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第52話
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二人は何だかんだと揉めていたが、
「レナード!これは王太子命令だ。今から鍛錬場に向かえ」
「職権乱用だ」
結局、相手は王太子殿下。レナード様は私の方へ顔を向けると、渋々言った。
「……エリン、君はどうする?鍛錬場について来ても良いが……あそこは男ばかりだし……」
最後の方はブツブツと何か言っていたが、私が退屈しないのか心配して下さっているのだろう。
「では、私は先に帰らせていただいても?少し買い物もして帰りたいので……」
と私が言えば、レナード様はまた心配する様に、
「一人で大丈夫か?」
と尋ねてきた。私はその言葉にクスクスと笑う。
「バーバラも馬車におりますし、王都ではいつも一人で出歩いておりましたから、大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
そんな私の答えに、レナード様は
「気をつけて」
と頭を撫でた。
「はぁ~?私が今見ているのは本当にレナードか?レナードの偽物ではないか?女に気遣うお前など、お前らしくない!」
と王太子殿下が大袈裟に驚いてみせた。
「うるさい」
静かなレナード様とは対照的に
「可愛い新妻が心配なのだな。メイリンが元気ならお茶の相手でも……と思ったが、生憎、今は悪阻で体調が悪いんだ、すまんな」
明るく殿下はそう言った。メイリン様は王太子妃だ。今、第一子を妊娠中との事で、とてもそんな人に私の相手など頼める筈はない。
「レナード様、私は大丈夫ですから。殿下、メイリン妃殿下の体調が良くなる事を心からお祈りいたしております。元気な御子様をとお伝え下さい。それでは私は先に下がらせていただきますね」
私は深々と腰を落とした。
レナード様はまだ何か言いたそうにしていたが、殿下が、
「さぁ!レナード、行こう!」
と急かすものだから、ため息を盛大に吐くと、私に小さく頷いた。
私はレナード様と別れ馬車に向かう。
「あれ?旦那様は?」
「何でも殿下の剣のお相手をしなくてはならないらしいわ。今日の挨拶も私の顔が見たいというより、レナード様に会いたくて堪らなかったという感じだったもの。レナード様が王宮へ来るのが気乗りしない様子だったのは、こうなる事がわかっていたからかも」
馬車で待っていたバーバラに事の顛末を告げて、私達は街へと買い物へ出掛けた。
「ハンカチですか?」
「ええ。刺繍が得意な訳ではないけれど、レナード様に……と思って。まだ辺境での買い物に慣れていないから、見知ったお店の方が買いやすいわ」
バーバラに答えながら、私はハンカチと刺繍糸を馴染の店で選ぶ。クレイグ辺境伯の家紋は狼。本でしか見たことはないが、挿絵にあった毛並みの色を思い出しながら、糸を探した。
買い物を終えて馬車で街を抜ける。そこでとても綺麗な花々を並べた花屋へと差し掛かった。
「バーバラ見て、あのガーベラ、とても可愛いくて綺麗だわ」
「本当に」
私はその花屋に寄るべく、馬車を停めるよう御者に声を掛けた。
「お花を?」
「ええ。お庭のお花も綺麗だけれど、あんな見事なガーベラはなかったから。お父様もお好きな花だし」
そんな事をバーバラと話しながら馬車を降りようとしたその時、
「待って!バーバラ、隠れて!」
と私は馬車の影にバーバラを引っ張った。
「ど、どうしたのです?!」
「シッ!あれ、見て」
と私が指差した先には、ブロンドの綺麗な女性にハロルドが真っ赤な薔薇の花束を渡しているのがはっきりと見えた。
「レナード!これは王太子命令だ。今から鍛錬場に向かえ」
「職権乱用だ」
結局、相手は王太子殿下。レナード様は私の方へ顔を向けると、渋々言った。
「……エリン、君はどうする?鍛錬場について来ても良いが……あそこは男ばかりだし……」
最後の方はブツブツと何か言っていたが、私が退屈しないのか心配して下さっているのだろう。
「では、私は先に帰らせていただいても?少し買い物もして帰りたいので……」
と私が言えば、レナード様はまた心配する様に、
「一人で大丈夫か?」
と尋ねてきた。私はその言葉にクスクスと笑う。
「バーバラも馬車におりますし、王都ではいつも一人で出歩いておりましたから、大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
そんな私の答えに、レナード様は
「気をつけて」
と頭を撫でた。
「はぁ~?私が今見ているのは本当にレナードか?レナードの偽物ではないか?女に気遣うお前など、お前らしくない!」
と王太子殿下が大袈裟に驚いてみせた。
「うるさい」
静かなレナード様とは対照的に
「可愛い新妻が心配なのだな。メイリンが元気ならお茶の相手でも……と思ったが、生憎、今は悪阻で体調が悪いんだ、すまんな」
明るく殿下はそう言った。メイリン様は王太子妃だ。今、第一子を妊娠中との事で、とてもそんな人に私の相手など頼める筈はない。
「レナード様、私は大丈夫ですから。殿下、メイリン妃殿下の体調が良くなる事を心からお祈りいたしております。元気な御子様をとお伝え下さい。それでは私は先に下がらせていただきますね」
私は深々と腰を落とした。
レナード様はまだ何か言いたそうにしていたが、殿下が、
「さぁ!レナード、行こう!」
と急かすものだから、ため息を盛大に吐くと、私に小さく頷いた。
私はレナード様と別れ馬車に向かう。
「あれ?旦那様は?」
「何でも殿下の剣のお相手をしなくてはならないらしいわ。今日の挨拶も私の顔が見たいというより、レナード様に会いたくて堪らなかったという感じだったもの。レナード様が王宮へ来るのが気乗りしない様子だったのは、こうなる事がわかっていたからかも」
馬車で待っていたバーバラに事の顛末を告げて、私達は街へと買い物へ出掛けた。
「ハンカチですか?」
「ええ。刺繍が得意な訳ではないけれど、レナード様に……と思って。まだ辺境での買い物に慣れていないから、見知ったお店の方が買いやすいわ」
バーバラに答えながら、私はハンカチと刺繍糸を馴染の店で選ぶ。クレイグ辺境伯の家紋は狼。本でしか見たことはないが、挿絵にあった毛並みの色を思い出しながら、糸を探した。
買い物を終えて馬車で街を抜ける。そこでとても綺麗な花々を並べた花屋へと差し掛かった。
「バーバラ見て、あのガーベラ、とても可愛いくて綺麗だわ」
「本当に」
私はその花屋に寄るべく、馬車を停めるよう御者に声を掛けた。
「お花を?」
「ええ。お庭のお花も綺麗だけれど、あんな見事なガーベラはなかったから。お父様もお好きな花だし」
そんな事をバーバラと話しながら馬車を降りようとしたその時、
「待って!バーバラ、隠れて!」
と私は馬車の影にバーバラを引っ張った。
「ど、どうしたのです?!」
「シッ!あれ、見て」
と私が指差した先には、ブロンドの綺麗な女性にハロルドが真っ赤な薔薇の花束を渡しているのがはっきりと見えた。
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