婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?

初瀬 叶

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第29話

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「それではジュード、アーサー仕事をよろしくね。マージ、チャールズの事は貴女に任せるわ」
母が馬車を見送る為に外へと出て来た三人に声を掛けた。

「母上、任せて下さい。それと……エリン結婚おめでとう。式には行けないが、お前の幸せを願ってるよ。レナード様は立派な方だ。お前は絶対幸せになる」
と兄は言うと、私の耳に口を寄せて

「あのハロルドよりよっぽど良い男だ」
と小声で私にそう言ってウィンクした。
その言葉に私はつい苦笑いしてしまう。

「お兄様ったら……。でもレナード様を知っているお兄様の言葉だもの。何だかとても安心したわ。足……辛くない?屋敷に戻っても良いのよ?」

「大丈夫だよ。本当に痛みは殆ど無いんだ。辺境伯領の医者はとにかく名医でね。怪我の多い騎士団に無くてはならない存在だ。お陰でこうして普通に暮らす分には何の問題もない。まぁ……夜会でダンスは踊れないだろうがな」
と兄は肩をすくめた。

「元々ダンスは苦手なくせに」
と私が言えば、

「違いない」
と兄は笑った。

「お嬢様、本当におめでとうございます。お嬢様なら、間違いなく幸せになれますよ」
とアーサーが言えば、マージも

「本当におめでとうございます。あんなに小さなお嬢様がもうこんなに立派になられてお嫁にいくなんて……」
と泣き出してしまった。

「マージ……貴女にはたくさんの事を教えて貰ったわ。苦い薬を苦労せずに飲む方法とか、怖い夢を見た夜の過ごし方とかね……本当にありがとう」
と私が礼を言うと、マージはますます号泣してしまった。

「さぁさぁ、もう発つ時間だわ。一日目の宿は料理がとても美味しいらしいのよ。私も久しぶりの外出だし、とても楽しみよ」
と母はそのしんみりとした空気を切り替える様に手を叩いて明るく言った。
心の片隅には、父への心配がある筈の母が、こうして笑顔を見せてくれているのは、全て私を明るく送り出す為だ。私もそれに乗っかる様に

「え?そうなの?何だか私も楽しみになってきたわ」
と笑う。私はもうストーン家の人間ではなくなるのだが、だからと言って血の繋がりが切れる訳ではない。距離が離れたとしても心が離れる事もない。

私と母、そしてバーバラで馬車に乗り込む。
私が十八年間生まれ育った大切な我が家を最後にもう一度眺めると、馬車は馬のいななきと共に出発した。
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