22 / 121
第22話
しおりを挟む
「どうしたの?」
アーサーと揉めて(?)いるのはレナード様だった。
「あ!お嬢様!クレイグ辺境伯ご子息様が此処には泊まらず、他の宿を探すと」
とアーサーが私に報告する様に話すと、
「……レナードで良い」
とポツリと彼は呟いた。
「レナード様、何かこちらに不手際が御座いましたでしょうか?」
私が尋ねると、
「…理性が保たない……ゴホン!いやいや、迷惑をかけたくない」
何故かレナード様は咳込みながらそう言った。
「迷惑だなんて、そんな。兄が大変お世話になったお礼もまだですのに……」
「礼など必要ない」
「いえ。準備が不十分で満足なおもてなしは出来ないかもしれませんが、湯と温かな食事ぐらいは。せめて今晩だけ。疲れた体をお休めになって下さい……それに……」
「それに?」
「栞のお礼もまだです」
と私が微笑めば、レナード様は顔を真っ赤にして俯いた。
「お兄様……今後はどうするつもり?」
食事が終わり、湯浴みを済ませた兄の部屋を訪れた私が尋ねる。兄は一人で湯浴みをするのが難しいらしく、使用人に手伝って貰っていた。想像以上に足の怪我は重そうだ。
「僕の我が儘が許されるとは思っていない。でも……僕がここを支えていくよ。一応領主となるべく勉強はしてきたんだ。反発心があったとしても、やるべきことはやっていたつもりだ。父上の代わりに仕事をするよ」
「……お父様に会いに行った?」
「あぁ、母上が湯浴みしている隙にな。随分と痩せた」
「栄養を血管に流していても、食べ物をとっていないもの。お父様が倒れてからもう半年以上よ?……お医者様にも何度か覚悟した方が良いと言われたわ。お母様もそれで参ってしまっているの」
と私が顔を伏せると、
「本当に……すまなかった!」
と兄は椅子に腰掛けたまま深々と頭を下げた。
「私に謝っても……。でもね、お兄様が原因でたくさんの人に迷惑を掛けた事は忘れないで。マリアベル様だって……」
「アーサーに聞いた。賠償金も支払ったと。……僕は本当に馬鹿だ。自分の事しか考えていなかった」
いくら後悔しても、もう遅い。だが兄を責めた所で、事態が好転するわけではない。
せめて、母の負担を減らしてくれるのを期待するしかない。
兄の部屋を後にした私は、母の部屋へと向かう途中、薄暗くなった庭に人の気配を感じて、窓の側へと近寄った。
「……レナード様……?」
目を凝らして見ると、庭に居るのはレナード様だった。
アーサーと揉めて(?)いるのはレナード様だった。
「あ!お嬢様!クレイグ辺境伯ご子息様が此処には泊まらず、他の宿を探すと」
とアーサーが私に報告する様に話すと、
「……レナードで良い」
とポツリと彼は呟いた。
「レナード様、何かこちらに不手際が御座いましたでしょうか?」
私が尋ねると、
「…理性が保たない……ゴホン!いやいや、迷惑をかけたくない」
何故かレナード様は咳込みながらそう言った。
「迷惑だなんて、そんな。兄が大変お世話になったお礼もまだですのに……」
「礼など必要ない」
「いえ。準備が不十分で満足なおもてなしは出来ないかもしれませんが、湯と温かな食事ぐらいは。せめて今晩だけ。疲れた体をお休めになって下さい……それに……」
「それに?」
「栞のお礼もまだです」
と私が微笑めば、レナード様は顔を真っ赤にして俯いた。
「お兄様……今後はどうするつもり?」
食事が終わり、湯浴みを済ませた兄の部屋を訪れた私が尋ねる。兄は一人で湯浴みをするのが難しいらしく、使用人に手伝って貰っていた。想像以上に足の怪我は重そうだ。
「僕の我が儘が許されるとは思っていない。でも……僕がここを支えていくよ。一応領主となるべく勉強はしてきたんだ。反発心があったとしても、やるべきことはやっていたつもりだ。父上の代わりに仕事をするよ」
「……お父様に会いに行った?」
「あぁ、母上が湯浴みしている隙にな。随分と痩せた」
「栄養を血管に流していても、食べ物をとっていないもの。お父様が倒れてからもう半年以上よ?……お医者様にも何度か覚悟した方が良いと言われたわ。お母様もそれで参ってしまっているの」
と私が顔を伏せると、
「本当に……すまなかった!」
と兄は椅子に腰掛けたまま深々と頭を下げた。
「私に謝っても……。でもね、お兄様が原因でたくさんの人に迷惑を掛けた事は忘れないで。マリアベル様だって……」
「アーサーに聞いた。賠償金も支払ったと。……僕は本当に馬鹿だ。自分の事しか考えていなかった」
いくら後悔しても、もう遅い。だが兄を責めた所で、事態が好転するわけではない。
せめて、母の負担を減らしてくれるのを期待するしかない。
兄の部屋を後にした私は、母の部屋へと向かう途中、薄暗くなった庭に人の気配を感じて、窓の側へと近寄った。
「……レナード様……?」
目を凝らして見ると、庭に居るのはレナード様だった。
2,530
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる