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第38話
しおりを挟む「いえ……。そんな大した事ではありません」
「何と言われた?」
逃げられそうに無いことを悟った私は、
「僕を馬鹿にしているのだろう……と。もちろん私は全くハリソン様の事も存じ上げておりませんでしたので、そんな事はないのですが……」
と答えた。
「兄は……難しい人なんだ。騎士として生きていくには、駄目な事が多すぎる。食は細いし、好き嫌いが多い。騎士は野営する事も多い。特に我が騎士団はな」
「確かにそこで選り好みをする訳には参りませんよね」
「そうなんだ。それに筋肉のつきにくい体というか……鍛錬についていく体力も気力も足りない。騎士としての適正に欠けるという判断だ。辺境伯を継ぐ者は騎士団団長を継ぐ者。昔からそう決まっている」
「でも、ハリソン様はそれに納得がいっていないのですね。だからあんな風に……」
「エリンが来た晩の夕食だってあのざまだ。不機嫌さを隠そうともしない」
「冷静さを欠いては団長を務めるのも難しい様に思います」
と私が頷けば、
「俺も最近では冷静さを欠いているが……」
とレナード様はポツリと呟いた。そして、
「嫌な思いをさせた。すまん」
と謝った。
「レナード様が謝るような事ではありませんし、理由がわかったので。それに……私、少しハリソン様の気持ちがわかるんです」
そう私が言うと、レナード様は
「わかる?何故?」
と驚いたようにそう言った。
するとそこにちょっとしたガゼボが現れた。
レナード様は私をそこへと誘導する様にエスコートして、
「ワンピースが汚れる」
と素敵な刺繍の入ったハンカチを椅子の上に広げて私を座らせた。
私はちょっとだけモヤリとする。あの刺繍……まさか女性に頂いたハンカチ……なんて事はないわよね?私ですら、騎士に自ら刺したハンカチを渡す意味を知らないわけではない。……うーん、モヤモヤ。
そんな私には気づかず、レナード様は
「兄の気持ちがわかると言ったな。何故だ?」
と私に尋ねた。私はハンカチの件を一旦頭から追い出して、
「私に妹がいるのはご存知ですよね?」
と話を切り出した。
「もちろん」
「私もハリソン様と同じ様に……ずっと妹へコンプレックスを持っておりました」
「……何故だ?」
「レナード様はご存知ないでしょうが、妹はとても可愛らしくて。少し我が儘な所がありますが、そういう女性が好きな殿方もいらっしゃるでしょう?それに……そんな彼女を何故か憎めないのです。コンプレックスは持っていますが、仲が悪いかと問われればそんな事は全くないと答えます。ただ、羨ましく思う時は、往々にしてありましたわ」
私は素直に自分の気持ちを話た。折角、夫婦になったんだもの。嘘や偽りで自分を飾るのは、もうやめたい。
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