しくオレの手を取り上げると小指にモグイエナの糸を括り付けた。オレの右手の小指とトルデンの左手の小指がくっついた。地上で解けると暑くて死んでしまうから、トルデンとくっついておかないとだな……。

 どうやって地上へ行くのか分からず、トルデンが宿屋の店主に尋ねるとライリスの泉の傍に光が差し込む場所があり、そこに立つと上へと行けるらしい。トルデンと向かい、言われた場所に立つと、下から湧き上がるように砂が巻き起こり、砂がトルデンとオレを包み込むように囲んだ後、上へと連れて行った。なんか異世界って感じだ。

 次に目を開けるとそこは昨日と同じ砂漠が広がっていた。一歩踏み出すごとに熱くて汗が垂れる。モグイエナの糸を巻いていてこれってどういうことなんだよ。

 まず手にいれに向かったのはラッスの棘だ。ラッスはサボテンでそこらに生えているらしい。パッと見ると確かにそこかしこにサボテンが生えている。

「おっ、これじゃないか?」
「友也、ダメ!危ないっ」

 そう言って手を伸ばそうとした時、トルデンが慌てて繋がった小指の紐を引っ張るようにしてサボテンからオレを引き離した。

「ど、どうした?」
「友也、あのサボテンはラッスではなくてダッスという名前のサボテン。似ているんですが違うんです。友也、この世界には似ている生き物や植物がありますが、危険な物も多いので簡単に触ってはダメですよ?」

 トルデンがそう言った後、後ろの方でボッカーンという爆発音が聞こえた。恐る恐る振り返ると少し離れた所でダッスが爆発したようだ。棘が飛び散り、ネズミのような生き物が息絶えている。トトトというネズミがダッスに触れたようだ。よく見ると蛇のような生き物も息絶えている。

「あ、ちょうど良い所に。ラーハンの鱗が手に入りそうです」

 トルデンは転がっている蛇・ラーハンの鱗を剥した。ラーハンは噛むと相手を砂にし、自分の養分にする。狙われたトトトが逃げて、ダッスにぶつかり、ダッスが爆発して大惨事になったようだ。うーん、自然界まっしぐらだな。

 爆発したダッスのすぐ近くにあったサボテン・ラッスの棘を抜き、次の供え物を探した。ガムソルの実は硬い草が丸まったものでそこらへんに落ちていたので、こちらもすぐに手に入った。あとはウイエグル?の糸だ。糸と言うからにはまたクモのような生き物だろうか?

「ウイエグルの糸にはラーハンの鱗を使います」

 トルデンにくっつくようにして歩くと、少し先に看板が見えた。看板には『ウイエグルの住処』と書いてある。あれ?ウイエグルってそんな観光名所みたいなとこなの?

 看板の方を見ると砂漠のど真ん中に大きな砂で出来た小屋がある。チラホラと人だかりができて、ウイエグルを見ているようだ。ようやくたどり着いた先でウイエグルを見て絶句した。ウイエグルはとてつもない大きな蜘蛛でちょっと怖かった。

「フフッ、友也、ウイエグルは大人しい生き物なので大丈夫ですよ」
「別に平気だ。それよりもトルデン、敬語に戻ってるぞ」

 トルデンがあやすように言うのに腹が立ち、敬語に戻っていることを指摘してやる。ウイエグルの八本の脚、その下にある丸まった白い塊をトルデンは拾い上げた。それにラーハンの鱗をかざすと、シュルシュルと解け、糸となった。

「ウイエグルの糸は剣のように鋭く切れるので気を付けて下さいね」

 トルデンが供え物袋を取り出したので手に入れた素材を中へと入れて行く。どんな大きさな物でもいとも簡単に飲み込める小さな袋。また違うものを入れようとしても受け付けないこの袋はいったい何なんだろう。全て供え物袋に入れた後、トルデンと宿屋へと帰ることにした。


【集めた素材】
サボテン・ラッスの棘(栄養価が高い、料理に使える)
植物・ガムソルの実(料理にも使える、乾燥防止)
蛇・ラーハンの鱗(噛むと相手を砂にし、自分の養分にする、ラーハンの鱗は硬化解除の効果がある、ウイエグルの糸を手に入れる時にも使う)
クッモ・ウイエグルの糸(刃のように切り裂く)
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