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第4話
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カフェでの料理は美味しかったのだと思う。だけど私には何の味もしなかった。
馬車の中では、ハロルドとナタリーが楽しそうに会話するのを聞きながら、ハロルドがナタリーの味方をした事、そして私に向けられた僅かな叱責混じりの言葉を頭の中で反芻していた。
私は家に帰って、誰にも何も言わずに急いで自室へと閉じ籠もる。
少しすると、控え目なノックの音が聞こえ
「お嬢様、ハーブティーを淹れましょうか?」
と私の侍女であるバーバラが声を掛けてくれた。
きっと、私の様子がおかしいからと、気を使ってくれたのだろう。
バーバラは私が幼い頃からの専属侍女だ。ナタリーは我が儘が多いため、侍女の入れ替わりが激しいが、私にはずっとバーバラが付いてくれている。
出来ればパトリック伯爵家に嫁いでも付いてきて欲しかったのだが、ハロルドからダメだと言われ、泣く泣く諦めた。
「……どうぞ」
と私が返事をすれば、茶器を乗せたワゴンを押しながらバーバラが入って来た。バーバラももう三十を過ぎている。彼女とは十五年程の付き合いだ。
「お嬢様の大好きなレモングラスですよ」
と私の眼の前に爽やかな香りのお茶が置かれた。
バーバラは何も尋ねない。私が話したくなるまで、余計な事は言わないで待っていてくれるのだ。
「……私って自分が優秀だと人を見下している様に見えているのかしら?」
「誰がそんな馬鹿な事を……。お嬢様は努力の人です。こう言っては何ですが、特別頭が良い訳でも、手先が器用なわけでもありませんよ」
バーバラは時に歯に衣着せぬ物言いをするが、それが彼女の本心だと伝えてくれているようで、私は嬉しい。
「……そうね。学園の課題だって、きっと人一倍時間がかかっているし、刺繍だって何回指に針を刺したことか……」
と言って、私は今日のカフェでの出来事を思い出して口籠る。ハロルドは私からの贈り物だったハンカチをあのまま泣き止まぬナタリーにあげてしまったのだ。パトリック伯爵家の家紋でもある鷲の刺繍……。結構時間がかかったのにな……。
すると私の目の前がぼやけてきた。
「お嬢様。私はお嬢様の努力を知っています。きっと分かる人には分かっていますよ」
とバーバラが私の手にハンカチを渡した。どうやら私は泣いてしまった様だ。
「そうなら良いな……と思うわ。でも、お父様もお母様も……『姉だから』と。私はその一言で何も言えなくなってしまうのに……」
分かって欲しい人には、私の努力は伝わらない。ナタリーが遊んでいる間、ぐっすり寝ている間、私は遊ぶ間も、寝る間も惜しんで、アーサーやお母様の手助けが出来る様、お父様のお仕事を学んでいるのだが、知っているのは、きっとこのバーバラだけだ。
そうやって俯いてしまった私の頭をバーバラは抱き締めた。
「お嬢様は、甘えるのが下手くそなんですよ。もう少し甘えて下さい。私が受け止めます」
そう言ってくれるバーバラに私は泣き笑いの表情になりながら、
「バーバラにはいつも甘えてばかりよ。こうして私の気持ちが落ち込んだ時には、必ず側に居てくれるもの」
とバーバラの腰の当たりに抱きついた。
両親にも妹の様に無邪気に甘える事が出来ない私は、あまり可愛げのない子どもだった事だろう。
天真爛漫な妹を羨ましく思いながらも、自分は自分だと言い聞かせてきた。
ハロルドに出会って、あの優しさに甘えているつもりだったけれど、ナタリーの様に……とはいかないのが現実だ。
馬車の中では、ハロルドとナタリーが楽しそうに会話するのを聞きながら、ハロルドがナタリーの味方をした事、そして私に向けられた僅かな叱責混じりの言葉を頭の中で反芻していた。
私は家に帰って、誰にも何も言わずに急いで自室へと閉じ籠もる。
少しすると、控え目なノックの音が聞こえ
「お嬢様、ハーブティーを淹れましょうか?」
と私の侍女であるバーバラが声を掛けてくれた。
きっと、私の様子がおかしいからと、気を使ってくれたのだろう。
バーバラは私が幼い頃からの専属侍女だ。ナタリーは我が儘が多いため、侍女の入れ替わりが激しいが、私にはずっとバーバラが付いてくれている。
出来ればパトリック伯爵家に嫁いでも付いてきて欲しかったのだが、ハロルドからダメだと言われ、泣く泣く諦めた。
「……どうぞ」
と私が返事をすれば、茶器を乗せたワゴンを押しながらバーバラが入って来た。バーバラももう三十を過ぎている。彼女とは十五年程の付き合いだ。
「お嬢様の大好きなレモングラスですよ」
と私の眼の前に爽やかな香りのお茶が置かれた。
バーバラは何も尋ねない。私が話したくなるまで、余計な事は言わないで待っていてくれるのだ。
「……私って自分が優秀だと人を見下している様に見えているのかしら?」
「誰がそんな馬鹿な事を……。お嬢様は努力の人です。こう言っては何ですが、特別頭が良い訳でも、手先が器用なわけでもありませんよ」
バーバラは時に歯に衣着せぬ物言いをするが、それが彼女の本心だと伝えてくれているようで、私は嬉しい。
「……そうね。学園の課題だって、きっと人一倍時間がかかっているし、刺繍だって何回指に針を刺したことか……」
と言って、私は今日のカフェでの出来事を思い出して口籠る。ハロルドは私からの贈り物だったハンカチをあのまま泣き止まぬナタリーにあげてしまったのだ。パトリック伯爵家の家紋でもある鷲の刺繍……。結構時間がかかったのにな……。
すると私の目の前がぼやけてきた。
「お嬢様。私はお嬢様の努力を知っています。きっと分かる人には分かっていますよ」
とバーバラが私の手にハンカチを渡した。どうやら私は泣いてしまった様だ。
「そうなら良いな……と思うわ。でも、お父様もお母様も……『姉だから』と。私はその一言で何も言えなくなってしまうのに……」
分かって欲しい人には、私の努力は伝わらない。ナタリーが遊んでいる間、ぐっすり寝ている間、私は遊ぶ間も、寝る間も惜しんで、アーサーやお母様の手助けが出来る様、お父様のお仕事を学んでいるのだが、知っているのは、きっとこのバーバラだけだ。
そうやって俯いてしまった私の頭をバーバラは抱き締めた。
「お嬢様は、甘えるのが下手くそなんですよ。もう少し甘えて下さい。私が受け止めます」
そう言ってくれるバーバラに私は泣き笑いの表情になりながら、
「バーバラにはいつも甘えてばかりよ。こうして私の気持ちが落ち込んだ時には、必ず側に居てくれるもの」
とバーバラの腰の当たりに抱きついた。
両親にも妹の様に無邪気に甘える事が出来ない私は、あまり可愛げのない子どもだった事だろう。
天真爛漫な妹を羨ましく思いながらも、自分は自分だと言い聞かせてきた。
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