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回想
しおりを挟む駅からの記憶はなく、いつの間にやら帰っていた自宅で何本目かになるビール缶を開ける。
「私はいい歳したオッサンなんだ。それに上司と部下…立場を弁えてないから恥ずかしい思いをしたんだ…」
そう、会社の上司と部下。それ以上でもそれ以下でもない。
「寂しいなぁ…」
心にポッカリと穴が開いたように身体が寂しくなる。
いつからだろう、伊澤を求める様になったのは。もともと、女性とそれなりのお付き合いをしていたのに、仕事が忙しくなって以来お付き合いをする機会すらなくなってしまった。そして数年前…
とある商品がヒットして、そのお祝いに営業部全体で飲み会を開いた時だった。
伊澤のことはキレイな顔をした人がいるなぁとは思っていたけど、それだけだった。
久しぶりの飲み会と言うこともあり、みんなして羽目を外してしまっていた。本来は私が止めるべきであったが、私も存外楽しくなってしまいそこまで強くないアルコールを浴びる様に飲んでしまっていた。
後悔した時にはもう遅く、トイレの便器とお友達になっていた。
「部長!大丈夫ですか?お水もってきますね。」
潰れる部下が多い中、彼だけは素面を保っていて、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
「すまない。こんな情けない所を見せてしまって。もう大丈夫だから、君は席に戻って…」
「情けなくなんかないです。部長も人間なんだなって勝手に親近感沸いたぐらいです。いつも仕事が早くて完璧で隙が無いと思ってたのに、お酒でつぶれることもあるんだって。たまには羽目外しても誰も咎めないし、反対にみんな喜びますよ。」
真っ直ぐした目でそう言われて、年甲斐もなく鼓動が早くなってしまった。これはお酒のせいだと思い込むようにしても、その日から彼の周りが眩しくて。
嵌ってしまった…一回り以上も下の同性に。
それからは、仕事が楽しく感じるほどに恋愛してしまい、年々恋心を拗らせていった。
そして、今日女性と仲睦まじい姿を見てしまった。
これからは尊敬してもらえる上司を目指そう。恋心は置いておいて、上司としてだらしない姿は見られないように。
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